いおへのお礼(仮)

奇怪な生き物達、それがぷちます。
今日も元気に足下を駆け回る様子は、非常に不愉快である
一瞬に消し去りたいとかそこまでの害悪というわけでは……いや、近いが少し違う
度重なる面倒にそろそろ嫌気がさしてきた、というのは言うまでもない
ただ処分するだけではもう手遅れなほど手間をかけられたのだからお礼をするというのが礼儀だろう

と、そこに歩いてきたのはいおだ。
人の顔を見るとその度にそっぽを向くという横暴っぷりにはほとほと愛想がつく
それこそこっちから願い下げなのだが。それだけに収まらずしばらくすると偉そうに何かを訴えてきやがる
どうやらコイツ、俺を下に見てるらしい。話してやってるんだぞ、そんな調子で

「もっ、もっ!!」

よしよしわかった、そんなお前にふさわしい、素晴らしいプレゼントをしてあげようじゃないか
抱き上げるとこれまた不満そうな声で降ろせと言わんばかりに叫びだす、やかましいったらありゃしない
まあいいや、そんな声が聞けるのも今のうちだしな

とりあえず扱いやすくするためにある程度ご機嫌を取ってやる
簡単なもんだ、ちょっと頭を撫でながら褒めればそれだけで骨抜き状態だ

「本当にいおは髪が綺麗だよなぁ」

「もっ……」

「よしよし、そんなお前にはプレゼントだ」

そうしてデスクの上に取り出したのはパソコンくらいの大きさの中古シュレッダー
ちなみに手回し式。何だろうともじもじしながら期待するいおをよそに、抱きかかえる手を変える
ちょうどその長い髪の毛が宙に垂れ下がるようにして支えつつ、髪を徐々にシュレッダーの入り口に近づける
そして髪が噛んだところで、もう片方の手でシュレッダーのハンドルを軽く一回転させてやる
全く油断していたいおは俺の手から滑り落ちるように宙に投げ出され、やがてデスクにぶち当たった
いおは何がなんだかわからないうちに痛みを感じ、そして悲鳴を上げた

「も゛っ!!?」ドン

一回転で大体2cmくらいか。いいじゃないか
いい感じに髪の毛が噛んでて、いおは手で髪の毛を何度も何度も戻そうとするも
もちろん毛先のほとんどはシュレッダーの中に挟まってるため、引っ張られてただ痛いだけ
早くも泣き出して、シュレッダーを背に俺に助けを求める

「キィーキィー!!!」

「まあまあそう慌てるなって」

ボロボロ涙をこぼしながら、助けを求めるというか、助けろとか命令されてる気がしてさらに腹がたった
ハンドルをもう2回転くらいさせてやる
またもグイッといおは後ろに引っ張られ、バランスを崩してそのまま頭をシュレッダーにぶつけた
軽い悲鳴の後、反射的に立とうとするも、髪が固定されているためそちらの方に引っ張られてしまう
そのためまたもバランスを崩して頭をぶつけて、またも痛がっていた
そのコント地味た一人芝居に思わず吹き出してしまったが、いおはそれどころでないらしく
後ろにあるだろうシュレッダーは見えないため、当然どうすることもできない
それどころか直立することも許されず、今は軽く上体を反りながらこちらを見ているという非常に滑稽な姿だ

「キーキー……!!」ボロボロ

「似合ってるよ、いお」

こういうときになると弱気だよなぁ、なんて思いつつ気絶しないのは流石の傲慢さと言ったところか
頭をぶつけたり、常に毛根を引っ張られている状態なんだからそれは痛いだろうなぁと思いつつ
このままシュレッダーを限界まで引っ張り上げて、スキンヘッドにしたところで死にはしないだろう
ということで俺はここでもう一つギミックを用意した

「いいかーいお? 今お前は髪の毛を引っ張られてるんだ、わかるよな?」

「キィーキィーキィーーー!!!」

「わかったわかった、それでな? 今からお前の背中に、危ないものを取り付けるからな?」

と言っても単に先端が尖った金属棒だ
それをいおの視線に入らないように後ろから、ちょうど背中の辺りにチクっとさせてやる

「も゛っ!!?」

ビクッと体が跳ね、その拍子にまたも自ら髪を引っ張ってしまう。そろそろ声も枯れてきたか
正面から見ると、そうだなぁ。ポケモンでいうとクチートみたいになってるわけだ
もう前髪の生え際は丸見え、わずかに自由な毛髪が残るだけ
それに繋がるのは横はいお2つ分くらい、縦はちょうどいおと同じくらいのシュレッダー
そしてだ、これからこのシュレッダーといおとの微妙な隙間に、この金属を取り付けてやる
するとどうなるか。いおとして今一番楽な姿勢、位置はシュレッダーにピタリとくっつくこと
つまりは髪の毛ができるだけたゆんだ状態、ピンと張ってると痛くて辛いわけだからな
ところがこの金属棒があるとどうなる?ピタリとくっつけば背中から体が貫通するくらいの長さはある
つまり、お前は必死にイナバウアーをし続けなきゃいけないわけだよな
どこまで背筋が柔らかいのか、俺は知らないがまあ頑張ってみてくれ

