みなしごぷっち~ゆきぽの場合~

765プロ。

あふぅに次ぐぷちどるの害獣、いおは去った。
765プロの面々は再び胸を撫で下ろしていた。

そして例によって、ぷちの間では反応が割れていた。

「うぅ~・・・;;」

悲しむ者。
やよはいおと仲が良かったし、いじめのたびに庇ってくれていた頼りになる友がとこかに行ってしまって、当然涙を流していた。
プロデューサーによって捨てられたことは、例によって理解していなかったが。

「と、とか・・・」「ち・・・・」

ますます不安がる者たち。
こんな短期間に二匹もいきなり失踪するなんてありえない。
やよをいじめるたびに妨害してきたいおが消えたことは、本来二匹にとってはいいニュースのはずだが、むしろ二匹は怯えていた。
間違いない、人間がぷちに危害を加えているんだ・・・・


「ぽー、ぽぇ~」ザクザクザク

「ゆきぽ~!!穴を掘っちゃいけないって、いつも言ってるでしょう!!!」


・・・・そして、そんなことは露知らず、今日も悪行三昧の日々を送る者。

P(はぁぁ・・・)

ひときわ大きなため息をつくプロデューサー。
―――まだまだ、765プロの平安の日々は遠いようである・・・。


さて。
暴れて事務所を荒らすあふぅ、ビームで物品を壊しまわるいおは消えた。

――そして、ゆきぽ。
スコップでどこにでも穴を掘る習性をもつぷち。
物理的な意味で事務所に損害を与えるのは、このゆきぽのみ、ということになった。

最初は、ぷちの中でも大人しく、お茶出しまでしてくれるゆきぽを嫌う者はいなかった。
だが――先ほども言った通り、ゆきぽはスコップでどこにでも穴を掘ってしまう。

特に、精神的に不安定になった時。

あふぅ(ナノォォォ!!)グボッ

ゆきぽ(ぼぎえぇぇっ?!!)

こあみこまみ(とかー!ちー!!)ボコッドガッガスッ

ゆきぽ(・・・ぷ、ぷぃぃぃぃぃ~・・・;;)

いつものように、この三匹から散々いじめられ、やっと解放されると、ゆきぽは自らを落ち着かせるためにスコップを取り出し、事務所の床に穴を掘り始めた。

ゆきぽ(ぽえー、ぽえー)ザクザクザク


するとその時、プロデューサーが帰ってくる。

P(ふぅ~、今日も暑いな~・・・―――ってゆきぽ?!お前何やってんだ!!!)

ゆきぽ(ぽ、ぽぇぇ?!)ザクザクザク

事務所の床のクレーターを見て唖然とするプロデューサー。
いや――もはや一階のたるき亭の店内が見えそうなほどだ。

P(・・・おい!やめろ、そのスコップは没収だ!!)グイッ バッ

ゆきぽ(ぷいぃぃっ!ぽえー、ぽぇぇぇぇぇっ!!><)

P(うるさい!・・・ったく、大人しいと思って甘やかしゃ、つけあげりやがって・・・)

ゆきぽ(ぷ・・・ぷぃぃぃぃぃぃ~・・・・;;)

大事なスコップを奪われ、その場に泣き崩れるゆきぽ。

あふぅ(ナノっ♪ナーノっ!)ゲラゲラ

こあみこまみ(とかー♪ちー♪)クスクス

それを見て笑いの止まらない三匹。
プロデューサーから鬼の形相で睨まれると、怯えて部屋の隅へと引き下がったが。

プロデューサーはこの日から、ゆきぽに対する態度を改めた。
ご飯には好物のたくあんを抜きにし、何かゆきぽがおどおどしていると、穴でも掘るつもりかと睨みつける。
実際にスコップを持っているところを見れば、取り上げて殴りつける。

そして、ゆきぽがあふぅやこあみ、こまみにいじめられても、それを止めず、ただ傍観するようになった。
その方が、あふぅが暴れて事務所を荒らしたり、こあみとこまみが人間にイタズラをしなくて済むからだ。


