いじめっ子

あふぅ「ナァーーノォ!!」

ボガッ!

ゆきぽ「ぽぶげえぇっ!?!!」

あふぅ「ニャーーーハッハッハ!!!」

殴られて悲鳴を上げるゆきぽ。
それを見てヒーロー物の悪役の如く高笑いするあふぅ。

どちらも、765プロでは見慣れた光景である。
ただし、ぷちどる達にとってだが。


あふぅには悪い癖がある。
ちょっとしたことで癇癪を起こし、暴れ出すのだ。
片やゆきぽは、ちょっとしたことですぐにぐずり出す癖がある。

そんな二匹が、一緒にいれば何が起こるか。
答えは簡単である。

あふぅ「ナっ、ノっ!ナっ、ノっ!!」バギッ!ドゴッ!

ゆきぽ「ぷぎゃぁーーーー!!ぽぇぇぇーーーーん!!」

ゆきぽのスコップを使い、ゆきぽをタコ殴りにするあふぅ。
甲高い悲鳴が事務所に響く。

こあみ「とっかーーー!」ボコッ

こまみ「ちー、ちー!」バシッバシッ

そして、いつの間にか双子もいじめに加わっている。

もともと二匹は、あふぅと組んでイタズラをしたりしていた。
しかしプロデューサーらが厳しくそれを叱りつけ、それを恐れてイタズラをするのは止めた。
その代わりが、弱虫ゆきぽへのいじめだったのだ。

ゆきぽ「ぽぇ・・・ぽぇぇ・・・」

こあみ「とっかとっか!!」ボゴッ

こまみ「ちぃちぃちぃ!!」バシッ

ゆきぽ「ぽ?!ぽぎぇぇぇぇーーーー!!!」

こあみはおもちゃのバット、こまみはハリセン。
あふぅのスコップほど攻撃力はないが、ゆきぽにとっては痛くて怖くてたまらない。また甲高い悲鳴が上がる。

でも、誰もゆきぽを助けに来ない。

事務所には人間は誰もいない。
プロデューサー以下、皆がライブで出払っている。
ぷちどるも、お目付け役のちっちゃんはみうらさんとライブへ付き添い、ぴよぴよはお昼寝中。
残った他のぷち達は、事務所のソファで寝転がりながら、隅っこでいじめられるゆきぽを眺めている。

ちひゃー「・・・」

やよ「・・・」

たかにゃ「・・・」

いお「・・・」

まこちー「・・・」

ちびき「・・・」

はるかさん「zzz」

ぴよぴよとはるかさんはともかく、他のぷち達は皆、ゆきぽがあふぅと双子にいじめられていることを知っている。それもかなり前から。
でも、助けようとはしない。

簡単なことだ。
自分が同じ目に遭いたくないからだ。

あふぅ「ナッノナノナノ!!」ボガン!!

こあみ「とかぁー!」ボガッ ボガッ

こまみ「ちぃっ、ちぃっ!」バシッバシッ

ゆきぽ「ぷぇ・・・・ぷぇぇぇ・・・・」

それから数時間して。
プロデューサー、アイドルたちが事務所へ戻ってくる。
あふぅ達も帰ってくるタイミングを見越していたのか、既にいじめをやめていた。

雪歩「ただいま、ゆきぽ。またケガしたの?」

ゆきぽ「・・・ぽ」

ゆきぽの頭は大きなたんこぶができ、血がにじんでいる。
腕も青あざだらけだった。

P「また穴でも掘ろうとしてたのか?そろそろいい加減にしとけよ、ゆきぽ」

ゆきぽ「・・・」

とうの昔にゆきぽは、事務所で穴掘りなどしなくなっている。
あふぅにスコップを奪われているからだ。
しかし飼い主ですら、ゆきぽがいじめられて怪我をしているのだとは思いもしなかった。

ゆきぽ「・・・」クルッ

ふとゆきぽは、おどおどと背後を振り返る。


あふぅ「・・・ナノっ♪」ニヤッ

こあみ「とかー♪」ニヤッ

こまみ「ちー♪」ニヤッ

そこには、ニヤついた表情を浮かべるいじめっ子の姿。
もちろん、ゆきぽがいじめられていることを告げ口しないか見張っているのである。
ついでに、明日もちゃんと事務所に来いよ、という脅しも含めて。

