アイドルちひゃー

P「ちひゃー!お前のアイドルデビューが決まったぞ!」

千早「よかったわね、ちひゃー」

ちひゃー「くっく~♪」

歌を披露する機会が増えるのが嬉しいのか小躍りして喜ぶちひゃー。
千早が飼っているちひゃーを売り出そうとプロデューサーが言い出してから2日目のことだ。

千早「さすがです、プロデューサー」

千早は自分の時と変わらぬ手腕を発揮するプロデューサーをねぎらう。

ちひゃー「くっ!」ピョーイ

ちひゃーはプロデューサーの頭に乗り

ちひゃー「くっ!くっ!くっ!」ペシペシペシペシ

とプロデューサーの頭を叩く。

P「それで今後の活動について打ち合わせをしたいんだが・・・」

千早「では会議室に行きましょう」

ちひゃー「くっ」

ちひゃーを頭に乗せたままプロデューサーは千早と一緒に会議室に向かった。

P「ちひゃーのアイドル活動第一弾はライブを予定している」

ちひゃー「くっ!!!」

千早「いきなりライブですか!?」

P「ちひゃーは歌うのが好きだからその方がいいと思ってな」

ちひゃー「くぅ~♪」

P「そのライブだが明日だ。やれるか?」

ライブが突然決まりリハーサルもなし、しかも明日開催という通常ならあり得ないスケジュールだ。
だがちひゃーにはそんなことは分からない。

ちひゃー「くっ!」マカセトケ

ちひゃーは偉そうに胸を張った。

P「それとお前の住む場所だが、しばらくは物置に住んでくれ」

ちひゃー「くくっ?」

今までどおり千早の部屋ではダメなのかと怪訝そうなちひゃー。

P「お前はもうアイドルなんだぞ。千早の世話になるのはおかしいだろ?」

ちひゃー「く・・・」

P「お前の実力ならすぐに良い部屋を借りられるぐらい稼げるさ」

ちひゃー「くっ!」フンス

あまりにも適当なプロデューサーの言葉だったが、ちひゃーは自信タップリだった。
ラジオに出演したこともあったし、なにより自分には得意の歌があるからだ。
そんなちひゃーを千早は無表情に眺めている。

千早「打ち合わせはこれで終了ですか?」

P「ああ。じゃあ千早を送ってくるからちひゃーは待っててくれ」

ちひゃー「くっ」バイバイ

ライブ当日

スペシャルゲストとして登場予定の千早が見守る中、プロデューサーはちひゃーに声をかけた。

P「ここがちひゃー伝説の第一歩だ」

ちひゃー「くっ」コクン

P「よし!行ってこい!!」

ちひゃー「くっ!」フンス

プロデューサーの激励を受けステージに向かって走るちひゃー。

ちひゃー「くっ!くっ!くぅ~!」トテテテテテ

緞帳が下りたままだが、ちひゃーは自慢の歌声をホールに響かせた。
今日のライブは緞帳を降ろしたまま1曲目を歌い、2曲目の開始と同時に上がっていく演出になっている。

ちひゃー「く♪く♪く♪くぅぅぅぅ♪」

ちひゃー「く♪く♪く♪くぅぅぅぅ♪」

ちひゃー「くぅぅぅぅ♪く♪く♪く♪くぅぅぅぅぅんにゃ♪」フンス

オープニング曲が終了した。うまく歌えたとちひゃーは思った。
しかし・・・。

シーン

大歓声が聞こえてくると考えていたのに会場は静寂に包まれている。

ちひゃー「くっ?」

今の歌は良くなかったんだろうか。それならば・・・。

ちひゃー「くっ♪くっ♪くっ♪くっくくくぅぅぅぅぅぅ♪」

次の歌を歌いだすちひゃー。同時に緞帳が上がり始めちひゃーの目に客席が映った。

ちひゃー「くっ♪くっ♪くっ・・・・くっ!?」

なんと客席は無人だった。驚きのあまりその場で立ち尽くすちひゃー。

ちひゃー「くっ!!?くっ!!!?」ボーゼン

ンドンドン

床を叩くような音と笑い声が聞こえたが、ちひゃーには気にかける余裕はない。

ちひゃー「くっ!」ピョーイ

ちひゃーはステージから飛び降りると人影を求めて走り回る。

ちひゃー「くっ!くっ!くっ!」トテテテトテテテ

しかしどんなに探し回ってもただ椅子が並んでいるだけだった。

ちひゃー「く・・・」トボトボ

打ちひしがれたちひゃーはノロノロとステージに戻っていく。
ステージ上から改めて無人の客席を見ていると無性に悲しくなってきたちひゃーはついに泣き出してしまった。

ちひゃー「くっくぅぅぅぅっ!くぅぅぅぅぅぅ・・・」シクシクポロポロ

しばらく泣いていたちひゃーだったが、人の気配を感じて振り返るとそこにはプロデューサーと千早が立っていた。
千早もショックだったのか顔を覆い体を震わせている。
指の隙間からチラッと見えた目には涙が浮かんでいた。

P「こんなことは初めてなんだが」

苦笑しながらプロデューサーが話し始めた。

P「チケットがまったく売れなくてな」

ちひゃー「くっ!?」

P「でもお前は張り切ってるしこのままでもいいかと思ってね」

ちひゃー「くー・・・」

P「後、お前クビになったから」

ちひゃー「くっ?くっ!!?」

なぜ!?どうして!?

