「あっ、ゆきぽがし(死)んでれら」
起
今日もお昼寝中のゆきぽちゃん。
目が覚めると、事務所内には誰もいませんでした。
「ぽぇ~?」
寝惚けまなこをこしこし擦って、寝床になっていた真新しい穴からはい出ると、みんなを探し始めました。
「ぽぇ~、ぽ、ぽぇ~」
ぷにぷにおててで、ちっちゃな輪をつくって、みんなを呼びます。
「ぽぇ?」
あれれ、みんながいないよ。
ゆきぽはみんなを探しに行くことにしました。
廊下へと続くドアへと手を伸ばして……伸ばして……。
……届きません。
困り顔のゆきぽ。これではみんなを探しにいけません。
ゆきぽは、すっと背中からスコップを取り出すと扉へと大きな穴を空けました。
これで通れるね。ゆきぽはほっこり笑顔を作ります。
「なのっ!?」
事務所の椅子で寝ていたあふぅは、その音で目が覚めました。
ゆきぽは、あふぅの姿に気が付かなかったみたい。
ゆきぽは扉の大きな穴から皆を探しに行きます。
「あふぅ……」
あふぅを残して。
承
廊下に出たゆきぽは、皆を探すことにしました。
すると、普段は閉じたままの扉が開いているではありませんか。
「ぽぇ」
きっとあそこだ。
ゆきぽは、そっと扉から中をのぞきます。
「ぽぇぇ~」
中には、キラキラ素敵なお洋服。
そこはアイドルたちが着ている衣装が置いてある部屋でした。
「ぽわぁ」
ゆきぽはぽんやり口を開けて中へと入っていきます。
みんなを探すという目的もすでに頭にはありませんでした。
綺麗だな、ゆきぽも着たいな。
そんな、思いで衣装の海を泳いでいきます。
それでも、ゆきぽが着れるようなものがありません。
みんな人間用の衣装なのですから、ゆきぽが着るには大きすぎます。
「ぷぃー……」
がっかりさんなゆきぽ。
そんな中、一つのドレスが目に着いたではありませんか。
お姫様が着るようなドレスがかかっていました。
「ぽぇ、ぽぉ」
ゆきぽに笑顔が浮かびます。
なんだ、ゆきぽのためのドレスがあった。
近くには、大きなリボンのカチューシャまでも。
ゆきぽは早速そのドレスを着てみました。
部屋にある大きな姿見には、白雪姫のような可愛らしいお姫様。
「ぽへら、ぽー」
そうだ、みんなにも見せなくちゃ。可愛いゆきぽの姿をね。
きっと可愛いってみんな褒めてくれるよね。
別
「ったく、あれだけまこちーを太らすなと言っていただろう」
「すみません、プロデューサー。でも、まこちーの食べているところって可愛いじゃないですか」
「うるせぇ、少しは反省しろ」
「まきょー……」
「まぁ、幸い、みっちり運動したらもとに戻ったから良かったけどよ。つか、一日でもとに戻るってぷちどるは相変わらず変な体質だな」
「へへっ」
「褒めてねぇよ」
「でもでも、これでまこちーにあのドレスを着せてあげれるんですよね」
「あぁ、明日が撮影の本番だからな、太らすなよ」
「わかってますよ」
「太らすなよ」
「なんで二回言うんですか」
「まきょぅ」
「うわっ、なんだこりゃぁ!! またゆきぽのやろうか!」
転
「うわっなんだこりゃぁ!!」
Pの声が廊下から聞こえてきました。
ゆきぽはこの可愛いゆきぽの姿を見せてあげようと、廊下へと出ていきます。
破壊された扉の前で茫然としているPのもとへと歩いていきます。
「ぽっ、ぽぉぇ~♪」
気分はお姫さま。
上機嫌なゆきぽは、スカートを翻してスキップをしているかのようでした。
可愛いでしょ。
その声は、鼻歌交じりでした。
「まきょー」
しかし、まこちーが鼻息荒く、ゆきぽに詰め寄ってくるではありませんか。
その服を脱いでと、言っているようです。
「ぷぃー」
ゆきぽは、いやいやします。せっかく可愛い服を着ているのに。
まこちーにも後で貸してあげるから。
そんなことを言ってなだめているようです。
「ま、まきょっ!」
まこちーは、ゆきぽの袖口に手をかけて引っ張ります。早く脱いでと。
「ぷぃー、ぷぃー」
まこちーがドレスを奪おうとしていると思い、ゆきぽは嫌がります。
「おい、ゆきぽ」
Pが声を掛けます。
「ぽぇ~」
助けて、まこちーが服を奪おうとしているの、きっと可愛いゆきぽに嫉妬しているんだよ。
「ふざけんな、とっとと服を脱げ」
転2
「ぽぇ?」
Pの言葉が一瞬理解できませんでした。
「ぷぃー」
意地悪されていると思ったゆきぽは、まこちーを振り払おうとしました。
びりぃっ!