雪歩「それじゃ、帰ろうね。プロデューサーお疲れ様ですぅ」

P「おう、じゃな気を付けろよ」

ゆきぽ「・・・」

この時、ゆきぽは終始無言であった。


しばらくして、夜。
ゆきぽは眠れぬ夜を過ごしていた。

ゆきぽ「ぷぇぇ・・・ぷぇぇ~~ん・・・」

いじめのトラウマからだ。
眠れば夢の中であふぅ達にいじめられる。
起きているときも、あふぅのあの笑い声が聞こえてくる気がする。
ここは事務所じゃないのに。安心な雪歩の家なのに。雪歩もそばで眠っているのに。
ゆきぽは恐怖で押しつぶされそうになっていた。

その時。

ゆきぽ「・・・ぽぇ」

ゆきぽは、部屋の窓が開いていることに気付いた。

ゆきぽ「ぽぇ、ぽぇ」ピョン テクテク

ベットから飛び降り、窓へと近づく。
そして外へ出た。

ゆきぽ「・・・ぽ」

そこはベランダ。
家の二階である。

ゆきぽ「・・・」

ふとゆきぽは考える。

ここから飛び降りたら、きっと大ケガをするだろう。
でも、あふぅ達に当分会わなくて済むかもしれない。
だったら・・・。

ゆきぽ「・・・」

ゆきぽは、ベランダの縁に立つ。
下を見ると、庭だ。かなりの高さがある。
ぷちどるは基本的に高いところを怖がる。極端な例はちひゃーだが、ゆきぽもまた例外ではない。
そんなゆきぽが震えもせずに立っている。相当精神的に追い詰められているのだろう。
十数秒ほど、その場に立ち続け。

ゆきぽ「・・・ぽぇっ」ダッ

ついに、ゆきぽは地面を蹴った。
次の瞬間、体が宙に浮かぶ。
そして、頭から真っ逆さまに落ちていった。


・・・グチャッ!!


翌朝。
765プロでは既に仕事が始まっている。

小鳥「・・・雪歩ちゃん、遅いですね」

P「ええ・・・今日はグラビアの取材が入ってるんですが・・・まだ時間あるとはいえ、心配だなあ」

雪歩は事務所に来ていない。
ついでに、ゆきぽも。

あふぅ「・・・ナノ」

こあみ「・・・とかぁ~・・・」

こまみ「・・・」

あふぅはなかなかゆきぽが来ないことに苛立ちを募らせている。こあみは退屈そうに欠伸をしている。
一方、こまみはいじめのことがバレたのではと、気が気でない。

プルルルル!!プルルルルルル!!!

その時、事務所の電話が鳴る。

P「ハイ、765プロで・・・あ、雪歩か?
今日は遅いけどどうかしたか?事故にでも巻き込まれたか・・・・

・・・・え?」

瞬間、文字通りプロデューサーはその場に凍り付いた。


―――ゆきぽが死んだという一報を聞いて。


数時間後

P「・・・それで・・・朝起きたら庭にゆきぽの死骸が転がってた・・・と?」

雪歩「・・・はい・・・きっと、ベランダから飛び降りたんです、頭がぐちゃぐちゃになってたから・・・。
私が、部屋の窓をうっかり開けっぱなしにしなければ・・・・!」

そこで雪歩は泣き崩れた。
慌てて真が体を支える。

律子「・・・でも、おかしいわよね。
ぷちは皆高所恐怖症のはずなのに、なんでわざわざベランダなんかに近寄ったのかしら」

P「寝ぼけてた、ってこともあるだろう。俺だって酔い潰れてうっかり歩道に飛び出しそうになったことはあるしな。
・・・とにかく、雪歩、今日は仕事は中止だ。明日まではゆっくり休め。
それで、ゆきぽの葬式とかを済ませるんだ。いいな?」

雪歩「・・・はい」

そこで、雪歩は真と律子に支えられながら、事務所を出ていく。
プロデューサーは電話をかけ、仕事先に謝罪の電話をかけ始めた。

そのやり取りを、隅っこでじっと眺めている一団がいた。

あふぅ「・・・ナ・・・!」

こあみ「・・・」

こまみ「・・・!」

もちろん、ゆきぽいじめの主犯格の三匹である。
こあみはゆきぽが死んだと聞いて、ただただ茫然としていたが、あふぅはゆきぽがいなくなってしまったことに腹を立てていた。
そして、こまみは自分たちが原因で死んだのではないかと考え始めた。同時に、その罰が下るのではと恐れおののいた。
その怯えは、やがて妹にも伝わったようで、双子は暫くしゃがみこんで震えていた。