――しかし。
こうした彼のゆきぽへの接し方は、却ってゆきぽの情緒不安定さを増しただけであった。


ある日、プロデューサーが留守にし、律子と小鳥、そして一部のアイドルたちが事務所でおのおのの仕事に励んでいるときだった。

ゆきぽ(ぷいー、ぷいー;;)

あふぅ(あ・・・ふぅ・・・zzz)

またあふぅにいじめられ、寝床の段ボールを奪われたゆきぽ。
その時、プロデューサーの机に置いてあった自分のスコップが目に入った。

ゆきぽ(ぽえっ!)ピョン シュッ

机に飛び乗り、スコップを握る。
そして床に降りると―――

ゆきぽ(ぽぇ、ぽぇ)ザクザクザク

また穴を掘り始める。
最初は皆、気づかなかったが――

真(ゆきぽー、ご飯だよ~、―――って、ちょっと?!!)

律子(どうしたのよ・・・・って、床がっ!!音無さんッ!!!)

小鳥(ゆきぽちゃん!止めなさい!!真ちゃんと雪歩ちゃん押さえて!!!)

雪歩(ああ~!ゆきぽ、ダメだよッ!!!)

ゆきぽ(ぽえっ?!ぽ、ぽえ~!ぽえ~!!;;)

この時、事務所は阿鼻叫喚の巷と化した。

そして一時間後。
事務所に戻ったプロデューサーは、皆から事の顛末を聞いた。

P(やっぱりな・・・前にもそういうことがあった。
ほら、あのクレーター、実はゆきぽの仕業だったんだよ)

律子(・・・なんでそういうことを、もっと早く言ってくれないんですかッ!!)

P(・・・すまん、あの時はとにかく修繕費のやりくりで頭がいっぱいでな・・・
だが、お前たちも、以後はゆきぽを甘やかすのはやめてくれ)

春香(どうすればいいですか?)

P(簡単だ。たくあんをあげないこと、キョどってたら穴を掘ろうとするサインだから睨みつけること、あとはあふぅやこあみとこまみにいじめられても助けないこと。
これで十分だ)

そして、翌日からそれは実行された。
皆、ゆきぽが大人しいぷちだけに、多少の後ろめたさこそ感じていたが、とはいえまた穴を掘られてはたまらない。
ゆきぽがおどおどしていれば、「何をしてるの?」と咎め、スコップは一切近付けさせない。
あの三匹にどんなひどいいじめを受けていても、我関せず。

ゆきぽ(ぽ、ぽぎぃぃッ!!)

あふぅ(ナ~ノ!ナァ~ノォ~! )ボカスカ

こあみこまみ(とかっ!ちー!!)グボッ

ゆきぽ(ぽぎゃあああああああ!!!!!)

そのうち皆も慣れてきた。
あふぅに暴れられたり、こあみやこまみにイタズラをされるより、こうしてゆきぽをいじめてくれていた方が、事務所の平穏は保たれる。
そう考えていた。

しかし。

こうした皆の態度が、ゆきぽの精神をいっそう蝕んでいく。

その結果、つい二週間前、プロデューサーの机をぶち壊し、中に入っていたスコップを取り出し。
そして事務所の床という床、壁という壁に穴をあけまくった。

そして一昨日、あふぅが消えて少し落ち着いたと思いきや、ゆきぽが玄関に入った時にこあみの仕掛けた雑巾で足を滑らせると、パニックを起こしてダッシュで逃げ出し、穴を掘る。
プロデューサーからスコップをひったくって。


―――そして結論が出た。
あふぅ、いおに次いで、ゆきぽを廃棄する、と。


P「――ちょうど、響のバラエティー番組のロケで、来週沖縄に行くよな?
その時、ゆきぽを捨ててくる」

律子「でも、飛行機で行くとしたら・・・もしゆきぽが機内でスコップでも使ったら・・・・」

P「心配ない。九州まで俺の車で行って、そこから社長がチャーターした飛行機で行く、俺と響でな。
カネがかかって仕方ないが・・・やむを得ん、これ以上ゆきぽに穴掘りされたら堪らん」