袖口が破れてしまったのです。
「ぽぇーっ!!」
ゆきぽのドレスになんてことしてくれるの!
ゆきぽはぷんぷんでした。せっかく可愛いゆきぽのドレスをまこちーがダメにしてしまいました。
「……まきょ……」
まこちーがPに向かってすっかりうなだれて頭を下げました。
その大きな目には涙が浮かびます。
なんども頭を下げます。ごめんなさい、ごめんなさい。ドレスを破ってしまいました。
「まこちー」
真がまこちーを抱きしめます。
Pもまこちーを慰めているのか、頭をなでます。
「ぷぃっ、ぷぃーー」
ゆきぽのドレスを許さない。
ゆきぽは、まこちーを責め続けました。
怒りが収まらないようです。
Pはその間、どこかに電話していました。
「そうか、すまないな。んじゃ、これは廃棄で。あぁ、もう仕方ないだろ」
Pは、ゆきぽの顔面へとその靴底をめり込ませました。
結
「ぷぎゃあああっ」
鼻血を吹き出して、廊下をカットんでいくゆきぽ。
「ぽひゅっ、ぷひゅっ……」
廊下を転がっていくゆきぽへと、歩み寄りながらPは声を荒げます。
「はっ、可愛いだって!? ゆきぽのドレスだ? ふざけんなよ、何がお前のだ」
寝転がっているゆきぽへとしゃがみこむと、そのドレスへと手を掛けました。
びりぃぃぃっ!
引き裂かれるように無理矢理ドレスを脱がされたゆきぽ。
「ぽやぁぁん!」
羞恥に胸を隠します。
「はっ、一丁前に恥ずかしがってんじゃねぇよ」
「プロデューサーっ!!」
真がPを止めます。
「何やってるんですか!」
「ぽぇー」
ゆきぽは、真の救いの手に笑みを浮かべます。
ゆきぽのために、Pを懲らしめて。
「あっ? ドレスは新しいの用意した。お前たちは気にすんな」
「そうですか、それならいいんです」
「ぽ……?」
結2
あっさりと真は、Pから手を放すとまこちーのもとへと戻っていきました。
えぐえぐと泣いているまこちーを抱き上げると、さ、お菓子食べよと事務所の中へ向かっていきます。
ゆきぽのことなど一ミリも心配していないようでした。
「って、お菓子食わすんじゃねー!! 明日撮影だって言っただろうが!!」
「てへぺろ」
まるでいつもの事務所のやり取り。
引き裂かれた襤褸をまとったゆきぽと打ち破られた扉の残骸だけが異様でした。
Pは、ゆきぽの腹へといくつか拳を撃ち落します。
「ぷぎゃ、ぷげぇ、ぽがぁ」
「てめぇは、なんど言ってもわっかんないようだな」
「ぽぉぉ」
鍛えあげられたPの肉体から繰り出される拳は、灼熱のように小さなゆきぽの体を苦しめます。
「ぷぃー」
痛い、痛いよ。
ゆきぽがなにしたの?
可愛いゆきぽのドレス姿を見せたかっただけなのに。
ゆきぽの目に涙が、浮かんでいきます。
Pは、ゆきぽの髪の毛を掴みあげました。
その手の中で、カチューシャがくしゃくしゃに歪んでいきます。
路地へと放り出されたゆきぽ。
すっかり寒くなっていく風がゆきぽの上を通り抜けていきます。
「ぽぇっ……ぽぇ……」えぐっ……ひぐ……
今度こそ、ただ一匹、路地で泣きぬれるゆきぽだけになりました。
おしまい。
- 最終更新:2014-10-13 00:23:52