あふぅ「ナァの!ナノっナノっ!!」

P「・・・なんだ、あふぅか」

あふぅは腹立ちまぎれに、プロデューサーに構ってもらおうと駆け寄った。
しかし、

P「今は本当に忙しいんだ、後にしてくれ」

あふぅ「ナァのっ!・・・・・な・・・・・」


P「・・・後にしろ。分かったな、あふぅ?」

プロデューサーは、いつになく怖い顔であふぅを睨みつける。
さすがのあふぅも、すごすごと引き下がった。

あふぅ「・・・」

しかし、それでも苛々とした感情は収まらない。
なんでゆきぽはいなくなったのだ。
弱虫のくせに、いじめられてればいいのに、生意気な。


しばらくして。
アイドルたちは仕事先に向かい、プロデューサーに律子は営業回り。
小鳥も買い物に行っている。
そして、事務所に残ったぷちどる達は、各々飼い主から渡されたお菓子を食べていた。いつもに比べると、騒がしくすることはなかった。

ちひゃー「くっ」ムシャムシャ

ちびき「だぞー」ムシャムシャ

やよ「うっうー」ムシャムシャ

たかにゃ『美味』ムシャムシャ

まこちー「まーきょ」ムシャムシャ

いお「もっ」ムシャムシャ

はるかさん「ヴぁーい」ムシャムシャ

そこへ、

あふぅ「ナノっ!!」

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

あふぅがいつものように、お菓子を強請りにやってきた。
皆あふぅに目を付けられるのを嫌がっていたから、今までは素直に応じていた。

だが、今日は様子が違った。

ちひゃー「・・・」ムシャムシャ

やよ「・・・」ムシャムシャ

たかにゃ「・・・」ムシャムシャ

まこちー「・・・」ムシャムシャ

いお「・・・」ムシャムシャ

はるかさん「ヴぁい?」


皆が、あふぅを無視して黙々と食べている。
あふぅなんて、元から居なかったかのように。

あふぅ「ナ・・・・・ナァァーーーーーーー!!!」

あふぅは激怒する。
なんで自分を無視する。なんでお菓子を食べ続ける。
なんだその暗い顔は。なんだその目は。
なにか文句があるのか。

あふぅ「ナァのっ!!!」

ちひゃー「・・・」

あふぅがちひゃーに掴みかかる。
元から二匹は仲が悪かったから、当然のことともいえる。 

ちひゃー「・・・」

しかし、ちひゃーは顔を背け、黙りこくっていた。
普段なら怒ってあふぅに食って掛かっていただろう。
しかし、今のちひゃーは抵抗もしなければ、泣くこともしなかった。

あふぅ「・・・・ナ・・・・」

しばらくして、あふぅはちひゃーから手を放した。
どんなことをしたところで、相手は自分の思うように行動することはない。泣いて許しを請うことも、怒って抵抗することもない。
そう理解したのだ。
そしてとぼとぼとぷち達から離れて行った。

「「「「「「・・・・・・」」」」」」ムシャムシャ

そして、ぷち達は何事もなかったかのようにお菓子を食べ続けた。


あふぅ「ハンっ」

あふぅはゆきぽの寝床に飛び込むと、不貞寝を始める。
今日はゆきぽが来ないことといい、プロデューサーもぷち達も邪険に扱ってくることといい、不愉快なことだらけだ。

あふぅ「ナノっ!」

そこであふぅは、寝転がったまま双子を呼びつける。

シーーン

あふぅ「・・・ナノ?」

来ない。
双子の声も返ってこない。

あふぅ「ナーーノ!!ナァのっナノっ!!」

今度は大声で呼びつける。

シーーン

やはり、双子は来ようとしない。

あふぅ「ナァァァァーーーーーーーー!!!」

あふぅは段ボールから飛び降り、顔を真っ赤にして叫び始める。
何をしてるんだ、さっさと来い。

律子「ふぅ、ただいま戻りました・・・」

あふぅ「ナァァ!!!・・・ナ?」

その時、律子が戻ってくる。

律子「・・・ちょっと、あふぅ。
何してるの?」

あふぅ「ナァ!!ナノっナノっ!!」

律子「・・・今日はみんな忙しいのよ。
頼むから大人しくしてなさい」

あふぅ「・・・・」

またもや怖い顔で叱りつけられる。
結局すごすごと引き下がり、段ボールの中で昼寝をし始めた。

一方、双子はと言えば。

こあみ「・・・」

こまみ「・・・」

給湯室の中で、身を寄せ合っていた。

二匹は、ゆきぽが死んだことによって、他のぷち達があふぅを単なるいじめっ子のガキ大将ではなく、ゆきぽ殺しのろくでなしと思うようになり、軽蔑していることに気付いた。
ならば、自分たちはそれに関わらないでいよう。そう腹を決めたのである。

