いたずらの代償(仮)

「ふんふ、ふんふ、ふんふふふふーん♪」

仕事が上手くいき上機嫌のP。鼻歌交じりに事務所へと帰ってきました。

「おや? ははーん」

半開きになったドアがありました。
ぷちたちがいる事務所では、扉は開けっ放しが基本です。
入られたくない場所だけはしっかりとドアを閉めてありますが、ぷちたちの身長ではドアが開けられないためにそういう措置が取られています。
Pが見上げているドアは、開けっ放しになっているドアの一つでした。
そこには、黒板消し――事務所ではホワイトボードが使われています――が挟まれていました。

30分前。

「とかっ!」「ちー!」

事務所でお留守番のこあみこまみ。
視線はホワイトボードに置かれた黒板消し。
二人は、顔を見合わせると悪巧みを思いついた黒い笑顔を浮かべました。
こあみが、跳び上がります。届きません。
こまみが、飛び上がります。届くわけがありません。

「とかっ、とかっ」「ちー……」

こあみが、こまみの上へと登りました、何とか黒板消しに手が届きました。

「とかー」

こあみは、喜びのポーズ。

こまみの上で、そのような動きをしたためにバランスを崩してしまいました。
二匹は、重なるように倒れました。

「とかぁぁっ……」「ちぃぃぃっ……」

二匹は頭を打ち合い、痛みにごろごろと地面を転がります。
愚かです。

「とかっ、とかっ!」

こあみが、ドアの近くで飛び跳ねます。届きません。どうして届くと思うのでしょうか。

「ちー」

こまみが黒板消しを奪い……(以下略)

「とかっ、とかー」

解決策を思いついたのか、こあみが、ドアへと跳びつきます。
衝撃でドアストッパーが外れ、その重みで、ドアが動き出しました。

「とがぁぁぁぁ」

閉まるドアに挟まれるこあみ。

「ちーちー」

見かねたこまみが、ドアを押さえました。

「とかっ、とかー! とかぁ!」「ちー!ちー!」

なんで押さえとかなかった。わたしのせいにするな。
人間なら、そんな言い争いをしているのでしょう。醜い姉妹喧嘩です。

「ちー、ちー」

こまみは、紐を取り出しました。
片方の端を、黒板消しに。もう片方をこあみに結び付けました。
こまみがドアを押さえます。

「とかっ!」

こあみが、ドアを登っていきます。
強めにこまみの頭を踏みつけたような気がするのは気のせいでしょう。

「ちー!!」

そんなこんながありましたが、何とか黒板消しをドアに挟むことが出来ました。
後は、物陰に隠れて様子を見守るだけです。

…………
………
……

「またこあみ、こまみの仕業だな」

機嫌のいいPは、頭を差し込むようにして扉を開けました。
そうしなければ、黒板消しは地面に落ちてしまいます。
ぽんっ、とPの頭に落ちる黒板消し。

「とかかかかかっ」「ちちちちちちっ」

物陰から転がり出てきた二匹は、大喜びです。
お腹を抱えて笑っています。

「こーら、こあみ、こまみ。お前達だなこんないたずらしたのは」

叱るPですが、本気で怒っているわけではないことは二匹にも伝わっています。

『にーちゃ、にーちゃ』

二匹は、Pに纏わり尽きます。
Pは、頭を撫でてあげました。

別の日。
昼休み、お腹が膨れたPは、机でうたた寝していました。
そこに近づく二つの影。

「とかー」「ちー」

二匹は、顔を見合わせると、しー、と手を口に当てました。
手にはマジック。二匹には読めませんが油性と書かれています。

「とかかかか」「ちちちちちち」

きゅきゅきゅ、とPの顔の平面へと落書きをしていくこあみまみ。

「プロデューサーさん、起きてください」

小鳥さんのやさしい声に、Pは眠りから目覚めました。
差し出された手鏡を覗き込むと、頭の上ではるかさんが甘噛みしていました。

「ちがいますよ」

はるかさんを引き離すP。やんわりと、小鳥さんに注意されます。
顔に、顔がらくがきされていました。
Pは、ティシュを取り出すと顔を拭きました。
きゅきゅっ、とすべる音とともに油性のマジックすら綺麗に落ちました。
Pヘッドは何で出来ているのでしょうか。

