クロックタワー・ぷちどるハント

大量発生したぷちどるを有効活用できないか、人々は今日も考える……

――とある遊園地。
ここにはパークの中心地に、大きな時計塔があります。

「これが当園の目玉アトラクション、『クロックタワー・ぷちどるハント』でございます」

この時計塔は、現在の時間をお知らせするためだけの建物ではありませんでした。

「予約制の体験アトラクションになります。まずこの時計塔の中に、数匹のぷちどるを放ちます。
お客様にはスタイル毎の殺人鬼に扮装していただいて……、ぷちどる達を〝狩って〟もらいます」

そうです、これはぷちどる狩りをテーマにした、この遊園地のアトラクションなのです。

「具体的にはどんなものなのか、ご覧いただけます。まず、こちらが各コスチュームとなります」


Aタイプ:殺人鬼(ハンマー)
大型の金槌を武器にしています。振り回して当てれば、ぷちどるは即死します。
ただし非常に重いので、腕力がないと使いこなすのは難しいです。

Bタイプ:殺人鬼(硫酸)
硫酸スプレーを武器にしています。ボンベを背負い、ノズルから硫酸を噴き出して攻撃します。
扱いに細心の注意を要するので、防護服とマスクはしっかり着込んでもらいます。

Cタイプ:殺人鬼(大バサミ)
鉄製の巨大なハサミを武器にしています。挟み込む他、突いても切っても攻撃できます。
クセはありますがハンマーほど重くもないので、初心者にはおすすめです。

Dタイプ:殺人鬼(チェーンソー)
伐採用のチェーンソーを武器にしています。このタイプのみ、使用に条件がつきます。
強力な武器ですが、回転時に大きな音が鳴るのがネックです。


「お客様には殺人鬼のコスチュームを、A~Cの中から一つ選んでいただきます。
Dのチェーンソーについては、当アトラクションを何度もプレイした方のみが、使用可能となっております」


――放たれるぷちどるについて。

「狩りの対象となるぷちどるは、以下の五匹になります」


あふぅ
すばしっこくてずる賢く、いつでも真っ先に逃走を図ろうとする。
戦闘力もそれなりにあるので、この中では狩るのが一番難しいぷち。

ちひゃー
取り立てて秀でた能力が無いため、狩りやすい部類に入るぷち。
よく威嚇する姿勢を見せるが、まったくの張り子の虎。

やよ
元々好戦的ではないぷちなので、狩りの状況下ではひたすら逃げ回っている。
音に敏感で、すぐこちらの存在を察知してくるが、裏技を使うと簡単に釣り出せる。

こあみ・こまみ
本物の双子でも、違う片割れ同士でも、大抵二匹一緒に行動する。
よって見つけやすいが、狩る際には的を絞らないと逃げられることも。


「ゆきぽはいないのかとよく訊かれるのですが、あのぷちは施設を壊すので扱い切れません。
こちらがケガをする可能性もあるので、登場するぷちはこの五種類に限られております」

無能で貧弱なぷちどるを選出しているのです。

「制限時間は10分間。このアトラクションは、一度につき一名様までしか参加できません。
準備室でコスチュームに着替え終わったら、門をくぐってスタートしていただきます」