こあみ「・・・」

こまみ「・・・」

この日を境に、ぷち達のあふぅに対する態度は変わっていった。あふぅを恐れなくなった。
シカトはもちろんのこと、時にはおにぎりを横から奪ったり、突然体当たりしてきて何食わぬ顔で通り過ぎたり、ということを繰り返した。

あふぅ「ナァーーーーー!!」

ちひゃー「・・・」

当然、あふぅは烈火のごとく怒り出す。
しかし、ぷち達は涼しい顔で無視する。
時には不敵な笑みを浮かべて。

P「・・・おいあふぅ。うるさいんだよ静かにしろ」

あふぅ「・・・ナ」

人間たちが、すぐに叱りつけてくれるからである。
あの日以来、以前にもまして癇癪を起こすあふぅに、彼らも理由は分からずとも我慢の限界を超えたのだろう。
結局、あふぅは何をされても、すごすごと引き下がる他なかった。

こあみ「・・・」

こまみ「・・・」

そして、双子はと言えば、それを遠巻きに眺めるだけ。
とにかく自分たちは関わりたくない。ただそれだけであった。


そして、ゆきぽの死から二週間後。

P「ったく・・・」

プロデューサーが、滅茶苦茶に荒らされたデスクの後片付けをしていた。
もちろん原因はあふぅ。今は隅っこで不貞寝をしていた。
腑に落ちないのは、好物のおにぎりをあげても一向に大人しくならないことだ。一体あふぅに何があったのか。

P「・・・あいつらに聞いてみるか。おーい」

「「「「「「?」」」」」」

プロデューサーは、ぷち達に事情を聴いてみることにした。

P「このところ、なんかあふぅの様子がおかしいよな?
それで、お前らに知ってることはないか聞きたいんだ」

ちひゃー「くっ!!くっくー、くー!!」

すると、一番最初に喋り出したのはちひゃーだった。

あふぅは今まで、ゆきぽをいじめていた。
殴ったり蹴ったり。ゆきぽがケガをしていたのもそれが原因なんだ。
それで、ゆきぽが急に死んだから、いらだっているんだ、と。

P「・・・へ?あいつがゆきぽを?
そんなの初めて聞いたぞ」

たかにゃ『事実』

P「いや、まぁ、信じないわけじゃ・・・」

いお「もっ!もっ!!」

さらに、あふぅは告げ口したらもっと酷いことをしてやると脅した。
だから今まで言えなかったのだ、といおが付け加える。

P「・・・」

やよ「うっうー!」

ちびき「だぞっ!」

髪を引っ張られた、とやよ。
泣き声を出せないよう首を絞められた、とちびき。
最早、あることないこと出鱈目に言い立てていた。

P「・・・わかった、わかった。もういい」

うんざりしたプロデューサーはぷち達を隅に追いやった。
この時点では、まだあふぅがそんなことをしていたとは完全には信じ切れなかった。
ふとプロデューサーはお茶でも淹れようかと、給湯室へ足を運ぶ。

