声が出なくなったあふぅ

「ナノー!!!」

なんていう自分の声で目が覚めたあふぅ。別に寝言ってわけじゃないんです。
むしろ、その逆というか。目を擦りながら、いつものように呟いてみます。

「……?」

あふ……なんてまだ眠そうな声を出したかったのですが、口からは息が漏れるだけ。
もう一度挑戦するも、息が詰まったような音しか発することができずに、あふぅは驚きました。

「……」

なんで、どうして!? そんな風に焦るあふぅ。でも、四肢は問題なく動くようです。
と、そこにちょうどプロデューサーがやってきました。よかった、とりあえずこれでなんとかなるかもしれない。

声が出ないからかなかなか調子も上がらず、いつもなら背面から思い切り蹴りを入れるあふぅも今日は足下から静かに忍び寄って。
チョイチョイ、とズボンの裾を引っ張ってみます。

「ん? なんだあふぅか。どうした?」

「……」

「……ん?」

ジェスチャーで必死に訴えかけますが、もちろん伝わるわけがありません。それどころか、逆効果になってしまったようで。

「ごめんな、今忙しいから遊ぶなら後で」

「……」

当然と言えば当然なのですがその対応、あふぅは気に入りません。そして、みるみる腹が立ってきて、いつものようにプロデューサーめがけて飛びかかります。

「うおっ!? な、何するんだよあふぅ!!」

「……!!」

「何か言ったらどうだ? なぁ」

何も喋れないからこうやって助けを求めてるんじゃないか!!
ナノナノッ!!といつものように叫ぶ事ができない苛立ちで、手足の動きは激しくなっていきます。
でもそんなことしていたら、どうなるかは想像に難くありません。

「おい、いい加減にしろ。新手の嫌がらせか?」

「~~~!!」

「もういい、あっちに行ってろ」

「……」

それで引き下がれたら苦労しません。なんでわかってくれないんだ、喋れないのに!!
焦るあふぅ。動き回った上相手にされず、叩き落とされたので息だけは上がっています。
しばらくして体力も回復した頃、声を出してみるもやっぱりうまく出ません。
なのでデスクに向かっているプロデューサーに、今度はゆっくりと迫っていきます。

「……ん、今度はなんだ」

「……」

何も言わずに、それでも精一杯あふぅは努力をしていました。
いつもなら、はにぃ!!なんて言って飛びかかるところ。そして、はにぃ……なんて少し甘ったるい声を出して誘惑してみたり。
そんな声は一切なしに、今仕事をしているデスクにまるでなめくじのように音も無く這ってこられたら、不気味にすら感じます。

「おい、降りろよ。あふぅ、なんなんだよ今日は」

「……」

もちろん声はなしに、とても不服そうな顔をして、一応精一杯の泣き顔を見せながらプロデューサーを見上げます。
でも、声が出ないのに泣くというのは非常に困難で、ただひたすら咳き込んで、軽い嗚咽が溢れるだけでした。
訳が分からない生物が訳の分からないことをしているのは、やはりただただ不快なようで。
プロデューサーは何も言わずにあふぅをデスクから引きずり降ろしてしまいました。

半ば強引に降ろされたあふぅはもう我慢の限界でした。
喋れないことがこれほどまでにもどかしく、不便なことであるとは。
なぜこうなったかはわかりませんが、とにかくこの怒りの矛先をどこかにぶつけるほかありませんでした。

あふぅは手始めにその辺に落ちていた本を蹴飛ばしてみました。
バサッ!という音がして、それが妙に心地よくて。
次にペットボトルを蹴飛ばしてみました。床に落ちると、コーンという音が事務所に響きます。

明らかにプロデューサーは苛立っていました。でもあふぅはむしろ、自分が音を出せていることで気を紛らわせていましたから
誰が止めようと、今のあふぅは止められない。それくらいあふぅは気力を取り戻していました。

できるだけ音が鳴る物を!!そう考えて次に目を付けたのはテーブルに置いてあったお菓子です。
袋を触ってみると、それだけでガサゴソと音がします。叩き付けると中に入っていたお菓子が粉々に砕ける音がしました。
それを片っ端から広げて、蹴ったり踏んだり投げてみたり。いつもならナノッ!!なんて高い声を上げながら楽しんでいることでしょう。

と、あふぅは粉々になったお菓子を適当に投げて遊んでいたわけですがそれがうっかり、プロデューサーの頭に当たってしまいました。
プロデューサーはゆっくりと立ち上がります。あふぅは気にしていない様子。
あ、そうだ!次はあれだ!!そんなのんきなことを考えて、鬼気迫った表情のプロデューサーをかわしてプロデューサーのデスクへ。
ちょうど入れ替わった形で、まだ仕事が残っている状態のパソコン。書類、湯のみにはお茶。その他諸々が結構な量積み置かれています。

「……あふぅ?」

ナノッ!なんて声を上げなくても、もうあふぅは平気でした。いつだったか事務所をめちゃくちゃにして、怒られた記憶はもうとっくに忘れてしまいました。
いや、もしかしたら今のストレスで忘れたことにしたのかもしれませんが、あふぅは開き直ったように暴れだします。

