エヴェレスト ぷちどるの山嶺
P「はい、では今度の『やよいお探検隊』の企画は、ヒマラヤ山脈探検ということで……」
ぷちどるを使った番組制作に、新たな提案が打ち出されたようです。
メインとなるぷちは、以前アマーゾンの秘境を冒険した二匹です(アニメ参照)。
P「でも今回のロケは危険過ぎるので、アイドルの同行はなし。
探検隊にはちっちゃんを監督役、サポートでみうらさんを入れ、他数匹のぷちも加える。
撮影も、ちっちゃんと自動録画装置に任せる方式だ」
律子「我々が一緒に行くのは、山の麓までですね」
P「場所が場所だけに、な。死んでもおかしくない」
※ヒマラヤ山脈の主な山々
エヴェレスト(標高8848m。世界最高峰の山。チョモランマ、サガルマータとも呼ぶ)
カンチェンジュンガ(標高8586m。世界で三番目に高い山)
アンナプルナ(標高8091m。世界一死亡率の高い山)
マナスル(標高8163m。日本の登山隊が最初に登頂した山)
ギャチュンカン(標高7952m。登山家・山野井泰史が死にかけた山)
P「まあ知名度を考えれば、エヴェレスト制覇が一番インパクトあるだろ。
ちっちゃん、みうらさん、大変な仕事だけど頼んだぞ」
ちっちゃん「めっ!」
みうらさん「あら~」
律子「心配してあげるのは彼女達だけなんですね。メインは、やよいおなのに」
P「当たり前だろ。あんなゴミども、エヴェレストのゴミと化すのがお似合いだ」
やよ「うっう~♪」ζ*゚ヮ゚)ζ
いお「もっ! キー!」
Pの本意も知らず、やよいお探検隊の二匹は呑気に構えていました。
ヒマラヤ探検なんて逃げても不思議じゃない案件ですが、ぷちにはそんなことわかりません。
律子「現在、11月ですから……急いで準備しても、冬季登山となりますね」
P「楽しみだな、地獄が観られる季節だから。アタックは南側から行なう。
企画書をまとめたら、ネパール入りするぞ」
ぴよぴよ「ぴっ!」
P「わかってるよ。ぴよぴよも、助手役でついて来てくれ。大所帯になっちゃうけどな」
それから間もなくして、765プロの撮影班は現地に向かいました。
ぷちどる達によるヒマラヤ・エヴェレスト登頂という壮大な企画の始まりです。
――ヒマラヤの麓町・ルクラ(標高2860m、気温12℃)
P「というわけで、やってきました。麓とはいえ、すでに3000m近い高所にいます」
律子「エヴェレストの中腹にはベースキャンプ(標高5300m)もありますけど」
P「何の訓練もしてない人間が、いきなりそんな高所で生活できるかよ、と。
いまでさえ、血中酸素が薄まりつつあるのを実感しているのに」
律子「では予定通り、ここの宿を拠点にするんですね」
P「あの連中をベースキャンプに連れて行ったら、悪い意味で目立ちまくる」
ゆきぽ「ぽぉ~、ぽぇっ!」
あふぅ「ナーノ……zzzzz」
ちひゃー「くぅぅ~~♪」
ちびき「だーぞ、だっぞ~!」
出演するぷちどる達です。やよいお探検隊の二匹も、もちろんいます。
やよ「うー! うっう、うっう~!(皆さん、静かにしてください!)」ζ#゚o゚)ζ
いお「もっ! キー、キー!(言うこと聞かないとビーム撃つわよ!)」
主役だけあって張り切る二匹は、ぷち達をまとめようとしていました。
普段は同じ害獣の振る舞いをしているのに、滑稽ですね。
P「引率役は、ちっちゃんなのにな。がんばってくれよ」
ちっちゃん「めっ!」
登山するに当たって、装備一式も用意されています。
ぷち達のサイズに合わせた衣服に、ちっちゃん特製の防寒具も多く含まれています。
ちっちゃん「もー、めっ!(各自、準備してください。これが完全装備となります)」
ゆきぽ「ぽぇ? ぽぇ~」
あふぅ「zzzzz」
ちひゃー「くぅぅっ! ぐぅぅ!」
ちびき「だーぞ、だっぞ♪」
やよ「うっうー!」ζ#゚o゚)ζ ヒッコンデテクダサイ!
いお「キー! キー!」シュヤクハ、ワタシタチ!
