みなしごぷっち~あふぅの場合~

P(・・・はぁ)

あふぅ「ナノぉ♪はにぃ~♪」スリスリ

七月下旬。
夏真っ盛りというこの日、765プロのプロデューサーは深くため息をついた。


アイドルたちが奇妙な生き物「ぷちどる」を拾って、もはや三か月経った。
アイドルそっくりの見た目、様々な個性を持つ興味深い生き物である反面、その奇妙な習性にはたびたび765プロの皆の頭を悩ませていた。
どこからともなくスコップを取り出して事務所の床に穴を掘ったり、ビームを打ったり、金目のものをとことん追いかけて車道に飛び出したり、昼寝中のアイドルの顔に落書きをしたり・・・。

まぁ、これだけならマシな方だろう。
一番の問題は、このあふぅにある。

機嫌を損ねたり、お腹が空いたり、昼寝を邪魔されると途端に暴れだし、皆にケガを負わせて、事務所を荒らす。
他のぷちとケンカをし、いじめたりする。
好物のおにぎりを日に何十個も要求する。
そうして、散々暴れ、思う存分飯を食らうと、また昼寝を始める。
あまりに目に余る振る舞いの後、グースカグースカと鼻提灯を立てて眠るあふぅの姿は、事務所の皆にとってストレス以外の何物でもない。

当然、様々な躾を試みたが、効果はゼロ。
言葉でいくら注意しても、威嚇の鳴き声を上げるか、無視するか、昼寝を始めるだけ。
時には体罰まで使ったが、却ってあふぅを反抗的にしただけだった。


そうしているうちに、アイドル達から苦情が来た。

「あふぅがまた衣装の上でウンチして寝てるんですけど・・・」

「またミキのおにぎりを盗んだの!あんなの捨ててよハニー!!」

「またゆきぽがあふぅにいじめられてます~」

「ちひゃーのことをしつこくからかってきて・・・」

・・・・

プロデューサーや同僚の律子、事務員の小鳥、そして社長は頭を痛めた。
元はと言えば、あふぅを含めたぷち問題は、お前たちが勝手にそいつらを拾ってきて、世話はちゃんとするとか言っときながら、結局仕事がどーたらこーたらと理屈をこね、俺たちに預けたからだろう・・・。
四人は心の中でそう思った。とはいえ、仕事に支障が出ていることは事実。
もう事務所にはおいては置けない、他のぷちはともかく、このあふぅをどこか別の場所へ移さねばならない。

まずは響が名乗りを上げた。新しい飼い主として。
まぁ動物好きの響のこと、うまくやっていくだろう・・・。そんなこともあり、事務所の皆は響にあふぅを託した。
しかし、わずか一週間でダウン。
元から居た響のペットとケンカをし、エサを奪って、家を荒らし、散々暴れて疲れたあとは、その辺で寝る。
とてもじゃないけど限界だ、と疲れ切った表情で、響はあふぅを事務所に持って帰ってきた。

他にも、ぷち好きの貴音、真にも預けられたが、同じ理由で、また一週間後には事務所へ戻ってくる。

さらにはあふぅを持ち込んできた張本人の亜美に世話をするよう、事務所の皆が亜美に詰め寄ったことがある。
しぶしぶ本人が承諾し、双海家で引き取ることになったが、これは二日でダウン。
実家の病院を滅茶苦茶にし、両親から大目玉を喰らったことが理由だった。


もうアイドルにも預けられない。
プロデューサーらは知り合いという知り合いに片っぱしから声をかけた。
あふぅを引き取ってはくれまいか、と。

しかし大半は断るか、引き取ってもその翌日には事務所へと戻された。
理由は言うまでもない、あふぅのあまりに酷い暴挙である。
加えて、わずか二頭身しかないのに頭はでかい、発情期ゆえにいきなり金髪が抜け落ち、一時間後には茶髪へと生え変わるといった、気味の悪いあふぅの身体的特徴もあった。