P「ん?お前らか」

こあみ「・・・」

こまみ「・・・」

このところ遊ぶ姿を見ないと思ったら、ここにいたのか。
ついでにとプロデューサーは、双子にも質問をしてみることにする。

P「お前ら、あふぅが最近おかしい理由を知らないか?・・・っておい」

こまみ「・・・」ダッ

こあみ「!」

すると、こまみが駆け出していった。
後を追うと、物置の前で、ドアを開けようとしている。
プロデューサーが開けてやると、すぐ中に飛び込んだ。

暫くして。

こまみ「・・・・・ちぃぃ」

P「おい、いったい何が・・・・・」

その時。
物置から出てきたこまみが手にしていたものを見て。
プロデューサーは、言葉を失った。


翌日。

あふぅ「なぁ~のぉ~・・・・」

あふぅはようやく目を覚ます。すでに昼過ぎだった。

あふぅ「・・・ナノ?」

ふと頭をあげると、ソファの周りにプロデューサーやアイドルたちが集まっていることに気付く。
全員が暗い表情で押し黙っていた。

何か自分に黙って企み事をしているのか。
頭にきたあふぅは、寝床から飛び降りて皆の方へ駆け寄る。

あふぅ「ナノーーーー!!!」


「「「「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」」」」」」」」


すると、皆が一斉に振り向いた。
皆が、冷たい表情であふぅを見つめる。

P「・・・やっと起きたのか、あふぅ」

あふぅ「ナノっ?」

P「こいつを、見てみろ」

ドサッ!!

プロデューサーが、あふぅの前に何かを放った。

あふぅ「ナ・・・ナァァ?!!」


―――それは、ゆきぽのスコップ、おもちゃのバット、ハリセン。
あふぅ、そして双子がゆきぽをいじめるのに使った道具だった。

おまけに、全ての道具に血が付いていた。ゆきぽの。

P「これ全部、ご丁寧に物置の中に隠してあったんだよ。

・・・あふぅ、正直に答えろ。
お前はこれを使って、ゆきぽをいじめてたんだな?」

あふぅ「な・・・ナ・・・ナノォッ!!ナノっ!!」

あふぅは必死で否定した。
しかし同時に、疑念が沸き起こる。
なぜ。なぜそんなものをプロデューサーが持っている。
物置に隠していたことは、自分と双子しか知らないはず・・・。

P「嘘は通用しないぞ。ぷち達皆が、お前がゆきぽをいじめてたことを証言したんだ。
お前、告げ口しようとした奴にも脅して口封じしたらしいな?」

あふぅ「?!」

あふぅは愕然とした。
そもそも恫喝するまでもなく、ぷち達は自分を売ろうとはしなかったのだ。
前までは。
それが、急に何で。

ちひゃー「・・・」フンス

やよ「・・・」

たかにゃ「・・・」

まこちー「・・・」

いお「・・・」

ちっちゃん「・・・」

ぴよぴよ「・・・」

はるかさん「?」

ふと目線を横に向けると、ぷち達がこっちをじっと見ていた。ゴミを見るような視線で。
敵対していたちひゃーに至っては、勝ち誇るようなドヤ顔をしていた。

そう。
もうあふぅは、ぷちどるのガキ大将でもなんでもないのだ。
ゆきぽが死んだときから、既にあふぅと他のぷち達の力関係は逆転しつつあったが、これで完全にあふぅは弱者の立場に堕ろされた。

P「これで、ゆきぽが二階のベランダから飛び降りて死んだのも分かった。
いくら寝ぼけてても、部屋の窓が開いてても、そもそもベランダの縁になんか登る筈がないよな。

―――つまりは、お前のいじめが原因で自殺したってことだ」

あふぅ「・・・・」

あふぅはもう、声も出せなかった。何も言い訳もできなかった。

その時、あふぅはふと怯えるような視線を向けられているのを感じる。

こあみ「・・・・!」

こまみ「・・・・!」

双子だ。
貴音の足元で震えているこあみとこまみ。
この場にいる者の中では唯一、オドオドした態度だった。

・・・そうか・・・。
あいつらが、裏切って告げ口したんだ!!
あふぅの頭に、再び血が上ってきた。

あふぅ「ナノォォォォォォ!!!!」

あふぅは怒りのあまり、双子の方へ向かって駆け出した。

その時。


ドゴン!!

あふぅ「な、ニ゛ャは゛ぁっ?!!!」

突然あふぅは、腹部に凄まじい衝撃を喰らったかと思うと、吹き飛ばされて壁に叩きつけられていた。
何が起きたのか分からないでいると。

雪歩「・・・」

雪歩が、顔を真っ赤にしてこちらへ歩み寄ってくる。
他ならぬゆきぽの飼い主が。

雪歩「・・・痛かった?痛かったよね?
野球用のスパイクシューズで思いっきり蹴ったもんね?

でもね、ゆきぽは、お前より、もっと痛い思いをしたんだよッ!!!」

ドガッ!!バゴッ!!ガッ!!