てんで統制が取れていません。ちっちゃんが大事な説明をしているのに、皆好き勝手にしています。
P「……山をナメてるな、あいつら。富士山、いや筑波山でも普通に遭難死しそうだ」
律子「そのナメてる連中がエヴェレスト登頂をするには、みうらさんの力が不可欠ですね」
みうらさん「あら~」
P「ロクにトレーニング期間も設けないで高山に挑むんだからな。ワープで移動して、
要所要所で撮影だけしたらまたワープ。これを、頂上まで繰り返す。下山の時も同じだ」
律子「実際の滞在時間は、二、三時間あるかないかですね」
P「鍛えてない奴らが、それ以上高所に留まるのは危ないからな」
結局ぷち達が自力で登山など、土台無理な話なのです。
要は「登っているフリ」だけ撮影して、編集段階でドキュメンタリー仕立てにするわけです。
ポエー、クウー、ダゾー、ウッウー、キー!
ロケ当日。
P「よーし、それじゃいい画を期待してるからなー」
ちっちゃん「めっ!」
準備万端整えたちっちゃんが、勇ましく返事しました。
防寒具一式に、ぷち用酸素ボンベ、携帯食料、撮影用機材もばっちりです。
ゆきぽ「ぽぇ~……」 あふぅ「ナノォ……」
しかしテンションの低いぷち達もいました。季節も冬に差しかかったいま、
寒さに弱いぷちは外で行動するのが億劫なのです。
やよ「うっう~」ζ#゚o゚)ζo ))
いお「キー! キー!」ハヤクシナサイ!
探検隊の二匹が発破をかけています。無駄にやる気を出され過ぎても困るのですが。
各ぷちが登山用装備を身に着けたら、いよいよ出発です。
みうらさん「あら~」スタンバーイ
律子「行ってらっしゃーい」 ぴよぴよ「ぴー!」
みうらさんがぷち達を連れ、ワープでエヴェレスト山中に向かいます。
プロデューサー達がそれを見送り、ぴよぴよも助手として残りました。
P「さて、何匹のぷちにとって、エヴェレストが〝死出の山〟になるのやら……」
――エヴェレスト・アイスフォール(標高5500m、気温マイナス11℃)
ビュオオオオオ……
ゆきぽ「ぽ、ぽぇえっ!?」
ちひゃー「ぐぅぅぅぅうんっ!!」
ちびき「だ、だぞぉぉぉ……」
東京とさほど気温が変わらなかった麓町から、いきなり零下の世界です。
日中ですし、これでも暖かい方なのですが。
ちっちゃん「めっめっ!(撮影しますので、並んで登るポーズをとってください)」
エヴェレストで本格的に登山が始まるのは、ベースキャンプより上からになります。
ネパール側から登る場合は、このアイスフォールが最初の関門です。
やよ「うぅ~……」ζ:=0=)ζ いお「もっ……」
5000mを超えると、ほとんどの人間は高山病の症状を自覚するといいます。
6000m以上は、生活及び長期滞在が不可能とされています。
冬の山登りは、寒さと息苦しさの両方に苦しめられることになります。
ちっちゃん「めっ、もっも!(苦しければ、酸素ボンベを使ってください。さ、早く登って)」
酸素不足が高山病の原因でもあるので、ボンベを使えば負担は減ります。
ぷち用特製ボンベに防寒グッズと、必要なものは揃えてあるはずです。
あふぅ「ナノォ~~、ナァーッノ!!」
面倒臭がり屋のあふぅが、早くも駄々をこね始めました。
周囲がなだめるのも聞かず、下ろせ帰りたいを連発します。
ちっちゃん「めっ!? もーっ!(ちょっと、なんで専用ブーツを履いてきてないんですか!?)」
あふぅ「ナーノ、ナノ!」シラナイノ!
ちっちゃんも見落としてましたが、あふぅはちゃんと装備していなかったようです。
防寒対策が不十分であれば、尚さら雪山なんて登ってられません。
あふぅ「ナノッ!」プイッ
自分だけでも帰る、とあふぅは山を下り始めました。しかし……
ズルッ!
あふぅ「ナァッ!?」
氷の上で、あふぅは足を滑らせました。滑り止めブーツを履いてないのですから当然です。
あふぅ「ナァノノノノノノノノノッ!!」ズザザザザ
そのまま氷河を滑落してゆきます。何かに掴まることもできません。
スポーン!