プロデューサーは最寄りのペットショップに足を運び、商品として引き取ってはくれないかと頼んだ。
しかし、そんな得体のしれない生き物など引き取れない、と断られた。

頼みの綱の保健所にも、同じ理由で断られる。


―――となると―――最後は、捨てるしかない。
それも、あふぅが二度と戻ってはこれないところへ。


高木「―――それで、君の地元で処分する、と?」

P「ええ。
―――九州まで行けば、まずあふぅは戻ってはこれないでしょう」

高木「じゃあ―――任せたぞ」


数日後。
Pはあふぅを檻に入れ、車で九州の実家へと向かった。

車の中。
プロデューサーは時折サービスエリアに寄りつつ、のんびりと高速道路を運転する。

P(・・・さて・・・)

あふぅ「・・・・ナー!ナノッ!!ナニョォォォォォォ!!!!」ドタバタ ガンガンガン

さっそくあふぅは檻の中で暴れている。
早く出せ、飯をよこせ、ここじゃ寝心地が悪いんだ、と言わんばかりに。
ちなみに、もう五時間近く運転しているが、一度もあふぅには水もえさも与えていない。
糞尿を漏らしたら、麻酔薬を嗅がせて、最寄りのサービスエリアに寄り始末するだけ。
まぁ、それでも最高気温34℃の猛暑日で、ろくにエアコンも効いていない車内で一度も脱水症状にはならなかったので、良しとしよう、と彼は思った。

七時間後。すでに日は沈み、高速は真っ暗。
お盆とはいえ、今の時間は車の数もあまり多くはなかった。
すでにあふぅは、暴れ疲れたのか眠りこけている。

あふぅ「はにぃ・・・あ・・・ふぅ・・・zzz」

しかし、それから二時間後には目を覚まし、またここから出せと暴れ始める。その繰り返し。
プロデューサーはカーステレオをかけ、あふぅの不快な鳴き声をかき消し、ハンドルを握り続けた。


事務所を出て、十数時間後。
プロデューサーの実家に到着した。
もうそろそろ夜が明けるころだ。

あふぅ「はに・・・はにぃ♪」

すっかりあふぅは目を覚ましたらしい。
周り一面、田んぼだらけである田舎町の風景に、なぜか大はしゃぎ。
用水路へ飛び込もうとしたのを、プロデューサーが首根っこを掴み、引き戻す。

あふぅ「やー!はにぃー!」ジタバタ

P「・・・大人しくしてろよ」

またため息をつくP。
まぁいい、明日まで我慢すれば、こいつとは永遠におさらばだ。

その日の夜。

あふぅ「ナノ・・・なの・・・zzz」

あふぅはすでに寝ている。
プロデューサーの実家の台所を荒らしまわり、食器を何枚も割り、捕まえようとした彼の母親の脚に噛みつき、転ばせ。
そんな暴虐の限りを尽くしたあふぅは、すっかり疲れ切って寝ていた。
プロデューサーと彼の両親は、それ以上に疲れ切っていながら、家じゅうの掃除をしているのに。
そして時々目覚めては、檻から出せと暴れ始める。
両親は、彼にあの生き物を何とかしろ、とせがんだ。
彼は分かってる、明日まで待ってほしい、と言った。


翌日 夜 

あふぅ「はぁにぃ・・・なぁのぉ・・・zzz」

P(・・・ここでいいかな)

実家に到着した次の日、プロデューサーは夜中に家を出た。
両親には、コンビニで酒とつまみを買ってくるから、と言って。
ついでに、あふぅも処分してくる、とも。
庭に置いてあった檻を覗くと、あふぅはすっかり眠りこけていた。
今朝はギャーギャー騒いで居たくせに・・・彼はまたため息をついた。

そして、慎重に車を運転し、一時間後に町を離れた小さな山のふもとに着く。
まるで「ドラえもん」の、のび太の町の裏山そっくりだ、とプロデューサーは思った。


そして、ある程度まで登ったところで。
あふぅを慎重に檻から出し、大樹の根元にそっと置いた。

P「じゃあな、あふぅ・・・お別れだ」

そっとつぶやき、山を後にする。
当のあふぅは、ぐっすり眠っていた。

あふぅ「はにぃ・・・zzz」


―――今日から、檻よりも酷いところで、自分が過ごす羽目になるとも知らずに。


翌朝。

あふぅ「・・・はに・・・はにぃ?」

あふぅは目を覚ます。
目をこすっていると、全く見覚えのない景色が広がる。しかもいつのまにか、檻から出されていた。
変だな・・・家の庭にあった、檻の中で寝ていたのに・・・