「こあみ、こまみ」

Pは物陰で様子を伺っていた二匹を猫つかみすると、眼前へと持ち上げました。

「さて、どっちがやったんだ」

「とかー」「ちー」

お互いを指差す二匹。あっさり売り渡します。薄情な生き物です。

「わかった。お前達か」

「とかー!」「ちー!」

Pの手の中で争いあう二匹。責任を擦り付け合います。

「俺ならいいが、アイドル達に落書きはするなよ」

Pに睨まれ、こくこくとうなずく二匹。約束が守られることはありませんが。
よし、と開放される二匹。

『にーちゃ、にーちゃ』

許された二匹は、Pに纏わり搗くのでした。

またまた別の日。
Pに甘やかされた二匹はより調子に乗りました。
次のいたずらの計画を立てます。

「とかっ!」

気合一閃、こあみが突撃します。
狙いは、Pが座った椅子。
その椅子は、一本の棒から放射線状にキャスターが付いている一般的な事務用の椅子です。
突き出された腕は、その棒を押しました。
とはいえ、大の男が座った椅子を、キャスターが付いているとはいえこあみの体重で突き飛ばせるはずがありません。
しかも、手のひらもないように見えるこあみの手はしっかり支えることも出来ずに手を滑らせてしまいました。
ごっ、と鈍い音をさせてこあみは頭を強かに打ち付けました。

「とがぁぁぁっ!」

こあみは痛みに身体を震わせています。

「大丈夫か、こあみ?」

首根っこを掴まれて持ち上げられるこあみ。
気をつけて走り回れよと言われて、床に下ろされました。
大失敗のこあみを待っていたのは、大笑いしているこまみ。

「とかっ!」

じゃあ、やってみろ、とこあみ。

「ちー」

こまみは任せろと、ムネを叩きました。

こまみはこっそりと、椅子へゆっくりと近づきます。
Pは仕事に集中して気が付きません。
しばらく待ちました。
pllllpllll
電話が鳴り響きました。
765プロは、弱小とはいえ、そこそこ忙しい事務所です。
Pは軽く立ち上がると、受話器を取り上げます。
こまみは、その瞬間を見逃しませんでした。
椅子を押します。こまみですらキャスターつきの椅子なら動かせます。

「はい、どうもありがとうございます」

Pは受話器を下ろしました。
そのまま腰を下ろせば、しりもちをつく。こまみはソレを狙っていました。
しかし、普通は座るとき自分の腰を下ろす位置を確認するでしょう。
Pも、同じようにちらりと視線を椅子へと向けます。
その椅子が動いていました。その下ではこまみがほくそ笑みながら椅子を押しています。

「こまみ」

Pは椅子を動かした犯ぷちをつまみ上げました。
危ないいたずらはするなと叱られました。
しょんぼり戻ったこまみを出迎えたのは、腹を抱えたこあみです。

「ちーちー!」「とかー!とか!」

始まったのは、醜い姉妹喧嘩です。
とはいえ、全く同じ能力の二匹では決着が付くはずがありません。
徒労なので、喧嘩を諦めました。

「とかー!」「ちー!」

一匹で駄目なら二匹です。
協力することをきめました。
そして、タイミングは椅子に座る瞬間を狙います。
pllllpllll
また電話が鳴りました。
Pは、電話に出るために腰を浮かします。
通話が終わり、席へと腰を下ろす瞬間。

