季節外れの花火
あふぅ「なーの、なーの!」グイグイッ
P「あ?なんだよあふぅ・・・」
昼休み、俺が春香たちのバラエティー番組収録を終えて事務所へ帰還、コーヒー片手に一息ついていたとき。
ソファで昼寝中だったはずのあふぅが、俺のところに駆け寄ってズボンの裾を引っ張る。
また何かおねだりするのか?やれやれ、おにぎりで済むといいな・・・。
あふぅ「なーのなの!」
P「ハイハイ、なんだなんだ・・・」
その時、あふぅがソファのそばのテレビに飛び乗り、電源を入れる。
ヒューーン・・・
ドドーーン!!ドドーーーーン!!!!
花火大会の映像だ。
録画しておいた、土浦花火大会の映像だった。
ビデオをデッキに入れっぱなしにしておいたので、日ごろテレビのリモコンをいじって遊んでいるあふぅが、何かの拍子で再生したんだろう。
流石に日本三大花火大会、すげー迫力だぜ。
P「ああ・・・音楽に合わせてどーーんとくるのがいいんだよな・・・」
あふぅ「なーーの!!!#」ブンブンブン
満足げに俺が花火大会の映像を見ていると、突然あふぅが顔を紅潮させ、首を左右に激しく降り始める。
怒っているのは分かるが・・・いったい何が言いたいんだ。
P「・・・あ?なんなんだよ・・・
やよいー、ちょっと通訳してくれー」
やよい「うっうー、今行きますっプロデューサー」
ぷちの言葉は犬猫の鳴き声と似たようなもんだ。
それでも多少は身振り手振りで理解できるが、細かいニュアンスは相変わらず、響とやよいを介さねば分からない。
二人がすごいのか、それとも俺がアホなのか?
それでもこいつらぷちよりはマシだろうが。
あふぅ「ナーノナノナノっ」
やよい「・・・うん、うん。
あふぅちゃん、あの花火大会に行きたいんだそうですっ」
・・・たったそれだけのことを、ちゃんと伝えられんのかこのドアホは・・・。
P「・・・いや、それはムリだな。
ありゃもう今月の頭に終わってるんだよ」
あふぅ「ナーーーーー!!!!#」
P「いや、そういわれたって仕方ねえだろ。
また来年には連れてってやるよ」
あふぅ「ナーーーー!!!ナーーーーーー!!!!!#」
また始まった。
どうしてこいつは自分の意にならないと、癇癪を起こして暴れるんだ。
ましてやこの件はどうにもならないというのに・・・。
他の花火大会も・・・関東圏のはほとんど終わってるだろうしな・・・。
あふぅ「ナァァァァ!!!#」ドガッシャーーン
P「あ、おいやめろあふぅ!!」
あふぅがいきなりジャンプして、テレビを蹴っ飛ばし始める。
あれをぶっ壊したらこあみまみが怒るだろうな、日頃ゲームに使っているし。
それで憂さ晴らしにイタズラでもされちゃ堪らん。
P「ほらあふぅ、いい加減諦めろ!
その花火大会はもう終わったんだってば!録画した映像なの!!」
あふぅ「ナァーーーーーー!#」
ああもう・・・。言い出したら聞かないんだから・・・。
やよい「・・・あ!
確か物置に、まだ使ってない花火がありませんでしたっけ?
ホラ、夏にみんなで休暇に行った時の!」
P「ん?そーだっけかな・・・」
あふぅ「ナァ?!
ナーノなの!!」ゲシゲシ
P「いてて、蹴るな!」
早く確認してこいってことかよ、偉そうに。
まぁこれ以上暴れたら堪らん、俺は物置へ花火があるか確認に向かう。
ゴソゴソ
P「お、あったあった」
ちょっと物置を漁ると、奥に花火セットがあった。
線香花火、ねずみ、ロケットまでたくさんの種類があるやつ。
小さいロウソクもついている。まぁボリューム的には問題ないな。
数日はあふぅを黙らせることもできるだろう。
P「じゃあ、あふぅ、夜になったら花火をしよう。
それまで大人しくしてろよ?」
あふぅ「ナノ!」
やよい「良かったねー」
あふぅはゆきぽの段ボール箱に入り、また昼寝を始める。
お前にとって「大人しくする」っていうのはそれなのかよ。
まぁ暴れるよりいいんだけどさ・・・。
あふぅ「zzz」
夜
P「おーい、あふぅ起きろ。約束の花火だぞ」
あふぅ「あふぅ・・・」
夕飯も食べずにぐっすり寝ていたあふぅ。
のび太並の寝つきの良さだなぁ。
ニートだって毎日食って寝て時たま遊ぶだけの生活を繰り返していたら、心が荒んできそうなものだが、ノー天気なこいつにはそれはないらしい。
ある意味羨ましくなるぜ、全く。
こっちは音無さんの飲みの誘いも、残業だと言って断ったのに。
とんだ「残業」もあったもんだ。
あふぅは俺の頭に乗っかる。
とりあえず俺は屋上へと移動した。
P「よし、じゃあ始めるか。
何にするんだ?」
ガサゴソゴソ
あふぅ「ナノ!」
線香花火。
それにしても、ぷちの手には十分大きいサイズ。
大丈夫なのか?ま、いいや。
P「それでいいんだな?じゃ、今ローソクに火を点けるから、ちょっと待ってろ」
シュボッ
準備完了。
まぁあとは自由にやらせよう。
P「いいぞ」
あふぅ「ナーーノ!!^^」
さっそく線香花火をロウソクにかざすあふぅ。
すると・・・。
パチパチパチ
あふぅ「ナ・・・ニ゛ャ゛ァ゛ぁ゛ッ゛!?!!!」
・・・言わんこっちゃない。
火花があふぅの腹に飛び散り、真っ赤な模様を描き出す。
にしてもそんな熱いのか?