あふぅ「やーぁ!はにぃ~!」

あふぅは叫ぶ。
あの男を呼ぶために。
しかし姿を現さないどころか、声すら返ってはこない。

あふぅ「ヤぁ!はにぃ!!はにっ、はにぃ~~!!;;」

だんだんと泣き声へ変わってくる。
なんだかんだ言っても、あふぅはあの男の助けなしでは生きてはいけない、それは本能で分かっていた。
第一今は発情期。異性が恋しい頃だ。

あふぅ「・・・はにぃ・・・はにぃ~;;・・・」

しかし、いつまで経っても彼はやってこない。
ようやくあふぅも諦め、とぼとぼと歩き始めた。

あふぅ「はに・・・はに・・・」テクテクテク

あふぅは木の下から抜け出すと、道らしきものを見つけた。
そして、それに沿って歩き始めた。

あふぅ「ナぁ・・・;;」テクテクテクテク

あふぅは歩きながら、空を見上げる。
思い出すのは彼のこと。
いつの間にか、目が潤んでいた。
早くあの人に会いたいな・・・そんなことを考えていた。

しかし、これがまずかった。

コケッ
あふぅ「はにっ?!」

・・・たまたま転がっていた石ころに、足をつまづかせてしまったのだ。
人間には大したことはなくとも、ぷちにとっては足をつまづかせるのに十分だった。

そして、あふぅは地面に頭を打ち付ける。

ゴチン
あふぅ「びゃっ!?ニ゛ゃノぉぉぉぉぉっ!?」

短い腕でおでこをさわると、たんこぶができているのが分かった。
しかしどうしようもない。
しばらく痛さに身をうずめていたが、また歩き始めた。

あふぅ「・・・はにぃ・・・」

あふぅは気づき始める。
ここはどうやら山らしい、と。
もう一時間は歩いているが、一向にふもとに着きそうにない。どのくらいの高さがあるんだろう。
あとどれくらいで着くんだろう―――

そんなことを考えていると、また石につまづいた。

あふぅ「はにっ?!」

しかも、今度は坂道。
一旦転ぶと、そのまま坂を転がっていくのだ。

ゴチン!ガン!ゴン!
あふぅ「ナ゛?!・・・はぁに~~~~ぃぃぃぃ!!!!!」ゴロンゴロンゴロン

体中をぶつけながら、坂を転がるあふぅ。
しばらくすると、自分の頭と同じくらいの大きさの石に頭をぶつけた。

ゴチンッ!!
あふぅ「ニ゛ャ゛ァ゛ノ゛ォ゛?!」

また頭を触ってみると、さっきよりも大きなたんこぶができていた。

あふぅ「ナー、ナぁ~~;;はにぃぃ~~!;;びえーーーー!!びえーーーーーー!!!;;」

さすがのあふぅも大泣きし始めた。


しばらくして、やっとあふぅは泣きやむ。

あふぅ「・・・はにぃ」

目をこすると、どうやら出口のような門が見えた。
あそこを出れば・・・あの人に会える!
痛みなどすっかり忘れて駆け出した。

門をくぐる。

あふぅ「はにぃぃ~~っ!!・・・・はに?」

しかし、今度はただっ広い道路と田んぼが見えるだけ。
彼の姿はおろか、あのオンボロの藁ぶき屋根の家も見えない。

あふぅ「はにぃ・・・?」

キョトンとしていたが、とにかく進むしかない。
そう思って、階段を降り、道路へと向かった。


あふぅ「はにぃ・・・はにぃ・・・」テクテクテク

歩道を進み続けるあふぅ。
体は傷だらけ、服は泥だらけだったが、あふぅは全く気にしてもいなかった。

あふぅ「はにっ、はにぃ・・・」ゼエゼエ

とはいえ、三時間も歩くと、さすがのあふぅもバテ始めた。
一向に彼に連れてこられた、あの家は見当たらない。ただ田んぼが広がっていて、物置みたいな小屋と、あの家そっくりだけど、近づいてみると違う家が、たまに目に入るだけ。