そして、一週間後。
プロデューサーは響をつれ、車で九州の空港へと向かう。
トランクに、ゆきぽをぶち込んだ檻を載せて。

響「・・・やっぱり、ゆきぽは捨てちゃうのか?」

P「ああ、もう事務所で飼うのは無理だ」

響「ゆきぽも問題はあるけど・・・もう少し優しく接しても良かったんじゃないのか?
それに、もし野生化したら・・・大変なことになるぞ・・・」

P「・・・仕方ないんだ。ああなっちまってはな・・・・」

一方のゆきぽは、暗いトランクの中で怯えきっていた。

ゆきぽ「ぷぃ~ぷぃ~;;」ガクガク

しかし、そのうち泣き疲れて、眠ってしまった。

ゆきぽ「ぽぇ~・・・zzz」


その日の夜。

P(・・・さて、どこがいいかな・・・)ブロロロォッ

石垣島のロケ地。
彼はホテルを抜け出し、車に眠らせたゆきぽを載せると、捨てるために適当な場所を探す。

P「・・・ここだな」キキッ

数十分して、彼は宮良川の河口付近に着いた。
ここはマングローブが数多く茂る。ここならせいぜいゆきぽも楽しく穴掘りができるだろうよ、と彼は苦笑交じりに言った。

彼はゆきぽを、マングローブの木の根元に置いた。
子供が砂場遊びに使うような、おもちゃのスコップと一緒に。

P「じゃあなゆきぽ・・・お別れだ」

そうつぶやき、プロデューサーはその場を後にした。
例によって、ゆきぽはぐっすり眠りこけている。

ゆきぽ「ぽぇ~・・・ぽぇ~・・・zzz」


―――弱虫なぷちにとって、過酷なサバイバルが始まることも知らずに。


翌朝。

ゆきぽ「・・・ぽ・・・ぽぇ?」

ゆきぽは目覚める。
頭、背中、お尻、足・・・。体中に、妙にひんやりとした、やわらかい泥の感触を感じた。

まだ寝ぼけ眼のゆきぽは、目をこすってみる。

ゆきぽ「ぽぇっ?」

体中泥だらけである。もっとも、よく公園の砂場で穴掘り遊びをしていたゆきぽには、それはあまり気にはならない。

それよりも、周りの景色が昨日と違うことにびっくりした。
昨日はプロデューサーと響と、海のそばに立つホテルの部屋に泊まっていた。
二人ともほとんど部屋を留守にしていて、一度も海には連れて行ってもらえなかったけど。

それが今、自分は外にいて、周りを川と木に囲まれている。
―――どうしてだろう?
もしかして、寝ている間にベランダから落ちたのかな?
ホテルではベランダで寝ていたから。
それとも、ここは夢の中?

ゆきぽ「ぽぇー、ぽぇー」キョロキョロ

・・・しかし、いくら目を凝らしても、周りにホテルなど見えない。
ただただ、木と川に囲まれている。
少し離れたところには、海岸が見える。

ゆきぽ「ぽぇぇぇぇぇぇぇぇ」ギューーー

頬をつねってみる。
・・・・痛い。当たり前だが。


夢じゃないんだ。

ゆきぽ「ぽ・・・ぽぇぇ・・・」

自分は、プロデューサーとはぐれてしまった。


ゆきぽ「ぷぃ~~;;、ぷぃ~~~~;;」シクシク

ここでようやくゆきぽは泣き始めた。
プロデューサーさん、助けて!
私は迷子なの!!ここだよ、ここにいるよ!!!