P「お客さんを呼べないアイドルはうちには必要ないからな」

ここでやっと落ち着いた千早が話に加わる。

千早「ちひゃーの歌を聞きたい人はこの世にはいないということですね」

P「やはり『アイドルちひゃー』は無理があったか」

千早「この子にアイドルが勤まるなら世間はアイドルだらけですよ、プロデューサー」

プロデューサーと千早は「アイドルちひゃー」をバッサリと切って捨てる。
だがちひゃーには自分が悪いという発想はもちろんない。

ちひゃー「くっ!くっ!くーーっ!!」プンプン

プロデューサーが悪いんだ!もっとしっかり仕事しろよ!この無能が!!
さすがにプロデューサーへの暴言は許せないのか

千早「何言ってるの!無能はあなたでしょう!」

今度は千早が怒り出した。

ちひゃー「く・・・」

千早に怒られて一瞬ひるんだが、それぐらいでは今のちひゃーの怒りはおさまらない。

ちひゃー「シャー!シャー!!」

プロデューサーと千早に向かって威嚇しだした。
プロデューサーはため息をつくと

P「怒るより今後の身の振り方を考えたらどうだ?」

そう諭すがちひゃーは聞く耳を持たない。

ちひゃー「シャーー!!」ピョーイ

そのままプロデューサーに噛み付こうと飛びかかった。

P「すぐこれだよ・・・」

呆れたようにつぶやくとプロデューサーは持っていた鞄を振り回した。

ドカッ!!

ちひゃー「ぐにゃぁぁぁぁぁぁ!!」

鞄で顔面を強かに叩かれて吹き飛ばされたちひゃー。
大粒の涙を流しながら短い手で顔を押さえている。

ちひゃー「ぐっ・・・ぐぅぅぅぅぅぅぅ・・・」イタイイタイ・・・

プロデューサーはそんなちひゃーの近くにしゃがみこみ声をかけた。

P「なあ、ちひゃー。お前これからどうすんの?」

ちひゃー「くくっ?」

プロデューサーの言葉が分からないといった表情のちひゃー。

P「もうアイドルじゃないし千早のペットでもないんだぞ。どうやって生きていくんだ?」

やはりプロデューサーの言うことをはっきり理解できてないちひゃーだったが
それでも自分の世話をする人間が必要なのは分かっていた。

ちひゃー「く~~~・・・」

普段使わない頭を精一杯働かせるちひゃー。
頭の中に牛乳、ブラッシング、歌といった単語が浮かぶ。

ちひゃー「くっ!」ソウダ!

結局また千早に飼ってもらえば良いやと考えたようで

ちひゃー「くっく~♪く~♪」ピョンピョン

千早にアピールしだした。

しかしその希望はプロデューサーと千早によってあっさりへし折られた。

P「一度アイドルになったのにまたペットに戻るとかお前のプライドはそんなものか?」

ちひゃー「く・・・」

P「まあ、飼うかどうかは千早次第だが・・・。どうする?」

千早「イヤです。これの世話をするのはもうウンザリですから」

ちひゃー「くくっ!?」ガーン

思わぬ千早の言葉に衝撃を受けるちひゃー。

ちひゃー「くっ!くっ!くっ!!くぅぅぅっ!!」

ブラッシングを毎日してくれて、牛乳も欲しいだけくれて、歌も何時間も聞いてくれたのに。
楽しく過ごしてたのに。

千早「一番我慢できないのはあなたの変な歌を聞かされることよ」

ちひゃー「くっ!!!?」

P「お前のは歌というより唸り声というか鳴き声というかそんな感じだからな~」

ちひゃー「くっ!くっ!!」プンプン

歌には自信があっただけにちひゃーは怒り心頭だった。
うまいうまいって褒めてくれたじゃないか!
そんなちひゃーを見て千早はクスクスと笑う。

千早「あなた本当に褒められてたと思ってるの?」

P「お前はすぐ逆ギレするからな。ウザいから適当に感想を言ってただけだよ」

ちひゃー「くっ!?」

千早「それに何もできないくせにプライドだけは無駄に高いところもイラつくのよ」

P「自分では歌がうまいと思ってるようだが、それもさっぱりだし救いようがない無能だな」

千早「それでアイドルとしてやっていけると思ってるんだから馬鹿なのよ」

P「無観客なのに必死で歌ってる姿には笑わせてもらったけどな」

千早「これの恥ずかしい姿は確かに滑稽でしたね」

P「千早は笑いすぎだ。まあ、無能な馬鹿が初めて人の役に立ったということか」

千早「最初で最後でしょうけど」

ちひゃー「シャー!!シャー!!!!」

散々貶されたちひゃーはまたもや威嚇する。
先ほど飛びかかって痛い目にあったことはすでに頭にないようだ。
プロデューサーは今度は飛びかかってくる前に素早くちひゃーを猫掴みした。