あふぅ「ナ゛!!ニ゛ョハ゛ゴッ!?!あ゛ぶっ!!
ナ゛ぁア゛ア゛ゴフッ!!!」

雪歩は感情を抑えきれずに、執拗にあふぅを蹴り続けた。
特に顔面を。靴底の突起がまともに当たり、皮膚を引っ掻き、肉に刺さり、血が噴き出す。
それでもなお、雪歩はあふぅへの制裁を止めようとしない。

雪歩「このゴミ!!クズが!!なんでお前なんかが!!」バゴッ!!ゴキッ!!

P「・・・・雪歩。もう、その辺でやめておけ」

鼻骨が折れる音が響いたところで、Pたちが雪歩を羽交い絞めにした。

あふぅ「・・・・・な・・・・な・・・ァ・・」

辛うじて意識は保っていたが、あふぅは初めて恐怖を味わい、震え上がった。
今だって雪歩は、皆に抑えつけられていても、あふぅを鬼気迫る表情で見つめていたのだ。

P「・・・さて。
こんなことが発覚した以上、もうお前を事務所には置いておけない」

あふぅ「・・・?!」

P「当たり前だろう?お前がまた、他のぷち達に危害を加えたりするのは御免だからな。
・・・それに、周りを見てみろ」


真美「・・・」

亜美「・・・」

美希「・・・」

春香「・・・」

真「・・・」

千早「・・・」

貴音「・・・」

あずさ「・・・」

律子「・・・」

小鳥「・・・」

あふぅを取り囲んだ人間たちが、さっきよりも軽蔑の色を強めた表情であふぅを見下ろす。

P「本当なら、雪歩に敵を取らせるところだがな。さすがにアイドルに動物殺しの汚名を着せるわけにもいかん。
もちろん俺たちも、今さらお前を殺そうなんて思いもしない。ゆきぽは帰ってこないんだからな。
だから、お前にはここを出て行ってもらう。

野良ぷちとして、どこへなりと行け。二度と戻ってくるなよ」

そう言い放つと、プロデューサーは事務所の玄関へ向かい、ドアを開けた。

あふぅ「・・・・」

P「さぁ、何してる?出て行けと言っただろう。
あれだけのことをして住処を追い出されるだけで済むなんて、あり得ないことだぞ。

・・・それとも、ここにとどまって皆にぶち殺されるか?」

あふぅ「・・・・!」

一瞬、目を見開いたあふぅ。
だが、それしかもう選択肢がないことは分かっていた。

あふぅ「・・・・・・・・」テクテク

やがて、うなだれながら、玄関へ向かって歩き出していく。
そして、完全に玄関をくぐると、

バタン!

ドアが、閉められた。

あふぅ「・・・・」

もうあふぅは、振り返ることもなく、階段を降りていく。
その暗い背中は、あふぅの打ち砕けたプライドを象徴するかのようだった。


しばらくしてプロデューサーが玄関を開けると、あふぅの姿は既になかった。
もちろん、事務所の周りにもあふぅはいなかった。
一体ヤツはどこまで行く気だろう。プロデューサーはふとそんなことを考える。
あの生意気そうな気色悪い外見と、ワガママ勝手な性格。拾い手などいるだろうか。
仮に拾ったとして、また同じことになるのではないか。
そんなことを思いつつ、彼は仕事へ戻った。

それから半月ほどして、金色の謎の生命体の死骸が発見されるというニュースがあったが、それがあふぅかは定かでない。


そして、あふぅが去って一ヶ月が経った。

小鳥「・・・ふぅ」

プロデューサーもアイドルたちも再びライブのリハで出払ってしまった真昼の事務所で、一人小鳥がデスクワークをしている。
一息ついたところで、お昼を済ませてぷち達のご飯を買ってこなければと思い、買い物の支度を始めた。 