獲物となるぷちどる達は、先に時計塔に解放されています。

「モニターで、様子を拝見できます。現在の進行状況を見てみましょうか」


――時計塔内部。

あふぅ「ふぁ……ナノ……」

ちひゃー「くっ! くぅ!」

やよ「うっう~?」ζ*゚0゚)ζ

こあみ「とか?」 こまみ「ちー?」

ちょうど、ゲーム開始前のようです。
新たに獲物役に選ばれたぷち達が、控室から中へと送り込まれたところです。

ナノ、クー、ウウー、トカー、チー

きょろきょろするぷち達の前には、モニターが設置されてあります。

『ようこそ、ぷちどる諸君! 今から君達がすること、されることをお教えしよう!』

いきなり音声が鳴り、画面が映り出しました。ぷち達が何事かと覗き込みます。

『まず、この時計塔に殺人鬼が侵入した! 殺人鬼は見境なく、ぷちどるの君達も殺そうとしている!
殺されたくなければ、逃げなくてはならない!』

ちひゃー「く、くぅぅ!?」 やよ「うー?」ζil ゚o゚)ζ

『殺人鬼の活動時間は10分間だ! その間、君達はこの時計塔を逃げ回ることになる!
ぼやぼやしていると殺されるぞ! そして外には絶対に出られない!』

突然そんなことを言われても、どうしていいのかわかりません。
状況の呑み込めないあふぅなどは、やかましく喚き立てていました。

あふぅ「ナノ! ナノナノ!」 こあみ「とかぁ? とかとか!」

『逃げ切れなかったぷち達は、どういう最期を迎えるのか。これは実録映像だ』

喚くぷち達には反応せず、モニターは淡々と恐ろしい映像を流し始めます。

ザクッ!! グシャ!! ブスッ!! ブシャー!! メシャメシャ!!
『ぐぎゃぁあああああ!!』『ナ゛ァァァアアアア!!』『とぎゃぁああああああ!?』
『ぢい゛い゛い゛い゛い゛い゛!!』『うぅびぃぁあああああああ!!』

切られ殴られ突き殺され。画面に、ぷち達の悲鳴と血しぶきが噴き上がります。
これまでに、この時計塔で起こった惨劇のようです。

あふぅ「な、ナノォ!?」 ちひゃー「くぅぅぅぅ!?」 やよ「」::ζ*T0゚)ζ::

それを見たぷち達は、一様に震えあがってしまいました。

『これは殺人鬼にとっては、ゲームである。そしてそのゲームはこれから始まろうとしている。
諸君、用意はいいか?』

こあみ「と、とかー!」 こまみ「ちー!」

まだ何の準備もできていないぷち達。しかしスタートの合図は、無情にも鳴ってしまいます。

ビーーーーーー!! ガシャン……
ゲートが開く音。ハンターもまた、塔の内部に解き放たれたのです。

殺人鬼(ハンマー)「うぉおおおおおおおお!!」ドドドド

どうやらこの参加者は、ハンマーを武器に選んだようです。コスチュームも殺人鬼っぽく、イカレています。

あふぅ「ななな、ナノォォォォオオ!!」 やよ「うっうー!!」ζ*T0゚)ζ

殺人鬼は一直線に、ぷち達に向かって突進して行きました。入口地点から、目の前にいたのです。

ちひゃー「くぅ!? し、シャーーーーー!!」

ちひゃーが出遅れました。あふぅとやよは真っ先に逃げてしまっています。
そして愚かにも、ちひゃーは殺人鬼を威嚇しようとしたのです。

殺人鬼(ハンマー)「オラァ!!」ブンッ!!
ちひゃー「シャぐぅぇふ!?」グチャッ!!

大金槌の一振りで、ちひゃーの頭が弾け飛びました。
割られたスイカのように、砕けた外枠(骨)と赤い肉片を撒き散らします。

ちひゃー「」

こあみ「と、とかあああああ!?」タタタタ こまみ「ちぃぃぃいいいい!!」タタタタ

それをもろに見てしまった双子。足がすくみそうになりながらも、必死に逃げ出します。

殺人鬼(ハンマー)「待てえええええええ!!」

まず一匹。制限時間内にぷち達をすべて狩るべく、参加者も急ぎます。

こあみ「と、とかとか!」 こまみ「ちぃぃぃ……」

時計塔の内部は、上階にある機関室と展望台に至るまで、らせん階段が続いている構造です。
一階にある外に通じる扉は、イベント中はすべて閉められています。

あふぅ「ナノォォォォオオ!」 やよ「うーっ、うーっ!」

時計塔の高さは、50メートルはあります。階段で上がるのは、なかなか骨が折れます。
昇って逃げようとしたぷち達でしたが、恐怖で足がもつれ、こあみが転んでしまいます。

こあみ「と、とかああああ!」 こまみ「ち、ちー!?」

先を走っていたこまみが助け起こそうとしますが、殺人鬼はすぐそこまで迫っていました。

殺人鬼(ハンマー)「うぉおおおおおおおお!!」ダダダダ

こまみ「ちぃいいいいいい!!」バッ

こあみ「とと、とかぁあああああ!?」

こあみの救出をあきらめ、こまみは自分だけ生き残る道を選んだようです。
片割れに見捨てられ、絶望の淵に叩き落とされたこあみを、ハンマーが襲いかかります。

こあみ「とぎゃあああああああああああああ!!」

絶叫がこだましました。耳を塞ぎながら、こまみは階段を駆け上ります。

こまみ「ちいいいいいい!!」ユルシテー

カンカンカンカン……
あふぅ「ナノ、ナノ……」 やよ「うぅ~……」

階段を上り切りました。上階には、機関室と展望台への道が分かれています。
機関室内部は動力装置が多数置かれてますが、被害を避けるため鉄網で仕切られています。
それでも机やロッカーなども設置されているので、ぷち達が身を隠すにはもってこいです。