あふぅ「ナァノオォォォォォォォ……!!」ヒューン
そしてあっという間に崖の向こうへと、あふぅは投げ出されてしまいました。
落下しながらの断末魔の叫びが、一帯にこだましました。
やよ「うぅ~~~っ!?」ζ*T0゚)ζ
ゆきぽ「ぽぇええええっ!?」
この高さですから、助かりようがありません。いきなり仲間が滑落死し、
他のぷち達はようやく事の重大さ、大変さに気づきました。
ちひゃー「」ガクガク ちびき「」ブルブル
ちっちゃん「めっ! めっ!(気を取り直してください。この仕事を終わらせることが、
あふぅの供養になります。さ、早く)」
しかしちっちゃんは、撮影を続ける気満々でした。態度もさっぱりしています。
急がなくてはいけないのには理由があります。エヴェレストではベースキャンプより上を登る場合、
入山料として一人分100万前後のお金を払わなければならないのです。
この撮影は当然無許可で行なっているので、他者に見つかる前に済ませる必要があるのです。
ビュオオオオオ……
山の天候も無視できません。何より昼と夜とでは環境が大違いです。
明るいうちに収録しなければ、日を跨ぐ羽目になってしまいます。
ゆきぽ「ぽぇー……」 やよ「うぅ……」ζ*iTo゚)ζ
ある程度登っている画が撮れたら、みうらさんのワープで別の場所へ移動します。
ここよりさらに高所となりますが……
スタンバーイ
――ローツェフェース(標高7000m、気温マイナス18℃)
ローツェとはエヴェレストに隣接する高山です。ネパール側からのルートでは、
頂上を目指すまでにローツェの岩壁にはみ出して、登ることになります。
ちっちゃん「めっ、めっも!(ロープを掴んで登ってください。下は見ないように)」
ノーマルルートと呼ばれるコースは、現地サポーターがあらかじめ登山用の工作をしています。
凍りついた斜面を用意された梯子やロープを使い、伝って行きます。
ちひゃー「ぐ、くぅぅぅぅん……」ガタガタ
ノーマルルートですから、断崖絶壁というほど険しくはないです。
しかし高い所が苦手なちひゃーは、思わずブルってしまう角度でした。
やよ「うぅ!? ぅぅぅうう゛!」ζl ゚'O゙)ζ
それだけではありません。空気中の酸素はますます減り、紫外線の照射も強くなります。
ちゃんとゴーグルで保護しておかないと、雪盲(雪目)になってしまいます。
やよ「ぅぅぅう! ぅぅぅう゛っ!」::ζl ゙'O゙)ζ::
いお「もっ! もっ!」
クソでかい目で光を直視し続けた結果、やよの目は炎症を起こしていました。
安全な場所へ避難させろと、いおが訴えます。いよいよ撮影が過酷になってきました。
事故が発生する前に、なだらかな地点へとワープすることにします。
スタンバーイ
――エヴェレスト・サウスコル(標高7900m、気温マイナス20℃)
傾斜が緩やかになっている地帯で、安全にテントを張れるのはここが最後です。
頂上を目指す登山者達は、大抵ここを最終拠点とします。
ビュオオオオオ……
とはいえ気温は相変わらず冷凍庫の中、酸素も極めて薄いです。
やよ「う、ぅ……」ζil ゙o゙)ζ
ちっちゃん「めっめ! めっ!(酸素が少ないので、急な行動は控えてください。走ると……)」スッ
取り出した10円玉を、ちっちゃんが岩肌へ投げつけました。
チャリーン!
やよ「うっう~~!」ζ*^ 3^)ζ ダッ
目の痛みもどこへやら。やよが猛ダッシュで、銭のもとへ向かいました。
やよ「うっ!? ぅううううう゛う゛!!」ζil ゙Q。)ζ
ちっちゃん「めっめ! めっ!(7000m以上で走れば、重い酸欠に陥ります。慎重に)」
やよ「ぅぅううぅ! うう゛ぇええ……」::ζli。p゚)ζ::
いお「もっ! キー!!」ナンテコトスルノヨ!