ゆきぽ「ぷぃ~~~~~~!!!!!;;ぷぃ~~~~~~~~~!!!!!!!!!;;」ウワーーーン


十分して。

ゆきぽ「・・・・・ぷ・・・・・ぷぃぃぃ・・・・・;;」

いくらワンワンと泣いても、彼は来ない。
そんなに自分は、プロデューサーさんから遠く離れてしまったのか。
なぜなのか全くわからなかった。

すると、自分のそばにスコップが置いてあるのに気付く。

ゆきぽ「ぽぇぇ?」

自分の持っていたものとは違って、プラスチック製の、もっとちっちゃなものだったが。

ゆきぽ「ぽぇ~」ホッ

ホッとした。
お守りのようなスコップの存在に、ゆきぽの精神はひとまず安定する。
これがあれば、ここを掘り進んで、この林を脱出できるかもしれない。

ゆきぽ「ぽぇっ!」ザクザクザク

とりあえず、自分の周りを取り囲む木の根っこにスコップを当てる。
そしてものの数十秒で、木の根っこを断ち切ってしまった。
プラスチックのスコップでそれをやってのけるとは、大したものだ。

ゆきぽ「ぽぇぇぇぇぇぇぇ!!!」ザクザクザクザクザックザク

そしてゆきぽは、泥を蹴散らし、木を切り倒して、林を進んでいく。
まるでドイツ軍が、戦車でアルデンヌの森を押しつぶしながらフランスに侵攻していったような有様であった。


一方、宮良川。
エコツアーの団体が、カヌーで川を渡っていた。

ガイド「間もなく河口に到着です。皆さん、宮良川のカヌーでの旅はいかがだったでしょうか―――」

観光客A「―――ちょっと、ちょっと!ガイドさん!!あそこ!!!」

ガイド「―――え?!」

カヌーに乗っている観光客全員が唖然としていた。
台風どころか、風もろくに吹いていないのに、マングローブの林が雪崩を打って次々と倒れているのだ。

そして。

ゆきぽ「ぽおぇぇぇぇえぇぇぇ~~~!!!」ドォォォン

・・・・バッシャーーーーン


―――見たこともない生き物が、その倒れたマングローブの林から飛び出してきたのだ。

ゆきぽ「ぽぇ!ぽぇぇ!!」バッシャバッシャ

川に飛び込むや、カナヅチなのでゆきぽは溺れ始める。

観光客一同「・・・・・・・」

・・・・唖然とするほかない。

観光客B「・・・・ねぇ、もしかして、宇宙人の襲来か何かかしら?」

観光客C「・・・・ミステリーサークルって、こんな形だったっけ・・・?」

観光客D「・・・・と、とにかく、その生き物を拾っていこうじゃないか。話はそれからだ」

ガイド「は、はぁ・・・おーい、これにつかまれ!」ヒョイ

ロープを投げてやる。

ゆきぽ「ぽ、ぽぇ!」ギュッ

ガイド「放すなよ!!」グイグイ

数秒でゆきぽは引き上げられる。

ゆきぽ「ぽ・・・ぇ・・・zzz」

マングローブの森を切り倒しまくって疲れていたのか。
溺れていたのを引き上げられて安心したのか。
ゆきぽは寝てしまった。

ガイド「・・・はぁ・・・。どうすればいいんだ、これ・・・」

ガイドの男性は、頭を悩ませた。


その日の夕方。

ツアー会社の部屋で、あのガイドと社長が話をしていた。

社長「・・・で、アナタ、その子を持ってきたの?」

ガイド「ええ、コイツがそれです・・・」

ゆきぽ「ぽ、ぽぇぇ~・・・?」

社長と呼ばれた女性がゆきぽを見やる。
見たこともない人にジロジロと見られ、ゆきぽは怯えていた。

社長「どうせなら、そのまま放してくればよかったじゃないの・・・」

ガイド「そうもいかなかったんですよ、お客さんが珍しがって、コイツを触りたがるもんですから・・・。
それに、あそこのマングローブの林をぶち壊した可能性があるんです。下手すりゃ、ウチが環境破壊したって訴えられるかも・・・」