こまみ「ち、ちぃ~~……」

あふぅ達に追いついたこまみも、機関室に隠れることにしました。このまま殺人鬼をやり過ごすつもりです。

殺人鬼(ハンマー)「ここかあ~~?」ヌッ

すぐに、参加者も追いついてきたようです。隠れるとしても、展望台とここしかありません。

殺人鬼(ハンマー)「……チッ、いない」ガチャ、バタン
こまみ「……」

殺人鬼がロッカーを開け閉めしています。ぷち達がどこに隠れているのか探しているのです。
こまみはドアの陰に身を潜めており、ちょうどここは死角になっていました。

殺人鬼(ハンマー)「……あれを使うか」
制限時間もあります。あまり悠長に隠れんぼはしてられません。
殺人鬼は、公認されている裏技を使うことにしました。

チャリーン……

殺人鬼が床に落としたのは、10円玉でした。すると――、

やよ「うっう~!」ζ*^O^)ζ ダッ

机の裏側から、隠れていたやよが飛び出して来たのです。
習性を逆手に取った方法なのですが、こんな状況でも金に反応するとは、脳の障害を疑うレベルです。

殺人鬼(ハンマー)「……」
やよ「うっ!? うぅ~~……」ζ*T3T)ζ

すぐさま我に返るやよでしたが、もう手遅れです。
泣き落としでやり通そうとしますが、そんなので見逃してくれるのは頭の緩いアイドルぐらいです。

殺人鬼(ハンマー)「オラァ!!」ブンッ!!
やよ「うぶぎゅ!?」ζ;;:从从从;:ζ”゚ ドグチャ!!

渾身の振り下ろし。ハンマーが、やよの脳天から足先までを叩き潰します。
スクラップにされた車のように、やよの体は原型を留めないほどぺちゃんこにされてしまいました。

やよ「」...ζ...,(;:.,....。.ζ...

殺人鬼(ハンマー)「! そこかっ!」

あふぅ「ナノォ!?」

やよの死に動揺したあふぅが物音を立て、殺人鬼がそれに気づきます。
物陰に隠れていたあふぅは、咄嗟に逃げ出しました。

殺人鬼(ハンマー)「んにゃろっ!」ブンッ
あふぅ「ナノ!」サッ

殺人鬼がハンマーを振るいますが、あふぅも身軽さを活かしてなんとか避けます。
一人と一匹の鬼気迫る攻防が、機関室内で繰り広げられました。

こまみ「ち、ちぃぃぃ……」

いずれ、自分も見つかってしまうだろう。それなら今のうちに逃げるべき。
こまみはここでも、仲間を見捨てました。しかしそれも仕方ないのです。

こまみ「ちぃ! ちぃぃ!」

殺人鬼があふぅに気を取られている隙に、こまみはドアの陰から移動を始めました。
上階からは展望台に移れますが、こまみは一階に下りることにしました。
なんとなく、殺人鬼もすぐには下りてこないような気がしたのです。

こまみ「ちぃっ……ちぃ……」カンカン
こあみ「」
こまみ「ちぃ! ……ちぃ」

階段を降りる途中、こまみは変わり果てたこあみと再会しました。ちひゃーややよほど、
死体はひどい状態ではありませんでしたが、こあみの虚ろな目は片割れを恨んでいるように見えました。