あふぅ「ニ゛ャ゛ーーー!!!;;ニ゛ャ゛ーーーー!!!!;;」ブンブン
P「バカ、花火を振り回すな!火花が余計飛び散るだろ!!」
あふぅ「ナ゛ァ゛ーーーーー!!!!;;」
泣き叫び、パニック状態のあふぅに俺の言葉は聞こえないようだ。
ブンブン花火を振り回し、それで火花が余計にあふぅの体に降り注ぐ。
線香花火なのでそれほど大したことには見えないが、それでも体中に赤い斑点が増えていく。
火傷でさらに悲鳴が大きくなり、あふぅのパニックも増殖していく。
P「ああもう、今水をかけてやる!」
俺は近くに置いてあったバケツの水を、思いっきりぶっかける。
瞬時に花火の火が消え、火の消えた花火を右手に握りしめたびしょ濡れのあふぅが、まだワンワン泣いている。
´ ̄ ̄`ヽ
/ ⌒ヽ }
// }ノ
/ ´ -‐ ' ─-
/′x<  ̄', \ .\
イ }! i j}、ハ、 ヽム
. / } .彳 ヽ}\} }!
./ ノ} ./ リ \
/ .ィ / } /rzzzzzzァ \
/ イ / .〃 x㌣´ __,イ j
フ イ、 ' oと__) __ノ ̄`ヽ} ,イ
/ .リ 〇 〃⌒ _ノ¨/
彡イ / (⌒)o 乂_ノ xィ〔
./ / o x--‐ァヤ ´ヽ ㌣ヽ
イ -‐フ / `ー‐ ´ /: : { ヽ: : : \
P「・・・ったく・・・。
もういい、花火は中止だ、また火傷でもされたらたまらん」
あふぅ「ナァ?!!」
P「仕方ないだろ、お前のためだ」
あふぅ「・・・ナニョぉーーー!!!!#」ピョン ゴッチン
P「あ、痛って・・・何すんだ!!」
いきなりあふぅは飛び掛かり、俺の股間へ頭突きを喰らわす。
慣れたものとはいえ、痛いことには変わりない。
クソッ垂れ、お前の不始末の処理をしてやったのに!
とんだ逆恨みだ。
P「このワガママ野郎が!いい加減にしろっ!!」グボッ
あふぅ「ん゛な゛ぁ゛!?!!」
余りにムカついたので、顔面にローキック。
あふぅは蹴り一発で吹っ飛び、落下防止用の柵に激突した。
P「そんなやりたきゃ、一人でやってろ!
お前がどうなろうと知らん!!」
バタン
そう言い放ち、俺は屋上を後にした。
勿論ドアもしっかり施錠して、だ。
幸いあそこに花火、ロウソク以外の可燃物はない。
あいつが勝手に火傷する以外に被害がでることはないだろう。
騒音で苦情が来るかもしれないけど・・・まぁそれはいつものことだ。どうでもいい。
俺はさっさと事務所へ戻り、帰り支度を始めた。
あふぅ「ナ・・・」ポツン
一人屋上へ取り残されたあふぅは、茫然としていた。
なんで・・・花火を楽しみたいだけなのに・・・。
あふぅ「・・・ナぁ;;」
あふぅは柄にもなく、しくしく泣き出した。Pに見捨てられたということに。
あふぅ「・・・ナノ!」
しかし、バカを地で行くあふぅ、少し経てば悲しみも忘れ、花火の束へと駆け出す。
ゴソゴソゴソ
あふぅ「ナノ!」
ねずみ花火だ。
あふぅ「ナーノナノナノ!」テクテク
あふぅはロウソクの方へ向かう。火は・・・点いていた。
しめしめ。
あふぅ「なっの♪」シュボッ
あふぅは手にした花火に点火する。
しかし・・・火は点いているが、何も起こらない。
あふぅ「・・・なぁのっ!!#」ポイッ
怒ったあふぅ、花火を地面に叩きつけた。
すると・・・。
シュウウウウウウ!!!!