社長「・・・・それはさっき写真で見たわ。
でも、あり得ないでしょ?手に持ってたプラスチックのスコップで、マングローブを掘り返したなんて」

ガイド「でも・・・現にこんな変な生き物が、ここに存在してるんですから・・・」

二人は頭を抱えた。

社長「・・・どうしようもないわね。
明日、八重山保健所にでも預けに行きましょうか・・・」

ガイド「・・・ですね。
宇宙人説はともかく、なんかの外来生物ってことはあり得ますから。
だとしたら、処分しないと、さっきのマングローブみたいなことになりかねませんよ」

ゆきぽ「ぽ、ぽえぇぇっ?!」

保健所と聞いて、ゆきぽはいっそう恐怖した。
保健所に行ったら最後・・・自分はきっと殺される。
そのくらいの想像はゆきぽでもできる。
―――もしかしたら、あふぅやいおも、そこに送られたのだろうか。

ガイド「じゃあとりあえず、裏の物置にでも入れときます。
明日になったら、保健所に行きましょう」

社長「そうね、お願いするわ」

ゆきぽ「ぽえっ!ぽぇぇぇ!!!」ジタバタ

ガイド「ほら、大人しくしろ。今から寝床に連れてってやるから」

結局、ロクに抵抗もできず、ゆきぽは物置に放り込まれた。

ガイド「ほら、ご飯と水だ。明日になったら、また出してやるからな」

バタン

ゆきぽ「・・・ぷぃ~・・・;;」シクシク

独りぼっちになったゆきぽは、すすり泣き始めた。

グゥ~・・・・
ゆきぽ「・・・ぽぇ」

お腹が空いていた。
皿に置かれたペースト状の粉末を口にする。

ゆきぽ「ぽおええええええっっ!!!」ペッペッペッ

吐き出す。
ドックフードだった。
いつも人間と同じ食事を食べるぷちに、こんなものが合うわけがない。

ゆきぽ「ぽぇ、ぽぇ」ゴクゴク

とりあえず水を飲むが、腹が膨れるわけもなし。
惨めさが増した。

ゆきぽ「ぷぃ~・・・;;」

しかし、打ちひしがれている暇はない。
明日になれば、保健所送りにされてしまうのだから。
だが・・・あのスコップは念のためと、ガイドから取り上げられていた。
あれがあれば、簡単に扉に穴を開けられただろうが・・・。


ならば。

ゆきぽ「ぽえっ!ぽえっ!!」ダッ

助走をつけて、扉へ走り出す。

ガーーーーーーーン

ゆきぽ「ぽぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

・・・・思い切り、頭突きを食らわせた。
しかし扉は振動しただけだった。

しかし、ゆきぽはめげない。
何度も何度も、扉に頭突きを繰り返す。

ゆきぽ「ぽ!ぎゃっ!!ぽぎぃっ!!!ぽんがあああああああああーーーーーー!!!!!!」

ガン ガン ガン ガン

そう、何度も。


そして、三時間後。

ゆきぽ「ぽぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!」

ガッシャーーン

・・・扉が、倒れた。

ゆきぽ「・・・・・ぽ・・・・・え・・・・・」

ゆきぽの頭は、すでに歪んでいた。
流れ出る血と相まって、可愛らしさはどこにもない。
絶えず目まいがするし、フラフラだった。

しかし、グズグズしてはいられない。
早く、抜け出さないと・・・。

ゆきぽ「・・・ぽ・・・ぇ・・・、ぽ・・・ぇ・・・」

よろよろの状態で外に出ると、すぐ近くに小さいビルがある。
あのガイドの男性に連れてこられた部屋も、あの中にあるのだろう。

あれほど派手な音を立てたのに、ビルからは誰も出てこない。
空は真っ暗。帰ってしまったのだろう。

この隙だ。
ゆきぽはよろよろと歩きながら、ビルの敷地を後にしようとする。

ゆきぽ「・・・ぽ・・・ぇ・・・?」

その時、ビルの玄関に、あのスコップが立てかけてあるのが見えた。

ゆきぽ「ぽ・・・ぇ」

ゆきぽはスコップを拾い、背中に背負う。
そしてビルの敷地を出、道路をゆっくりと歩き始めた。

ゆきぽ「ぽぇ・・・ぽぇ・・・」ズルズル

足を引きずるように歩くゆきぽ。
どこへ行けばいいのかは、分からない。
プロデューサーと響に会いたい・・・でも、二人の泊まっていたホテルの位置も思い出せない。
・・・あれほど頭をぶつけたから、その拍子に忘れてしまったのかもしれない。