『とかっ、ちー』

吶喊。
さすがは双子と言うべきタイミングでPの椅子を突き飛ばす二匹。
誤算と言うべきか、愚かと言うべきか、二匹は椅子を突き飛ばしたことに満足してその場で足をとめてしまいました。
Pは座るべき椅子を失い、そのしりは床へと落ちていきました。
つまりは、二匹の上へと。

「とがぁぁぁっ!」「ぢぃぃぃぃっ!」

自分達の体重の何倍もあるであろうPに押しつぶさる二匹。
こあみまみがクッションになったお陰で無傷のPでしたが、椅子がなかったショックに呆然としていました。
尻の下で泣いている二匹に気付くまで、ほんの少しの時間がかかりました。
二匹にとってはそれは永遠に近い時に感じられたことでしょう。

Pに滅法叱られたこあみこまみ。
しかし、反省していたずらを止めるなどという考えにはいたりません。
泳ぐのを止めたら死ぬ鮪のように。
どんなに酷い目に遭おうとも。

「ちー」

こまみは紐を用意しました。
これで、廊下を来るPの足を引っ掛けようと言うのです。

「とかっ!」

こまみが、事務机からガムテープを拝借してきました。
これで、壁に紐を貼り付けます。

「とか……とかっ!?」

ガムテープが手に張り付いてしまいました。
右手に張り付いたガムテープを左手で剥がします。
左手に張り付きました。

「とかっ!とかっ!とかっ!」

左手に張り付いたガムテープを剥がすために腕を振りまわします。

「ちー……」

ガムテープでぐるぐる巻きになったこまみが床に転がりました。

「ちー、ちー、ちー!」

こまみが怒り出したので、紐をガムテープで貼り付けるのは、諦めました。
二匹は、廊下の両端に別れ、紐を手に持って獲物が通りかかるのを待ちます。
そこに歩いてくるP。

「とか」「ちー」

タイミングを合わせて紐を引きます。
ピンっと張られた紐がPの足に引っかかりました。

「とかー?」「ちー?」

するりと、二匹の手から逃れる紐。ぷちの握力では大人の足の力に勝てなかったようです。
Pは足に絡まる紐に気付きました。
そして、呆然とこちらを見る二匹の姿も。

「とかー……」「ちー……」

頭に大きなたんこぶをこさえてうずくまる二匹。
危ないいたずらはするなとPに叱られました。

「とかーっ!」「ちー……」

諦められないこあみと、もう止めようとこまみ。
今度こそ手から離れないように手にしっかりとぐるぐる巻きにしました。

「とかっとかっ!」「ちー!」

ちゃんと巻いてよ。巻いてるよ。
口げんかを始める二匹。そこにPが近づいていることに気が付きません。
Pは床に落ちた紐に気が付きました。
二匹は廊下の陰に隠れて見えませんが、声だけは聞こえます。
Pは、紐を床に投げはなして二匹が遊んでいると思いました。
親切心から、紐を片付けてあげようとしますが、しゃがむのも面倒なので勢いづけて紐を拾い上げます。
その先にこあみまみが引っ付いているとは思いもよりません。

「とかー!!」「ちぃー!!」

宙を舞う二匹。お互いの重みの勢いのままに空中で激突しました。

「とがぁぁぁ」「ぢぃぃぃ」

顔面同士を打ち付けあう二匹。
どちらが悪いかと、宙ぶらりんの中、喧嘩し始めました。

「お前たち、こういういたずらはするなと言ったよな?」

Pは、二匹へと声をかけましたが、聞いちゃいません。
Pは、ため息をひとつつくと、紐の両端に二匹を結びつけ、コート掛けへとぶら下げました。
お仕置き中という張り紙とともに。

「とかー!」「ちー!」

怒られた。怒られたじゃないか。
宙ぶらりんの中、お互い責任を擦り付け合います。
やがて、どちらともなく手を出し合いました。
そこは双子の息の合い方か、拳を打ち付けあうたびに痛みに悲鳴をあげました。
けりを放てば、お互いに足裏を打ち付けあい、紐を支点に大きく離れます。
離れあっても結局は引き合うのは、双子ゆえ?
いいえ、紐で結ばれているからです。