頭痛と吐き気に見舞われ、やよはのたうち回った後、体をピクつかせました。
いおが酸素ボンベを吸引させ、痙攣を抑えます。
やよ「ぅ……ぅ……」ζil ゙o゙)ζ シュコー、シュコー
ちっちゃん「めっめ、めっ!(ここから先はもうボンベなしでは生きられないほど危険です。
このような、無駄な消耗は抑えるようにしてください)」
高地順応してない生物が、来てはいけない地帯なのです。
8000mからさらに上は、文字通りの「デスゾーン」となります。
スタンバーイ
――エヴェレスト・頂上付近(標高8848m、気温マイナス26℃)
色々すっ飛ばして、ついに頂上です。デスゾーンの酸素は、実に地上の三分の一。
熟練した登山家でも、二日以上は生存できないと言われています。
死体も腐敗せず、ミイラと化してそのままになる静かな世界です。
ちっちゃん「めっ! めっ!(ポーズを取ってください。記念撮影です)」
ゆきぽ「ぽぇぇ……」
ちひゃー「ぐぅぅん……」
ちびき「だぞぉ……」
やよ「ぅぅ……」
いお「もっ……」
頂上に立っても、達成感なんてありません。ほとんど自力では登ってないのですから。
寒さと疲労で、ぷち達は早く帰りたいという態度を隠していませんでした。
ちっちゃん「めっめ、めっめ!(では今度は、下山する場面を撮りますね。
登りよりも下りる時の方が危ないので、気をつけて)」
ロケはもう少し続きます。ところが……
みうらさん「あ、あら~……?」フラフラ
ちっちゃん「めっ!? めっめ!(高山病!? 高度を下げた方が良さそうですね)」
みうらさんも、体調が優れないようでした。無理せず場を離れることにします。
スタンバーイ・・・
ビュオオオオオ……
みうらさん「あら~~……」
しかし、ワープに失敗してしまいました。頂上からは下りましたが、
エヴェレスト山中のどこかに不時着したようです。何度か再トライしますが……
スタンバーイ・・・
ビュオオオオオ……
みうらさん「あ、あら~……」
エヴェレストから脱出できません。ワープ失敗を繰り返しています。
どうやら、みうらさんは本格的に高山病にかかってしまったようです。
高山病には、耳鳴りの症状も含まれます。みうらさんは聴覚をおかしくしていました。
平衡感覚を失い、ワープが上手くできなくなっていたのです。
ちっちゃん「めっ……(困りましたね……)」
みうらさん「あらららら……」シュコー、シュコー
とりあえずみうらさんの回復を待ちますが、日が暮れる不安があります。
エヴェレストは午後から天気が崩れやすく、夜になれば無論行動不可能です。
ビュオオオオオオ!
吹きつける突風も、強まってきました。ぷち達が口々に喚き立てます。
ゆきぽ「ぽえ、ぽえ!」 ちびき「だぞぉ!」
やよ「うっう~!」ζ#゚o゚)ζ いお「キー!」
何とかしろ、早く帰らせろ、話が違うぞ。ここぞとばかりに、ちっちゃんへ文句を言います。
所詮は糞虫です。やよいお探検隊の二匹も、自分達の番組などどうでも良くなっているようです。
ゆきぽ「ぽぇえっ!」ブンブン ちひゃー「く、くぅう!?」
ゆきぽが何やら、スコップを振り回し始めました。ボンベの酸素が足りなくなってきたようです。
他のぷち用ボンベをよこせと、ゆきぽはスコップの刃先を仲間へと向けます。
いお「キー! キー!」ミョンミョンミョン
するとゆきぽに対抗して、いおがビームのチャージを開始しました。
完全に仲間割れです。雪山遭難によって、害獣達の醜い本性が表面化したのです。
ゆきぽ「ぽぇえっ!」ブンブン
ちっちゃん「め、めっ!(ちょ、やめてください!)」
もう止まりません。そしてゆきぽの暴走を引き金に、ちびきにもスイッチが入ってしまいました。
極限状態になりつつある場に耐えかね、ちびきが大号泣をかまします。
ちびき「だぞ……ぅーあんまよ~~~~ぅええええ~~んっ!!」ビャー
ちっちゃん「めーっ!? めっめー!!(あーっ!? こんな所で怪獣なんか呼んだら!!)」
ちっちゃんが抑えようとしますが、ちびきは友達の動物(怪獣)に助けてもらうつもりでした。
コカトリス(鳥の化物)に乗って、山から下りようという考えです。
怪獣「グォォオオーーッ!!」
ちびき「だっぞ~♪」
ほどなく怪獣は召喚されたのですが……
ゴゴ、ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
雪崩です。鳴き声と怪獣登場の衝撃が山を震わせたことで、雪が剥がれ落ちました。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
表層雪崩は時速200キロ!