あふぅ「な、ナぁっ!?!!」
なんと。
花火が勢いよく火花をまき散らし、あふぅの周りをグルグル回転し始めたのだ。
当然、その火の粉はあふぅにも降りかかってくる。
あふぅ「ナ゛ッ!?ナ゛ッ!?ア゛ッ!?ナ゛ッ!ノ゛ッ!?」
さっきよりも凄まじい悲鳴を上げるあふぅ。
慌てて逃げ出そうとするが、花火がグルグル回転しているために逃げられない。
右往左往するあふぅに、さらなる火の粉が襲い掛かる。
ボウッ
あふぅ「ナ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーーーー!!!!!!!!;;」
そしてとうとう、絶え間なく降り注ぐ火の粉で、あふぅの金髪が燃え始める。
あり得ないことだが、現に赤い炎があふぅの髪の毛を呑み込んでいるのだ。
あふぅ「ナ゛ぁ゛ーーーーーーーーーー!!!!!!!!;;」
泣き叫ぶが、当然その言葉が誰かの耳に届くはずもなかった。
そして、
パンッ!!!!!
あふぅ「!?ナ゛ッ゛・・・ア゛ア゛ア゛ァ゛ぁ゛ッ゛ッ゛ッ゛!!!??」
ねずみ花火が、派手な音を立てて破裂した。
その時の硝煙が、目に入ったのだろうか。
あふぅは痛みで目を開けられず、辺りを走り回る。
あふぅ「ナ゛ノ゛ーーーー!!!!!;;ナ゛ノ゛ナ゛ノ゛ッ゛!!!!!!!;;」ジタバタ
未だに目をつぶったまま、大粒の涙を流したまま、走り回るあふぅ。
それがどんなに、危険なことなのか―――
シュボッ!!
パン!パンパンパン!!!パァーーーン!!!!
あふぅ「!?ナ゛ッ゛・・・・・・?!!!!?!」
―――あふぅは、理解していなかった。
あふぅは頭に炎を灯した状態で、花火の束に突っ込んだのだ。
そして、一斉に全部の花火が点火した。
シュウーーーーー!!!!
UFO花火。噴出花火。ロケット花火・・・。
ありとあらゆる花火が飛び交い、空を紅蓮に染める。
あふぅ「ナ゛ノ゛ォ~~~!!!;;ニ゛ャ゛ノ゛ォ゛~~!!!!!;;」
しかしあふぅに、そんな美しい景色を楽しむ余裕などない。
すでに髪の毛全体に炎が広がっている。
頭皮にも悲惨な火傷を残すだろう。
いや、やがては全身に燃え移ってもおかしくはなかった。
あふぅ 「ナ゛ア゛あ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛―――――――あ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!!!!!!!!!!!」
美しい夜空に、下等生物の絶叫が響く。
翌日
P「ったくよお・・・人様にさんざん迷惑かけやがって、お前は・・・」
あふぅ「・・・;;」
翌朝、出勤した俺は、いつものように仕事を始める。
ジャンジャン鳴り響く電話は、当然ながら苦情の電話だ。
おたくのビルの屋上からジャンジャカ花火を打ち上げたらしいな、夜遅くになにしてくれてんだ、安眠妨害もいいとこだ、うちの庭に花火の残骸が落ちてきたんだけどetc・・・。
やれやれ、あふぅの奴、ホントに好き放題にやってくれたな。
そう思った俺は、すいませんすいませんと頭を下げながら、クレームの電話に応じる。
そして目途がつくと、屋上へ向かった。
すると、全身真っ赤っ赤のあふぅが寝っ転がっていた。
あの金髪は燃え尽きていた。
頭に一番ひどい火傷があり、皮膚がグチャグチャになっていて、一部は焦げて炭化してさえいた。
そっと近づいてあふぅの体を触ってみると、脈はまだあった。息もしている。
さすがはゴキブリ並みの生命力をもつぷちどる、そう呆れながら俺はあふぅを引っ掴み、事務所へと戻った。
そして今、全身を包帯でぐるぐる巻きにされたあふぅがソファに横たわっている。
あふぅ「はにぃはにぃ・・・;;」ガタガタブルブル
発情期でもないのに「はにぃ」なんて、一体どうしたのだこいつは。とうとうおかしくなったか。
それに加え、さっきから体をブルブル震わせ、縮こまっている。
火傷を負ったことよりも、よっぽど酷い目に遭った、ということが心に刻みつけられたのだろう。
どうだあふぅ?
花火は、火は怖いものだと分かったか?
お前みたいなバカ野郎がワガママ言って、危険な遊びをするなんて、数億年早いんだよ。
あふぅ「ナァ・・・;;」
まぁいいや、これで大分大人しくなったし。
P「おーい、あふぅテレビで面白い番組やってるぜ」
あふぅ「なぁ?!」
P「じゃ、スイッチオン」
ヒューーン・・・
ドドーーン!!ドドーーーーン!!!!
あふぅ「ナ゛あ゛ーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
この日、あふぅの中で、花火が大嫌いなもの、恐ろしいものに変わった瞬間だった。
季節外れの花火 完
- 最終更新:2014-02-20 22:13:55