あふぅ「はにぃ~・・・」ハアハア

そのうえ、のどが渇いていた。
一昨日の車の中では、彼が水をくれなかったので、仕方なく唾を溜めて、暫くしてから飲んでいた。
あの家に着いてからは、やっと水を貰えたし、それでも何とかなった。
しかし、今はもう唾も湧かないほどに、あふぅの喉はカラカラだった。
とはいえ、自分の小便を飲むのは嫌だ。そのくらいのプライドは、あふぅにもある。
でも、このままじゃ・・・。

あふぅ「・・・はにぃ・・・」ペタリ

あふぅは思わずその場にへたり込む。

あふぅ「はにぃ・・・・・・ナノっ?」

そのときあふぅは思い出した。
近くにこれだけ田んぼがある。
その用水路の水を飲めばいいんだ!

あふぅ「はにぃはにぃ!」トテトテ

あふうは田んぼの方へと近づく。
用水路は・・・あった!
あふぅは目当ての水を見つけ、走り出した。

その時。

ツルッ

あふぅ「ナノっ?!」・・・ザッパーーーン

・・・またしても足を滑らせ、水路へと落っこちてしまった。

あふぅ「ナ、ナノ!?」バシャバシャ

あふぅはカナヅチである。
必死に手足をジタバタさせるが、却って体は沈んでいく。
実際には水の量が減っていて、溺れるほど深くはないが、あふぅは混乱していて気づかない。

あふぅ「びえーーーー!ヤ、はにっ!!はにぃ~ぃ!!!;;」バシャバシャバシャ

あふぅは叫び、助けを求める。
しかし誰も手を差し伸べてはくれない。
それどころか、人の影すら見えない。

実はこの日、町で最高気温が40℃を超えており、高温注意報が発令され、住民は外出を控えるようにと警告されていた。
現にここ数日、田んぼを見てくると言って熱中症で倒れた農家の人々が相次いでいた。
だから、町では歩いている人がいなかったのだ。

あふぅ「はにガボゴボゴボッッッ?!!!!」

とうとう溺れそうになったあふぅ。
その時・・・

あふぅ「は゛・・・ガボ・・・・・・はにっ?!」

水草に体が引っかかった。

あふぅ「はにっ・・・ナノナノナノ!」グイッ

それを掴んで、ロープのように登っていくと、用水路から上がることができた。

あふぅ「・・・ナノっ」ホッ

ホッと一息ついたあふぅ。

また道路に戻ると、それに沿って歩き始める。

あふぅ「・・・ナノっ♪はにぃ♪」

溺れかけたとはいえ、水を飲んだのですっかり元気になっていた。


一時間後。
すでに正午を過ぎたころ、あふぅは道路のわきにあるコンビニを見つけた。

あふぅ「ナノっ!」

そこで何かご飯を貰おうという腹づもりであった。

ウィーン
店員A「あ、いらっしゃいませ――」

あふぅ「ナノっ、はにぃ」

若い女性の店員は唖然とする。
見たこともないちっちゃな生き物が、店に入ってきたのだ。
おそらく二頭身、なのに頭はでかい。しかも茶髪はハート型。
おまけに体中傷だらけ、服は泥だらけ。
驚きを隠せなかった。