取り付けてからしばらく見ていた。すると、徐々にいおの背中がシュレッダーに近づき、棒の先端に触れた
その瞬間、やはり驚き体をよじらせるが、左右どこに逃げたって自らの髪の毛で身動きは取れない
本当にお前の髪の毛はいいよな。綺麗だからこそ、シュレッダーとしてもこれだけしっかり噛み合ってくれる
さてさてここからだよ。さっきヒントも与えてやったし、流石に馬鹿じゃないみたいだな
ちゃんと上体を反らせて棒に体が当たらないようにして。でも足がぷるぷるしてるぞ?
まだ髪の毛は10cmくらい余裕があるし、もう2回転ほどハンドルを回してやろう
安物だからかそろそろ音も変わって、ギギギという音と共にいおの髪の毛を巻き込んでいく
綺麗に裁断されるわけではなく、少し細かくなるだけで長い毛もシュレッダーに溜まっていく
その度にピンと張るいおの髪の毛、ビクッとさせると同時に悲鳴を上げる

「キ、キィーー!! ギィイイイ!!」ミョンミョン

と、その時何やら怪しい音がコイツから聞こえてきた
これはそう、コイツの最終手段だろう。だがもちろん予想済み

「おい、ビームを撃ったらシュレッダーを一気に巻くぞ」

「キ……」

正直脅し文句はなんでもいいだろう、既に怒られたら何をされているのかコイツにはわかってるはずだ
今更当たりもしないビームなんて撃って威嚇したところで、ひどいことをされるのには変わりない
そもそも、このために髪の毛で固定したのだからぬかりはないさ
みょんみょんと言う音はそのまま未遂に終わり、やがて静かに消えた
そして気がついてみると、いおは結構反っていた。まるで弓だな
息を切らしながら、必死の形相で上体を反らして、さぞ辛そうに
掴むところでもあればそれこそ少しは楽だろうが、手足は自由というのもまたいいものだな
何もない虚空を必死に見つめ、手はバランスを取るために前や後ろを行ったりきたり
たまにバランスを崩してまた髪を引っ張って、キッ!なんて叫んだりするのを見てるのも楽しいが
ただこのまま時間をかけているだけでは面白くないしと、いおに話しかける

「どうだ?」

「も、もぉ……」

「いつもみたいな偉そうなお前はどこに言った?」

そう言ってもう服が捲れてしまっている腹を適当に殴ってみる
その度に足下がグラつくが、このまま後ろに倒れてしまえば、どうなるかはもうわかっているのだろう
いおは必死に踏ん張り、何も言わずただ食いしばる声だけが聞こえてくる

「も゛……」

「ふーん、結構頑張るんだなお前」

「きぃ……」

なんだその声?恨みこもってるなぁ、つい本音がでちゃったか。いいよ。じゃあせっかくだしお望み通り
お前がいくら頑張ってもさ、実はこれ、どうしようもないんだ
俺はそう決めると、いおの両足をそれぞれ掴み、シュレッダーを地に残し、宙に持ち上げる
髪の毛はいおの自重で引っ張られ、毛根の皮膚が精一杯伸びているのがわかる

「きいいぃいああああ!!」

「お、やっといい声が出せるようになったじゃないか」

シュレッダーより低い位置でぶらぶらさせてやる、ちょうどハンモックのように
その度にギシギシと、毛根が悲鳴を上げているようだ
共鳴するかのように、いおはひたすら悲鳴を上げていった

「ゃあああああ!! きぃいいいいいぁあ゛ああ!!」

流石に辛いか?まあ髪の毛とシュレッダーの距離はもう5cmくらいだろうしなぁ
仕方ない。そろそろお開きといこうか
片手でハンドルを一巻きしてから、宙に浮いたいおの足をパッと離す
重力に従って、そしてほとんどいおと同じ身長のシュレッダーに向かって弧を描いて落ちて行く
その先には、尖ったそれがあって

「ぎっ!!? きぃっ、きいぁあ゛あ゛あぁあああ、あ゛ぁ……!!!」

グサッ、と。しかしインパクトの瞬間はもっと鈍い音だったかもしれない
素晴らしい奇声を上げ、目はもう、焦点が合っていなかった
それでも、ただの金属棒というのが幸いしたのか、あるいはコイツの生命力が尋常ではないのか
血まみれになりながら、ほとんど貫通したであろう金属棒を体から必死に引き抜き
力に任せて、棒から離れようと必死に、必死に足下に力を入れて
そしてようやく棒が体からはずれ、血を滴らせながら、反動で思い切り前にとびだした……が

髪とシュレッダーの距離は、もうほとんど0で

「も゛ぉお!! きぃい……い、いぃいいいあああああ!!!」

ブチブチっ……という音がし、いくつかの髪の毛がいおの頭皮からはがれ落ちたのが見えた
その髪の毛達は、いち早くシュレッダーの方に向かい、頭からは血しぶきが舞って
それでも生き残った髪の毛達は、驚くほどの弾性力で
キチガイみたいに叫び声を上げながら逃げようとするいおを。背中に穴の空いたいおを
シュレッダーの方に、勢い良く引っ張り上げて

もう一度、グサッ

ついに、動くことはなかった

「なかなか楽しかったよ」

シュレッダーにくっついて、もう完全にオデコの辺りはハゲかかっていた血まみれのコイツはなんていうか

「……気持ち悪いな」

そこでふと思いついた
シュレッダーを、今までにない速度で回してみる
髪の毛はあっという間に吸い込まれるも……

「やっぱり、本体は無理か」

でかすぎる”本体”はシュレッダーにかからなかった
既に息のない亡骸の頭がすり切れていくだけで、何も面白くなかった

「まあ、今度はミキサーでも用意しておくか」
だがそんな機会、ないことを祈りたい

伊織編 完

  • 最終更新:2014-02-21 06:23:52

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