瞬く間に、雪の大波がぷち達に迫ってきました。
ちびき「だ、だぞぉお!?」 怪獣「グァァアアース!?」
間に合わない! ちっちゃんは咄嗟に、ゆきぽに穴掘りを指示しました。
ちっちゃん「めっめ、め!!(避難用の穴を掘ってください、早く!)」
ゆきぽ「ぽ、ぽぇえっ!?」ザクザクザク
猛スピードで、かまくらサイズの穴をゆきぽが掘り、皆が中へ身を隠します。
やよいおが転がり込み、みうらさんもちっちゃんに引っぱられました。
一方、ちびきは怪獣に乗って脱出しようとしたものの、雪崩に追いつかれました。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
ちびき「あが~~~~びゃ~~~~っ!!」
怪獣「グェェァアアアアッ!!」
ちひゃー「ぐぅぅぅぅぅぅんっ!!」
哀れ、今回は別に悪いことしてなかったちひゃーも巻き込み、雪崩はちびき達を一飲みにして、
ヒマラヤの深い渓谷の底へと、かき消えて行ってしまいました。
ドドドドドドドドド・・・
ちっちゃん「めっ……」
何とか助かったちっちゃん達。雪山においては、雪の中が安全な空間になります。
下手に動くよりも、ゆきぽが掘ったこの雪洞でじっとしているべきでした。
ゆきぽ「ぽひゅ……ぽひゅ……」ゼエゼエ
そのゆきぽですが、高所で急激に動いたせいか酸欠に陥っていました。
ボンベからの酸素を求めますが……
ちっちゃん「めっめめ、めっ!(おかげで助かりましたが元はと言えば、
あなたが暴れたから騒ぎになったんです。しばらくそのままでいてください)」
ゆきぽ「ぽ、ぽぇっえ!?」
非情な判断を下し、ちっちゃんがボンベを取り上げました。
至極妥当でした。元気にさせては、またいつスコップを向けられるのかわかりません。
いお「キー! キー!」ミョンミョンミョン
しかしそうすると増長するのが、やよいお二匹組でした。
ちびきはすでに亡く、ゆきぽも脅威ではなくなっています。
ビームの光をちらつかせ、いおはわがままを言い立てていました。
ちっちゃん「めっ、めっ……(落ち着いて、助けを呼んでいますから……)」ピポパポ
――ヒマラヤの麓町・ルクラ
P「もしもし。ちっちゃん? え、遭難?」
緊急事態です。プロデューサーが、ちっちゃんからの通信を受け取りました。
P「わかった、ぴよぴよを向かわせる。ん、今は無理?」
ちっちゃんが雪洞から顔を出して確認したところ、山は吹雪き出しているようでした。
時刻も午後を過ぎており、救助に入る頃には日が落ちていると思われました。
P「最悪、雪山で一泊することになるけど……。大丈夫? わかった……」
万一に備えて、ちっちゃんは寝袋も用意していました。食料も、二日分はあります。
律子「大変なことになりましたね……」
P「うん。みうらさんの回復が遅いようだったら、ぴよぴよの出番だからな?