デスクの上はみるみるゴミの山に変わって行きます。そしてそのゴミは、徐々に床へと溜まっていきます。
恐ろしいことに今回はただ、書類やゴミがドサドサと落ちて行く音しか聞こえてきません。あの腹立たしい、ナノッ!という声は、一切聞こえてこないのです。
それでも被害は今までのように甚大で、ただそれを眺めていたプロデューサーも、笑うしかありませんでした。

あらかた荒らし終わったあふぅは一仕事終えたかのような表情で、あふぅ。とため息をつこうとするも、やっぱりダメ。
それに気がつくとまたちょっぴり不満そうな顔をしますが、そんなことをして一息ついているあふぅの後ろには、プロデューサー。

「あふぅ、今日はどうしたんだ? 妙に機嫌が悪いじゃないか」

気がついたら捕まっていたあふぅ。ナノナノ!!なんて暴れてみますが、声は出ませんし今のプロデューサーからは逃げられるわけがありません。

「そうか、今日は声を出さないのか。良い心がけだ。お前を叱るのにも、あの馬鹿みたいな鳴き声のせいで憚られてたからな」

嘘泣きながらもあの、びえぇえええええ!!と言う声は事務所だけでなく近隣に轟くほどの音量で、度々問題になっていたとか。
今のあふぅはそんな嘘泣きをして媚びることも、鳴いて訴えることも、叫んで抗ったり助けを呼ぶ事もできません

「こんなこともあろうかと用意しておいたんだよ」

そう言ってプロデューサーが取り出したのはガムテープ。
いつもなら隙を見て逃げ出せるあふぅも、気がついたらそのガムテープでぐるぐる巻きにされていました。
声を出して何かを伝えようとする。だけれど、その声がでない。と、何度やっても慣れない動きですから
そんなことが影響して、あふぅの動きは鈍っていました。そして、精神的なところでも。

「本当に声がでないのか、ちょっと試してみようか」

そう言うとプロデューサーは思い切りあふぅの顔面を殴ってみました。
軽くミシッ、といった感覚の後聞こえるはずの悲鳴は、ありませんでした。
ただ痛みに悶え、何か発しようとしているあふぅ。しかし、叫ぶと喉が詰まり、咳き込んでしまう。

痛い……やだ、やめて……。
そんな風に降伏の意を唱えようとしても、あふぅにはその権利すらありません。

「なんだ、本当に声がでないのか。これは中々」

その後もプロデューサーは何度かあふぅを殴ったり蹴ったりしてみました。
がふっ、ごふっなんて息が漏れる声と肉と骨に響く重低音だけが聞こえていました。

「よしよし、ここまでなら大丈夫だろう。あふぅ、おいで」

もちろん拒否権はありません。
ボコボコになってしまったあふぅ、今にも泣き出したい。でも、それすら叶わない。
痛い、辛い……もう、やだ……なんでこんな目に遭わなきゃいけないの……
喋れさえすれば、ここまでならなかった。なんで……

もう自分に問う事でしか見いだせなくなったあふぅには、プロデューサーからのとっておきのお仕置きがまっていました。
あふぅは辺りを見回してみます。ただ絶望しているあふぅには、よく理解できませんでした。

「なんてことない、ただのゴミ捨て場だよ」

「……」

「手足は使えず声も出せない。お前は帰ってこれるのかな。できないことを祈ってるけど」

そう言うとプロデューサーは事務所へと帰っていきました。

あふぅはそこに転がったまま、辺りを見回してみました。
妙な虫や生き物が這っていて、更には悪臭。当たり前の光景です。
でも、その異常な環境をようやく理解したあふぅは、プロデューサーの背中を見て、叫びます。

「はにぃい!! はにぃ゛いいい!!」

もちろんプロデューサーは振り向きません。だって、何も聞こえないんですから。
それでもあふぅは、必死に叫んでました。でも、そんなことをしていたら。

ズズッ……と、足が何十本もあるような虫が、あふぅの体に寄ってきました。
あふぅは目を見開いて、体を捩りながら泣きわめきます。

「びゃあ゛ああああああ!!!」

残念ながら声は全く響きません。その虫が這う音の方が、よっぽど大きいくらい。
体中を蠢く、虫の感覚にあふぅは狂いそうになります。
叫んでも、叫べない。泣けばまた、むせてしまう。

もう、無理なんじゃないかって思い始めたあふぅは叫び疲れ、そのまま死んだように眠りにつきました。

夢の中でもあふぅは何もしゃべれなくて。
他のぷちや事務所のアイドルたちにも、無視されて。最後には道ばたの石ころのように扱われていく、そんな夢でした。

起きた所で、大して変わったりはしません。野良犬に弄ばれることもあります。
きっとガムテープが切れることには、あふぅはもう壊れているでしょう。

生物にとって、声というものの大事さ。それを体を張って証明してくれたあふぅは、もう一度眠りにつきました。




「……しかし本当なんだな。声をなくせば大人しくなるってのは」

「これは使えそうだな。さて、次は誰の声帯を……」

つづく


  • 最終更新:2014-02-20 22:06:02

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