ゆきぽ「・・・ぽぇ」

そういえば、ちひゃーのことをずっと忘れていたな。
一番大好きな友達。
いつも一緒に遊んでいるぷち。
沖縄に連れてこられる前の日も、ちひゃーと一緒に歌を歌った。
ちひゃーが自慢の演歌を歌い、ゆきぽはラッパを鳴らす。
すっごく楽しかった。
あとでみんなからうるさいって怒られたけど。
いつも、ああして二人で歌っていると、あふぅやこあみ、こまみからいじめられたことも忘れちゃう。
今はどうしてるのかな、ちひゃー。
・・・寝てるに決まってるよね、きっと。
千早さんのお家で。

ゆきぽ「・・・ぽえ!」

ちひゃーのことを思い出すと、少し元気が出た。
頭は歪んていたし、とめどなく血は出ていたけど。
今はちひゃーに会うために、頑張ってここから帰ろう。
そう思って、てくてくと道を進む。

その時。

シュルシュルシュル

ゆきぽ「・・・ぽえ?」

草の茂みから、何か出てきた。


・・・ヘビだ。
おそらくハブだろう。

ヘビ「シュー、シュー」

ゆきぽ「ぽえっ?!ぽええええ!!」

ゆきぽは一瞬、逃げ出そうとする。

だが。
背中に背負っていたスコップを思い出した。
スコップを取り出し、構えると―――

ゆきぽ「ぽおええええええっ!!!」バッシイイイイイイイン

ヘビの頭を、スコップで叩いた。

しかし。

ヘビ「・・・シュルシュルシュル」

ゆきぽ「ぽ、ぽえっ?!」

すぐ起き上った。
ゆきぽが弱っていたこともあり、思ったほどには力が入らなかったようだ。

ヘビ「シャァァァァァァ!!」ガブリ

ゆきぽ「ぼぎゃああああああああああ!!!!!」

―――そして、ヘビはゆきぽの首筋に噛みついた。


数分後。
ヘビはどこかに消え去った。

ゆきぽ「・・・ぽぉ~・・・ぇ・・・」

ゆきぽが倒れている。
ヘビの毒にやられたのかもしれない。
首筋の傷から血がどくどくと溢れ出す。
頭の傷よりも激しく。
そして、その噛み傷は、すでにひどく化膿していた。

ゆきぽを噛んだのは、やはりハブであった。
ハブの毒はゆっくりと体内を巡っていくのだが、ぷちのような小さな体では、毒の回りも早いのだろう。
ゆきぽは激痛にのたうち回る。

ゆきぽ「・・ぽ、ぇっ!・・・ぽ・・ぇ・・・」ジタバタ

血清を打つか、あるいは噛まれてすぐに傷口から毒を血といっしょに吸い出せば、こうまではならなかっただろうが、ぷちにそんなものをプロデューサーがいちいち打つはずもないし、ゆきぽにそんな知識はない。
次第にゆきぽの意識は朦朧となっていく。


ゆきぽ「・・・ぽ・・・ぽへ・・・っ・・・♪」

ゆきぽは、夢を見ていた。

765プロのビル、一階の階段前。
二匹のぷちが、駆け寄って抱き合う。

ゆきぽ(ぽえ~!!)

ただいま!

ちひゃー(くっくー!!)

おかえり!!ずいぶん遅かったじゃない?

ゆきぽ(ぽえ、ぽえ)

ごめんね、向こうで迷子になってたの。怖かったなぁ。

ちひゃー(くぅ、く~。くっ!)ナデナデ

おっちょこちょいなんだから~。ほら、よしよし。
・・・そうだ、一緒に歌、歌おうよ!ほら、事務所に行こう!