明日の朝にでも、出発できる準備をしておいてくれ」
ぴよぴよ「ぴっ!」イエッサー
――その頃
みうらさん「あら~……」シュコー、シュコー
みうらさんは変わらず安静状態にありました。夜越しを覚悟しなければならなさそうです。
やよ「うっう~~!」ζ#゚o゚)ζ
いお「もっ! キー!」
探検隊のクズ二匹は、ますます不満を訴えていました。
ビバークするのは仕方ないとはいえ、我慢できないものはできません。
食べ物をよこせ、ボンベを優先的に回せと、ちっちゃんに脅しかけます。
ちっちゃん「めっ……」スッ
ちっちゃんは素直に、食料を差し出しました。いくらちっちゃんが天才でも、
道具も素材も足りない環境では、危地を脱する発明もできません。
冷静に、大人しく事態の好転を待つしかありませんでした。
やよ「うっう~♪」ζ* ゙~゙)ζ ムシャムシャ いお「もっ、もっ♪」モグモグ
寒いと空腹を感じやすくなります。こんな状況でも二匹は目を輝かせていました。
見る見るうちに、二日分の食糧が胃袋に消えてゆきます。
意地汚い生き物は、どこまでも意地汚いのですね。
ちっちゃん「めっ……」ズズズ
ちっちゃんは意図的に、食事を控えてもいました。
乾燥した高所では水分補給が重要なので、水(お湯)だけはたっぷりと摂りますが。
ビュオオオオオ……
ついに夜を迎えました。気温はマイナス30℃をも下回る、極寒の檻です。
ちっちゃん「めっ……」 みうらさん「あら~……」シュコー
寝袋にくるまり、ちっちゃんとみうらさんはしっかり暖を取っていました。
ボンベを節約して使い、息苦しさと戦いながら夜を明かす構えです。
やよ「ぅ……うっ……」ζil ゙o゙)ζ
いお「もぉ……もっお……!」グエエ
向かいでは愚か者二匹が、食べ物の消化不良で苦しんでいました。
酸素が不足すると、消化機能が弱まって胃腸が働かなくなるのです。
雪山遭難の最中、食べ過ぎで死にかけるのはこの二匹ぐらいでしょう。
物を吐き出そうと悶えますが、失敗しては体力を消耗するの繰り返しでした。
ゆきぽ「ぽぇ……ぽぇ……」ゼエゼエ
そして忘れられかけてるゆきぽも、生死の境をさ迷っていました。
ゆきぽの尻尾と手足は、凍傷によってまともに動かなくなっていました。
高山病を起こすと、凍傷にもかかりやすくなります。血流は脳と心臓を優先して巡るため、
重要な器官ではない手足から凍りついて腐ってゆきます。
やよ「う、うぅ゛ぇえ……」::ζil ゙Q。)ζ::
いお「もっ、ぎ……」ブルブル
さながら生き地獄の中を、ちっちゃんはじっと控えて耐え続けました。
そうこうした末、夜は徐々に明けてゆきます。
――朝を迎えて
P「ヤバいと思ったら引き返せよ。おまえまで失えないからな」
ぴよぴよ「ぴっ!」
遭難したちっちゃん達の救出に、ぴよぴよが向かうところです。
救助用の酸素ボンベと食糧を持ち、ぴよぴよ自身も防寒具とボンベで完全装備でした。
ちっちゃん『めっ、めっめ……(場所はネパール側のエヴェレスト、6000から7000mの間です……)』
ちっちゃんが通信で、自分達の居場所を報せます。
外の光景から、今どこにいるのか大体見当をつけたのです。
P「目印か何かはあるか?」
ちっちゃん『めっ、めっめ!(用意します。雪原に、赤い印を探してください)』
ぴよぴよ「ぴーっ!」パタパタ
エヴェレストを越えて飛ぶ鳥も存在します。浮遊能力を用いて、
ぴよぴよは空高い白銀の世界へと飛び込んで行きました。
――その頃
ちっちゃん「めっ!」 みうらさん「あらー……」シュコー
運良く、吹雪は止みました。みうらさんの症状も悪化はしていません。
後はぴよぴよにわかるように、SOSのサインを出すだけです。
やよ「ぅ……ぅ……」::ζil。q゚)ζ::
いお「」シーン
ゆきぽ「ぽぇ、ぇ……」
他のぷち達ですが、いおは結局苦しんだまま眠ってしまい、そのままお陀仏となりました。
やよとゆきぽは、ゴキブリ以上の生命力でしぶとく生き残っています。
ちっちゃん「め、めっ!(ちょっと、スコップをお借りしますよ)」スッ
ゆきぽ「ぽぇ……?」
おもむろに、ちっちゃんがゆきぽの背中からスコップを取り上げました。
それから、すでに事切れているいおを、外へと引っ張り出します。
ザクッ、ドスッ!
いお「」ビクンッ
鋭いスコップで、ちっちゃんはいおの亡骸を何度も突き刺しました。
やよ「ぅう!? ぅぅぅ!!」Σ ζil Tp゚)ζ
やよが驚くのにも構わず、ちっちゃんはスコップでいおを刻み続けました。
赤黒い内臓が飛び出ます。まだ体内の血までは、完全に凍りついてはいません。
ザクッ、ザクッ、ザクッ!!
いおの血肉と内臓が、雪の上にぶち撒かれます。これが居場所を示す「赤い印」でした。
やよ「ぅぅぅ! ぅぅぅうっ!」::ζ*T0゚)ζ::
いくらなんでも残酷です。親友の遺体を弄ばれ、やよは抗議しました。
けれどちっちゃんは顔色一つ変えず、そのままやよの冬毛を引っ掴みました。
ちっちゃん「めっ(許してください)」スッ
ドスッ!!