こまみ「ちー! ちー!」タタタタ

それでもこまみは、振り払うかのように階段を下り続けました。あるはずのない視線を感じながら……

殺人鬼(ハンマー)「待てコラァァアア!!」

あふぅ「ナァァノォォォオオ!!」

一方、あふぅもまた必死に逃げ続けていました。
鬼ごっこの舞台は、やがて機関室から展望台へと移ります。

殺人鬼(ハンマー)「クソ……!」

重い武器を持ちながら、走り回っているのです。殺人鬼も息切れしてきました。
それを見てあふぅは、バカにするかのように舌を出してみせます。

あふぅ「ナーノ、ナーノ!」バーカ

殺人鬼(ハンマー)「……」ドスン

するとここで、殺人鬼はハンマーを一旦捨てました。
そして身軽になった状態で、あふぅを追い始めたのです。

あふぅ「ナ、ナノォォォォオ!?」

武器を持っているからって、別に絶対それを使わなくてはいけないというルールはありません。
殺人鬼は素早く距離を詰め、あふぅを手掴みで捉えようとします。

あふぅ「はにゃぁぁああああ!!」

あふぅはテラスの隅へ追い詰められました。屋根へ逃げようにも、ここは時計塔の最上階部分です。
相当な高さで、足が動きません。

殺人鬼(ハンマー)「捕まえたぞコラ! よくも手こずらせてくれたな!!」
あふぅ「にゃぁぁ、ナノォォォォオオ!!」ジタバタ

とうとうあふぅは、殺人鬼に捕えられてしまいました。
鬱憤を晴らすかのように、殺人鬼はあふぅを素手で殴りつけ、床や壁に叩きつけます。

あふぅ「ナニョ! ニャギャ! ニャニョォ!!」ゴンガン

殺人鬼(ハンマー)「調子こきやがって! 思い知ったか!」

あふぅ「ニャ……ニャノ……」ピクピク

殺人鬼(ハンマー)「ふん、ゴミめ」ポイッ

そのまま殺人鬼は、テラスからあふぅを投げ飛ばしました。
ヒューン……グシャ!!
高さ50メートルの位置から放り捨てられ、あふぅは地面に血の華を咲かせました。

殺人鬼(ハンマー)「さて……後は一匹だな」

まだ、こまみが残っています。ハンマーを拾い、殺人鬼は展望台から機関室へと戻りました。

殺人鬼(ハンマー)「いないな……下に戻ったか!」

機関室にはもう誰もいないようでした。気配も感じないのです。
そういえば先ほど、階段を下りる音が聞こえたような気もします。

カンカンカンカン……
こまみ「ち、ちぃ……」
一階ではこまみが、柱の陰に隠れて震えていました。
階段を誰かが下りてくる音がします。当然、あの殺人鬼でしょう。
一階部分に入れる部屋はなく、こうした物陰に隠れるしかありません。

殺人鬼(ハンマー)「どこだ!」

こまみ「……」

こまみはじっと息を殺して、小さく身を丸めていました。
それから、どのぐらい経ったのでしょうか……

『制限時間10分を経過しました! ゲーム終了です!』

アナウンスが響きました。それを聞いた殺人鬼が、肩を落とします。

殺人鬼(ハンマー)「ちっくしょう……あの金髪毛虫に、時間を使い過ぎた……」

こまみ「ち、ちぃぃぃぃ……」

殺人鬼が準備室に戻って行く姿を見て、こまみは大息を吐きました。

こまみ「ちー、ちー……」エグエグ

体から力が抜け落ち、涙が浮かんできました。こあみも、他のぷち達もみんな殺されてしまったのです。
しかも、自分はそれを見捨てて生き残った身なのです。夢なら早く覚めてほしいと、こまみは思いました。


しかし、悪夢はまだ終わっていませんでした。
参加者が退場した後、入れ替わりでやって来た係員達に、こまみは連れ出されてしまいます。

こまみ「ちぃ!? ちーーー!!」

「生き残ったのは、こいつです」

「よし。次のゲームにも、続けて出演してもらおう」

こまみ「ちーーーっ!? ちーーーーー!!」

引っ掴まれたこまみは、ぷち用の控室に放り込まれました。そこには――、

こあみ「とかぁ?」
ちひゃー「くぅ?」
あふぅ「zzzzz……むにゃ」
やよ「うっう~?」

死んだはずのぷち達、ではありません。
次のゲームに出演予定の、新しい犠牲者達です。まだ、何も知らない。

こまみ「ちーーーーっ!! ちーーーーっ!!」

こまみは、必死に状況を説明し、助けを求めようとしました。
しかし半ばパニック状態であるため、いまいち伝え切ることができません。

こまみ「ぢーーーーーーーーっ!!」



「――次、出場されるお客様のコスチュームは?」

「Bタイプの殺人鬼です。硫酸使いですね」


『準備の方はよろしいでしょうか?』

殺人鬼(硫酸)「……大丈夫です」シュコー


――クロックタワー・ぷちどるハント2に続く


  • 最終更新:2014-02-20 14:53:00

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