その女性はスタッフルームに向かって叫ぶ。

店員A「Bさん!Bさ~ん!!ちょっと来てくださいよ~!!!」

店員B「なーに、どうかしたの?」

扉から出てきたのは中年の女性。

店員B「あら、かわいい。・・・あんた、どこから来たの?」

あふぅ「はにっはにぃ♪」

発情期のあふぅも、この女性には懐いた。

グ~キュルキュル
あふぅ「はっ・・はにぃ」

店員B「あらあら、お腹空いてんの?
これ、余りもんのおにぎりだけど、食べなさいな」

そう言って女性はあふぅにおにぎりを渡す。

あふぅ「はにぃ♪」モグモグ

店員A「ちょっとBさん、いいんですか?!
店の品物を勝手に――」

店員B「なによ、何とかしろって言ったの、Aちゃんでしょ?
それに、たかだか一個ぐらいバレやしないわよ。
なんならお代、ここに置いとくわよ」チャリーン

そう言って二人は、一旦スタッフルームへ戻る。

店員B「・・・あ、そうだ、あたしちょっとお父ちゃんの面倒見なきゃいけないから、今日はこれで帰るわよ」

店員A「え~?!店長も娘さんが熱中症で倒れたって言って、あたしら二人で切り盛りしなきゃいけないのに~・・・」

店員B「どうせ客なんて来ないでしょ?店長もあと二、三時間で戻るってんだから、泣きごと言わないの。
うちもお父ちゃんがボケちゃって、いつ何かしでかすか分かんないのよ、しっかり見張ってないと」

店員A「でも、あの変な生き物どうするんですか~」

店員B「明日まで店に置いといて、そんで町役場にでも持っていくわよ。
それでいいでしょ?じゃ、後よろしくね~」

ガチャン!

中年女性の店員は、店を出て行った。

店員A「はぁ~・・・」

しぶしぶと若い店員は、スタッフルームを出る。
レジに座って、雑誌でも読むか――

店員A「――――え?!」

あふぅ「はにっはにっはにぃ」モグモグモグモグモグ

―――なんとあふぅが、コンビニに置いてある弁当や飲み物を、ほとんど全て平らげていたのだ。
五分もたたないうちに。


二時間後。
コンビニの駐車場に車が一台停まる。
降りてきたのは、がっしりとした体格の、コンビニの制服を着た中年男性。

ウイーン
店長「やれやれ、うちの綯ったら、あの年になって、ベタベタと父親に張り付いてきやがって・・・。
ついつい面倒見ちまう俺も俺だけどな―――ん・・・?」

店員A「あっ、店長!てんちょーーーーー!!!」

店長「おいA!なんだこりゃ!!強盗、いや食い逃げ犯でも来たってのか?!」

店員A「ちっ、違います。あの、あの生き物が―――」

店長「・・・あ?」

店長は店員の指さす方向に目を向ける。
すると、見たこともないちっちゃな生き物が、仰向けになって鼻ちょうちんを立てながら、ぐっすり眠っていたのだ。
妊婦のように、でっぷりと肥えた腹をさすりながら。

あふぅ「はにぃ・・・はにぃ・・・zzz」

店長「・・・なんだこいつ?」

店員A「知らないですよ、二時間ぐらい前に勝手に入ってきたんです。
そんで、Bさんがご飯あげて、あした町役場にでも持ってくから、それまで店に置いとけって・・・
ちょっと目を離してたら・・・いつの間にか・・・」