ちひゃー「くっ!?くっ!?シャー!シャー!」ジタバタジタバタ

P「またキレやがった・・・」

そう言うとプロデューサーはちひゃーの顔面を床にガンガンと叩きつけた。

ちひゃー「ぐっ!!?ぐぅ!?ぐっ!!ぐぅぅぅぅ!」

ちひゃーは鼻血を流しながらグスグスと泣いている。
そんなちひゃーにプロデューサーは、今度は顔面を力いっぱい踏みつけて追い打ちをかけた。

ちひゃー「ぐがぁぁぁぁぁああああ!ぐぎぃぃぃぃいいいい!ぐげぇぇぇぇぇぇ・・・」ビク…ビク…

しばらく踏みつけているとちひゃーはついに動かなくなってしまった。
ビクビクと痙攣しているので息はあるようだが。
プロデューサーはちひゃーが気絶しているのを確認すると

P「よし、帰るぞ、千早」

と千早に声をかけてコンサートホールを後にした。

2人が立ち去ってからしばらくして、数人の作業服を着た男がコンサートホールに現れた。
口々に「解体作業は・・・」とか「工事の日程が・・・」などと話している。
その中の1人がステージ上に転がっているちひゃーに気が付いた。

男1「お~い!猫みたいな変なのがいるぞ・・・」

男2「なんだこれ・・・ボロボロだな」

男3「おいおい、予定が詰まってるんだから早く作業にかかろうぜ」

男1「それじゃ捨ててくるわ」

そう言うと男は持ってきていたダンボールにちひゃーを放り込む。
そしてゴミ置き場にダンボールごとちひゃーを投げ捨てると急いで仕事に戻っていった。


プロデューサーと千早は車で帰途についていた。

P「これでちひゃーの排除も完了か・・・」

達成感を感じたのかハンドルを握るプロデューサーはつぶやいた。
一方千早は無言のまま助手席に座っている。

千早「・・・」

千早の顔をチラッと見てため息をつくプロデューサー。
「私は不満です」という表情だったからだ。

P「言いたい事は分かる。分かるが今日はここまでだ。春香達が反対してるからな」

千早「そうですね・・・」

P「あれは野良になるとすぐ死ぬタイプだと思うが、どうしてもと言うなら今度のオフに・・・」

ゴミ置き場にダンボールが捨てられてから30分ほど経って・・・。

ガサガサゴソゴソ

ちひゃー「くーくーくー」シクシク

泣きながらちひゃーがゴミ置き場から這い出てきた。

ちひゃー「く?くっ?くくっ?」キョロキョロ

探しているのはプロデューサーと千早の姿だろうか。もちろん二人の姿はすでにない。

ちひゃー「くくぅぅぅぅぅっ!くぅぅぅぅぅぅぅ・・・」ポロポロシクシク

かなり長い間、大粒の涙を流して泣いていたちひゃーだったがやがて諦めたのか

ちひゃー「くっ・・・くっ・・・」トテトテヨタヨタ

自分が入れられていたダンボールを抱えてヨロヨロと歩き出したのだった。
行くあてもないままに・・・。

2日後、765プロ事務所。

P「終わった~」

小鳥「お疲れ様でした。明日のオフはゆっくり休んでくださいね」

小鳥は帰宅の準備をしているプロデューサーに声をかけた。

小鳥「そういえば千早ちゃんも明日はオフでしたね。まさか・・・デートですか!」ワクワク

P「一緒に買い物して食事に行くだけですよ」

小鳥「まあ、なんでも、いいですけれど」

P「それじゃお先に失礼します。お疲れ様でした」

小鳥「はい、お疲れ様でした」

プロデューサーが事務所から出ようとドアノブを握ったその時

小鳥「そういえば・・・〇〇公園にいるらしいですよ」

P「!」

一瞬反応を見せたプロデューサーだが

P「そうですか」

とだけつぶやく。

小鳥「やる時は確実に・・・ね」

何をやるのか小鳥は言わないしプロデューサーも聞かなかった。

P「ありがとうございます」

小鳥に背を向けたまま礼を言ったプロデューサーは今度こそ事務所を出て行った。

おわり

  • 最終更新:2014-02-20 16:57:21

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