「とかぁぁぁっ!」「ちぃぃぃぃっ!」

またも顔面同士を打ち付けあいました。
喧嘩はヒートアップします。
そのたびにアメリカンクラッカーのように、二匹は自らの頭を打ち合うことになるのです。



「とか」「ちー」「とかー」「ちー」

こあみこまみは、相談しました。
もうPを狙うのは諦めましょうと。

「だぞ、だぞー♪」

ちょうど間抜け面を晒した哀れな獲物が現れました。
最後くらいは成功して終わりにしたいものです。
二匹は、紐を持って廊下の影に隠れました。

「とか」「ちー」

「だっ!」

今回は綺麗にひっかかりました。
ちびきは何度引っかかれば気をつけるようになるのでしょうか。

「びえーっ!」

そして、こあみこまみは、いい加減学習すべきです。
ちびきにいたずらを仕掛け、泣かせれば、どうなるのかを。

ちびきの泣き声に呼ばれ、現れたのは、爬虫類のような尾を持つ巨大な鳥でした。

「とかー」「ちー」

壁際で震えるこあみこまみ。
必死に、ちびきに謝罪します。
ちびきは床に突っ伏したままでした。
しかし、腕の隙間から見える口もとは歪な笑みを浮かべていました。
二匹は悟りました。自分たちは助からないと。
鳥の尾に捕らえられたこまみ。

「ちぃーーーーっ!」

たすけてこあみ。
こあみは、一目散に逃げ出しました。
鳥がこまみに気を取られている隙にと。

「とかっとかっ」

肉食の動物というのは動く生き物のほうがよく見えるといいます。
つまり、急に動いたこあみへと鳥の意識は向きました。
鳥の嘴がすばやくこあみの姿を捉えると、一飲みにしてしまいました。


「とかぁぁぁっ!」

のどに引っかかったのか、髪留めだけを吐き出しました。

「ちー、ちー、ちー」

鳥の瞳には、涙を流しながら首が千切れんばかりに振るこまみの姿が映っていました。
その動きが気持ち悪かったのか、尻尾ごと壁にたたき付けました。

「ぢっ!」

ごっ、と頭を壁に打ち付けられたこまみ。
その衝撃で意識を離しました。
ぐったりとしたこまみを丸呑みにする鳥。
鳥は満足するとその姿を消しました。

「あれ、ちびきだけか?」

Pの問いかけにちびきはうなずきました。

「ないさー」

その足元には、髪留めだけが転がっていました。



さて鳥には歯がないため、基本的には餌は丸呑みです。
そこで、消化を助けるために、小石などを飲み込んでいるそうです。
鳥に飲み込まれたこあみこまみ。

「とかぁぁ」「ちぃぃ」

生きていました。泣こうが叫ぼうが出れることはありません。
素嚢と呼ばれる食料貯蔵庫のような部位にいました。
やがて内臓が動くと、前胃と呼ばれる部位で消化液を掛けられます。

「とがぁぁあああっ!」「ぢぃいいいいっ!」

肌を刺す刺激に悲鳴を上げる二匹。
しかし、本当の地獄はここからです。
砂肝と呼ばれる部位では、ごつごつとした石ころが幾つも飲み込まれていました。
消化液で柔らかくなった餌は、その石ころによってすりつぶされ胃に送られます。
鳥の砂肝の中の石ころ一つ一つが、大人の握りこぶしほどありました。

「どがぁぁぁ……」「ぢぃぃいい……」

延々と石で殴られる痛み。石と石に挟まれすりつぶされる腕や足。
獣の一噛みで絶命出来ていればどれだけ楽だったろうか。
胃で消化されるまで、その苦しみは続くのでした。

おしまい


  • 最終更新:2014-02-20 22:10:36

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