店長「・・・・店にあった弁当と飲み物、全部食われたってか?」

店の床には、幕の内弁当やらカップ麺やらポテチやら菓子パンやら、ジュースやらミネラルウォーターの空き容器が散乱していた。

唖然とする店長。
とはいえ、あの腹を見れば、決して店員の言っていることは嘘ではないのだろう。

店長「―――おいお前!起きろ!!ここは寝床じゃねえぞ!!!」ユサユサ

あふぅ「・・・・はっ・・・・はに・・・?」ウトウト

店長「お前か?!お前がうちの商品を全部食っちまったのか?!」

目を覚ましたあふぅは、いきなりゴツい男性の顔を間近に見て驚いた。
何やら怒っているようだが、それが自分に対してだとは理解していない。

それでもあふぅは、その質問に堂々と答えた。

あふぅ「ナノっ!」エッヘン


その時。

グボッ!
あふぅ「に゛ゃの゛っ!?」

店長の蹴りが、あふぅのおでこに命中したのだ。

店長「・・・・この野郎!!
偉そうにしやがって、あれ全部でいくらすると思ってやがる!!!!
お前に払えんのか、え?!」

あふぅ「ナ゛っ!ノっ!!びゃっ!あ゛ふっ!!;;」

店長「泣いて済むと思ってんのか!!泣きたいのはコッチだってんだよっ!!!!」グボッ

あふぅ「ナ゛…!
びゃぁろろろろろろっ…!!!??」

店長「――テメェ!!
何店の床で吐いてやがんだ!!!オラァ!!!!!!」グボッグボッグボッ

あふぅ「 ・・・・・・あ゛ふ゛ぅ゛・・・あ゛ふ゛っ゛・・・」

店長の怒りは収まらず、その後何度も蹴りを入れた。
店員は茫然としながらも、止める気はさらさらなく、店の片づけをしていた。

それから十分経って。

店長「―――こんチキショウ、出ていきやがれ!!二度と俺の店に来んな!!!!」グボッ

ドサッ
あふぅ「・・・・・・。
・・・・・あ゛・・・、・・・ふ゛・・・ぅ゛・・・・」

あふぅは店から叩き出された。

すぐには頭とお腹の痛みで立ち上がれなかったが、それでも暫くしてよろよろと立ち上がる。
そして道に沿って、また歩き始めた。
空を見ると、そろそろ日が沈むころだ。

あふぅ「・・・はにっ・・・はにぃ~~;;」

しくしくと泣き始めるあふぅ。
プロデューサーにだって、あそこまで酷い暴力を振るわれたことはない、せいぜんビンタぐらいだ。
お腹が空いてただけなのに・・・・なんで・・・・。

あふぅ「はにぃ~~~;;」

道徳心など持たず、ただ本能のままに生きるあふぅに、なぜ無銭飲食がいけないのか、などということなど、分かるはずもなかった。


三時間後。
まだあふぅは道をとぼとぼ歩いていた。
すでに日は沈み、暗くなってきていた。

あふぅ「はに・・・」・・・グ~キュルル

その時、あふぅは公園を見つける。
公園と言っても、水飲み台と鉄棒程度の遊具があるだけの小さなものだったが。

あふぅ「はにぃ」ゴクゴク

あふぅは水飲み台へよじ登り、蛇口をひねって水を飲み始めた。
コンビニでたらふく飲み食いしたものの、大半は吐いてしまったので、すっかりお腹が空いていた。
せめて水だけでも・・・と思った。

水を飲み終えると、今度は寝床を探そうとする。

あふぅ「・・・はにぃ!」

見つけた。
ゴミ箱である。
空き缶や紙くずで埋め尽くされていたが、地べたに寝っ転がって土まみれになるのはもう避けたかった。
ゴミ箱によじ登ると、ゴミの上で横になる。
変なにおいがしないでもないが、仕方ない。

あふぅ「・・・はに・・・あふぅ・・・zzz」

目を閉じると、あふぅは眠りについた。
明日も、あのコンビニのおばさんみたいないい人に会えるといいな・・・
そんなことを考えながら。


翌朝。

あふぅ「・・・あふぅ~」

あふぅは目覚める。朝になってまた気温が上がってきたからだ。
ゴミ箱から飛び降り、水飲み台で水浴びをする。
そして、数分後には公園を後にした。

三時間ほどして。
あふぅは道路を歩いていた。
しかし、そのスピードは昨日に比べると、かなりのろかった。
まるで足を悪くしたお年寄りのように。

あふぅ「・・・は・・・に・・・?!」フラッ

その時、あふぅは一瞬、目まいがして倒れそうになった。
おそらく、熱中症だろう。
こんな猛暑日の中、直射日光を浴びながらひたすら歩き回るだけの体力は、さすがのあふぅにもないだろう。
そのうえ、今日の気温もすでに35℃を超えている。
人だって午前中からこうでは、とても耐えられるものではない。