やよ「うぅう゛ぅっ!?」ζli 。p゚)ζ
そして同じように、雪上でやよにもスコップを突き刺しました。
すでに体力の限界にあったやよは、ろくに抵抗もできませんでした。
ザクザクッ、ドスッ!!
やよ「ううびゃぁぁあああっ!!」::ζ*゙'O。)ζ::
ドス、ブスッ、ズルズルズル!!
やよ「ぅう゛ぅぅぇえええっ!!」::ζ。.Q。il)ζ::∞∞∞∞∞ ビュルルーッ
一匹分だけでは目印として小さいかもしれません。やよの血と内臓も抜き出し、
ちっちゃんは白い雪の上に、大きな真っ赤な画を描きました。
やよ「」ζ*l。p。.)ζ
少しして、遠方から救出者が姿を現しました。
ぴよぴよ「ぴーっ!」パタパタ
通信通り、赤い目印を頼りに、ぴよぴよがちっちゃん達を発見したのでした。
ちっちゃん「めっ!」 みうらさん「あら~」
助かりました。新品の酸素ボンベを受け取ります。
しかし救助成功の報せをプロデューサーに送りますが、まだ気は抜けません。
ぴよぴよ「ぴーっ!」
ぴよぴよが、皆を背負って少しずつ下山することにしました。
高度を下げれば、みうらさんの回復もそれだけ早くなるでしょう。
楽な仕事ではありませんが、体力のあるうちに実行するつもりでした。
ゆきぽ「ぽぇ~……」
そこへ地を這うような間抜けな鳴き声が、割り込んできました。
ちっちゃん、みうらさん、ぴよぴよが、顔を見合わせます。
ちっちゃん「めっ?(放っといてもいいんですよ?)」
ぴよぴよ「ぴっ!(もう一人分ぐらいなら連れて行けますよ)」
置き去りにしても良かったのですが、スコップが色々役に立ったので、
ゆきぽもついでに助けてあげることにしました。
ぴよぴよ「ぴーっ!」
こうして、ぴよぴよは生き残った仲間を連れ、空から下山してゆきました。
途中、キャンプ地でこっそり休憩をとり、みうらさんも完全回復させました。
そうしてからワープを使い、やっとの思いでプロデューサー達の待つ麓町に帰還したのです。
P「――お疲れ。これだけじゃとても足りないけど、とにかくお疲れさま」
過酷を極めた、ぷち達によるエヴェレストでのロケが終わったのでした。
――日本に戻って
P「いやー、今回のやよいお探検隊企画は、期待通り大反響だったな。あの二匹は死んだけど」
ちっちゃんが収録した映像は、ドキュメンタリー特番として放送されました。
都合の悪い部分は、当然カットされていますが。
律子「ちっちゃんが、巧いこと厄介な連中だけ始末してくれましたからね」
ちっちゃん「めっ!」
P「特にちびきといおは、普通に殺そうとしても難しそうだったからな。よくやってくれたよ」
ちっちゃん、みうらさん、ぴよぴよの三賢が生き残り、害獣達が全滅するという結果は理想的でした。
ゆきぽ「ぽぇ~……」
一匹、死に損なった害獣はいましたが。
しかし凍傷で尻尾と手足を切断することになり、ダルマと化したゆきぽは見せしめになりました。
他の問題児ぷち達に、悪さするとこうなるぞと言い聞かせられるのです。
ゆきぽ「ぱぅ……」モゾモゾ
スコップも扱えなくなったゆきぽなど、簡単に処分できます。
ダンボール箱の中で、芋虫ゆきぽはお情けで生かされ続けるのでした。
P「でも、なんだ……エヴェレストといい、よくあんなところ登ろうと思うよな」
律子「山は麻薬、ってやつですか」
P「まあどうするかは自由だけど、死ぬために冒険するなよ、と」
死んだらゴミです。特にエヴェレストのような容易に立ち入れない地帯では、
死体が回収できないゴミとなって残り続けます。
やよ「」ζ*l。p。.)ζ ヒュウウウウ
命は大事に、そして他人に迷惑はかけ過ぎないようにしましょうね。
おしまい
- 最終更新:2016-11-24 08:27:05