ゆきぽ(ぽえっ!)

うん!

そして二人は、階段を駆け上がり、事務所へと向かっていく―――


しばらくして。

ゆきぽ「」

息絶えたゆきぽが、道路の真ん中に転がっている。
幸せそうな顔で。


その時。

キキーーッ!!
バタン

車が通りかかる。
道の真ん中に何かが落ちているのを見つけたらしく、ブレーキを踏んで停車すると、中から男性が二人降りてくる。

「What's this…?…Jesus!!
Hey!Hey!Look!
It's alien!!」

「What are you saying…oh,my god!」

どうやら、休暇で遊びに来ていた米兵のようだ。

米兵たちは興奮して喋りまくっている。

米兵A「すっげえ!こんな生き物見たことねぇ!!
間違いない、コイツはエイリアンだよ!!!」

米兵B「こりゃ観光どころじゃねぇな、今すぐ基地に持って帰ろうぜ!!
大ニュースになるぞ!!!」

そしてゆきぽの死体を袋に詰め、車に乗って去って行った。


―――それから、約一か月後。

アメリカ・ネバダ州グレーム・レイク米空軍基地。
通称「エリア51」。
その地下にある研究室で、軍服を着た中年男性と、白衣を着た若い女性が話している。

将軍「・・・それで、オキナワで発見されたという、例のエイリアンはどうだね?
研究は進んでいるか?」

研究員「ええ、二週間前にここに届けられました。
死んでいましたが、遺体の保存状態は良かったので、さほど腐敗は進んでいなかったのが幸いね。
すでに解剖は終わっています。精密検査も行いました」

将軍「・・・それで、分かったことは?」

研究員「身体的な特徴としては、一見して人間そっくりですが、頭部が異常に肥大化し、手足はその逆で、異常に短い。
ただ、両腕の筋肉はかなり発達していて、相当な腕力があると思われます」

将軍「知能程度はどうだね?」

研究員「死んでいたので、知能テストは不可能でしたが―――IQにして40前後と推測できます。
人間でいえば、中度の知的障害者です。
我々人間の言葉を理解できる能力はあるようですが、命令に従ったりする、といったことはほぼ不可能です。
声帯も調べてみましたが、意味のある言葉を話すことはできない、と思われます」

将軍「・・・フム・・・」

研究員「つまり、人間にとって有用な要素はほとんどありません。
唯一、人間と比べて勝るとも劣らないのは、高い腕力です。
労働をさせるとすれば、肉体労働ならば可能ですが―――」

将軍「―――しかし、先ほどの報告によれば、我々人間に従わせることはできないのだろう?」

研究員「―――そうです。
残念ですが、あまり価値のあるものではありません。
肉を食用にできないか研究してみましたが、栄養価も低く、味も良いとは言えないようです」

将軍「仕方あるまい。
とりあえず、そのエイリアンのサンプルを見せてもらえるかな」

研究員「ええ、冷凍保管してあります」

二人はその遺体を保管してある冷凍庫に近づく。
研究員が蓋を開けた。
途端、白い煙が漂う。
将軍が中をのぞいてみた。

ゆきぽだ。
体には霜がついている。
そして解剖したために、体中が継ぎ接ぎだらけであった。

将軍「なるほど・・・分かった、ありがとう。
このまま保管してくれ」

研究員「分かりました」

そして蓋は閉じられた。


これがゆきぽの最期であった。
この「エイリアン」発見の事実は、米軍と日本政府により厳しく緘口令がしかれ、結局表沙汰になることはなかった。
ゆきぽが世間の見世物となるよりは、まだよかったかもしれない。


――だが、こうして実験体として使われ、冷凍庫が墓場代わりとなったゆきぽの最期が、どれだけ幸福といえようか・・・。


みなしごぷっち~ゆきぽの場合~ 終わり

  • 最終更新:2014-02-20 16:24:55

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