あふぅ「あふぅ・・・ナノぉ・・・」

あふぅは地面へとへたり込む。
額から汗がダラダラと流れ落ちた。

あふぅは己の選択を悔やんでいた。
あの公園にいれば、木陰はあったし、水だけなら手に入った。
そんなところから、どうして抜け出してしまったんだろう、と。

あふぅ「・・・はにっ」

しかし、あふぅには願いがあった。
もう一度、あの人に会いたい。
そのためには、何とか頑張って、あの事務所へ戻ろう。
再び立ち上がって歩き始めた。


また二時間ほどして、正午ごろ。
あふぅは田舎町を出て、比較的大きな都市にたどり着いた。
しかし、どこもかしこもアスファルトで、暑さはあの町とは比べ物にならない。

あふぅ「・・・・はに・・・はにぃ・・・・・」ゼエゼエ

あふうはビルとビルの隙間の日陰に入り込み、へたり込んだ。
ここまで来るのに、何度かトイレなどで水を飲んだりしていたが、それでもすぐに喉が渇いた。
最後に水を飲んだのは・・・・三十分前くらいだったはず。
だが、すでに唾も湧かないほどだった。

あふぅ「はに・・・」ヨタヨタ

しばらくすると日陰を出て歩き始める。
水・・・水はどこ・・・?

あった。
噴水だ。
どうやらあれは・・・公園らしい。人影はまばらだったが。

あふぅ「はにぃ!はにはにはにっ!!」ダッ

気づくとあふぅは、駆け出していた。
誰から見ても、直射日光と脱水症状で弱っているような体に、そんな力がどうして残っているのか。あふぅを見た人はそう思うだろう。
見ている人など、誰もいなかったが。

あふぅ「はにっぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

あふぅは走る。
水に飛び込んで、水を飲めば、また元気が出るだろう。
そのことだけを考えて。


だが。
あふぅは忘れていた。
その噴水のある公園は、道路を挟んで、対岸にあるということを。
そして今、自分がその道路を横切っていることを―――

ブーーーーン
・・・グチャ
あふぅ「は・・・・ナ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛」

あふぅの絶叫が響く。
交通量は少なかったものの、たまたまバイクが猛スピードで突っ走り・・・・
・・・・あふぅの両足を轢き潰してしまったのである。

あふぅ「びゃーーーー!!;;びゃあ゛ぁぁ゛ぁァァァァア゛ア゛ぁぁぁア゛ぁぁ!!!!;;」

あふぅは泣き叫ぶ。
両足を失った痛みに。
助けてくれという訴えも兼ねて。

しかし、だれも近づいてこない。

公園には何人か親子連れがいて、あふぅの泣き声を聞いて何事かと目を向けはした。
しかし、その泣き声の主が、頭だけが異様に大きい、全身血塗れの汚らしい、気味の悪い生き物だと知ると、皆公園からそそくさと逃げ始めた。

子供「お母さーん、なにあれー?」

母親「・・・バッチいから、触ったりしちゃダメよ。・・・ほら、早く行きましょ」


あふぅは歩道に倒れていた。

あふぅ「・・・・・は・・・に゛・・ぃ゛・・・・・?・・・・は・・・に゛・・ぃ゛・・・・・」

完全に虫の息。
それでも地面を這って、公園に入ろうとする。
まるで毛虫のように。

そして、噴水の前まで辿り着いた。

あふぅ「・・・はに゛ぃ゛♪・・・はに゛ぃ゛♪」ヨジヨジ

そして、縁を上っていく。
目の前は―――水だ。

あふぅ「 ・・・!・・・は゛・・・は゛に゛・・・ぃ゛・・・!」

この時。
あふぅの目の前には、プロデューサーがいた。
笑顔で、こっちにおいでと手招きしていた。

あふぅ「・・・は゛に゛・・・はに゛ぃ゛・・・!!」ピョーーン

・・・ザッブーーーン


・・・それから、数分して。
噴水のため池から、何かが浮いてきた。

あふぅ「」プカプカ

あふぅだ。
もうすでに息絶えていた。

しかしその死に顔は、とても安らかなものだった。
あふぅは死の直前、プロデューサーに抱きかかえられ。
とても幸せな一瞬を過ごし、死んでいったのだろう。



――そのプロデューサーから、捨てられていたという事実も知らずに・・・・。


みなしごぷっち~あふぅの場合~ 終わり


  • 最終更新:2014-02-20 16:20:20

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