小鳥「それじゃ、ぴよぴよ、お留守番よろしくね」

ぴよぴよ「ぴっ」

そして事務所を出ていく。
事務所の中は、ぷちどるだけになった。

ぴよぴよ「zzz」

ぴよぴよは連日の仕事疲れもあり、昼寝を始めた。
すると、

ちひゃー「くっ」

まこちー「まきょ、まきょ」

ちひゃー「くっ♪」フンス

まこちーが、持っていたお菓子をちひゃーに渡したのだ。

やよ「うっうー」

ちびき「だぞ」

いお「もっ」

たかにゃ『献上』

ちひゃー「くっくー♪」フンス

はるかさん「ヴぁい?」

すると、皆がまこちーに倣うように、ちひゃーにお菓子を渡す。
まるで王様へ貢物をするように。


あふぅが去ったことで、ぷちどるの間の力関係も変化した。
ぷちの中でも一番我が強く、それなりの賢さも持ったちひゃーが、新たな親玉となったのだ。
名目上はちっちゃん、ぴよぴよがお目付け役だが、二匹とも仕事で忙しく、もう他のぷちを統制するだけの権威など二匹にはなかった。
まこちー、たかにゃ、やよ、ちびきには、ボスの座を狙う野心などない。
一時期いおがちひゃーに対抗しようとしたが、ビームという"絶対に使えない"必殺技しかとりえのないいおに勝ち目はなく、結局は諦めてちひゃーの下に付くことを選んだ。
はるかさん、みうらさんは、元から存在感が薄く、他のぷちと群れることもあまりないので、蚊帳の外である。

そして。
上がいれば下もいる。
弱虫ゆきぽがいなくなり、新たな最下層カーストに選ばれたのは・・・。

ちひゃー「・・・くっ」

まこちー「まきょ」

いお「もっ」

ふとちひゃーは、思い立ったように席を立つ。まこちー、いおがそれに続く。
行先は、給湯室。

ちひゃー「・・・くっ♪」

こあみ「・・・!」

こまみ「・・・!」


―――そう、双子だ。


こあみもこまみも、力も頭脳もぷちの中では最弱クラスだった。
二匹は今まで、あふぅの腰ぎんちゃくになることで、かろうじて上位カーストに居られたに過ぎなかったのだ。

しかし、あふぅはもういない。
自分たちがゆきぽいじめの証拠品を差し出して、あふぅを売ってしまったからだ。
あふぅに代わって双子を守ってくれる存在は、いなかった。

そして、新たなボスとなったちひゃーは、本来ならあふぅと一緒にいじめの犯人として告発できたのに、それをしなかった。
敢えて生かしておいて、強敵のあふぅ亡き後、奴隷身分として散々な目に遭わせてやろう。そう考えたのだ。
他の皆も、あふぅに付き従っていた双子に良い感情は持っていなかったし、ただで済まそうとは考えなかった。

そして、新たないじめのターゲットに、双子が選ばれた。

ちひゃー「くっ!!くっくっくーー!!」

こあみ「・・・・と、か・・・」

こまみ「・・・・ちぃ、ぃ・・・」

ちひゃーは突然、双子に向かって怒鳴り散らす。
今日もお前はお菓子を持ってこなかった。
いつもいつもオドオドして、その態度が気に食わない。
何様だ。
そんなちひゃーに対し、双子はただ震えるだけで何もできない。

ちひゃー「くっ!」

まこちー「まぁきょっ!!」ボガッ

こあみ「とぎやぁはっ!?!」

すると、ちひゃーの指図でまこちーが腹パンを繰り出す。
その後も、何度も何度も。

まこちー「まきょっ!まきょ!!まきょ!!!」ボガッ ボガッ ボガッ

こあみ「と、ぎぃ・・・・」ピクピク

腹パンにしたのは、ちひゃーの策だ。
スコップなどと違い、これなら傷が残ることもない。
仮に発覚したとして、実行犯はまこちー。
人間たちがちひゃーを疑うことはそうそうない。力のあるまこちーが疑われることだろう。

こまみ「ち、ちぃぃ!!」

暴力におびえ、この場から逃げ出そうとするこまみ。
そこへ、

いお「もぉっ!!」ミョンミョン・・・

こまみ「・・・!」

いおが行く手を阻んだ。
おでこでビームをチャージしながら。

これも、ちひゃーの策であった。
もちろん本当にビームを撃つことはないが、壁を吹き飛ばすだけのビームを「撃つぞ!」と脅して見せるだけで、双子には十分だ。
仮に撃ってしまったとして、やはりちひゃーが疑われることはない。

こまみ「・・・」

こまみは絶望し、その場にへたり込んだ。
その時、無防備なこまみの腹を、まこちーの鉄拳が狙っていた―――


いじめ。
人間の社会集団では、どこにでもあること。
どれほど心ある人間が奮闘したところで、いじめがなくなることはない。

動物の世界でも、いじめは存在する。
弱肉強食という言葉が示すように、弱いものは生き残れないのが、生物界の掟だからだ。

そして、その掟は、ぷちどるの世界にも存在するのだ―――


おわり


  • 最終更新:2014-02-21 15:20:32

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