大掃除

ゆきぽが目を覚ましたのは、お昼前でした。コシコシと目をこすり事務所を見渡すと、事務所内はガランとしていました。デスク等は外に運ばれているようです。広々とした事務所の真ん中に、Pがいました。何かの資料に目を通しているようです。
Pがゆきぽに気がつきました。

P「目が覚めたか、おいで、ゆきぽ」

そう言ったPの顔はとても穏やかな表情。近ごろPがゆきぽに見せる表情は、いつも険しいものばかりでした。久々の優しい表情に、ゆきぽもニパッと微笑みを返し、トテトテとPの元に。Pはゆきぽを抱き抱えます。

P「おはよう、ゆきぽ。事務所がガランとしててビックリしたか?」

ゆきぽ「ぽえっ」コクン

P「ははっ、そうだよな。実はこれから、大掃除も兼ねて俺たちに悪さする生き物を退治するんだ」

ゆきぽ「ぽえ?」クビカシゲ

P「これを見てくれ」スッ

Pがゆきぽに資料をみせます。
そこに書かれていたのは、『シロアリ』の文字。写真には無惨に壁や床に穴を空けられたものもあります。

これはなあに?とゆきぽがPに問いかけます。

P「このシロアリはな、ゆきぽ。建物に住み着いてその建物に穴を空けてダメにする虫なんだ」

ゆきぽ「ぽえ?」

そんなイヤな虫さんがいるなんて、とゆきぽは顔をしかめます。

P「実はな、このシロアリよりもっと迷惑な生き物がこの事務所にいるんだ。これからその生き物を退治するんだが、ゆきぽはどうする?」

ゆきぽ「ぽえっ!」スチャッ

ゆきぽがスコップを構えます。どうやらその生き物の退治を手伝いたいようです。

P「そうか、ゆきぽも思うよな。そんな生き物退治しなきゃってな」

ゆきぽ「ぽえっ!」コクン

皆に迷惑をかける悪い虫さんをやっつけなきゃ!ゆきぽの目がキリリとします。

P「よし、じゃあ始めるか。おーい、みんなー」

Pが別室に呼びかけます。

スッ

すると三人のアイドルが出て来ました。手に持っているのは金属バット。

ゆきぽはキョトンとしていましたが、『この人達がゆきぽと一緒に悪い虫さんをやっつけるんだな』と思い、三人に微笑みを向けました。

次の瞬間、

ツカツカツカツカ…

ガンッ!ゴンッ!カァン!
ガキンッ!ミシッ!カァン!ガツッ!バキッ!カァン!
ゆきぽ「ぽいぎっ!ぷぎ
っ!ぽぎゃっ!ぎゃっ!ぷいあー!ぽやあぁぁぁぁっ!!」

三人が一斉にゆきぽ目がけて金属バットを叩きつけました。

パンパン

P「はい、一旦やめ」

響「ん?どうしたんだプロデューサー」

伊織「そうよ、さっさとやっちゃいましょうよ。…ていうか春香、あんた空振りしすぎ!カンカンうるさいのよ!」

春香「…えへへ、ごめんね。中々当たんなくて」

Pの号令で襲撃は一時中断。ゆきぽは痛いわ、訳が分からないわで放心状態。目が虚ろです。耳には自分の身体が軋む音と金属バットが床を打つ音が生々しく残っています。

P「コイツ自身、訳が分からないまま死ぬのは俺の気がすまないし、お前達も覚えてるだろ?あの条件」

三人「…」コクッ

Pはボロ雑巾のようになって踞っているゆきぽのサラサラの髪を掴んで強引に顔を上げて、その顔を覗きこみます。

ゆきぽ「ぷぃ~;;ぷぃ~い;;」ガタガタ

P「何で自分がこんな目に、って顔だな。…さっき言った『シロアリよりもっと迷惑な生き物』。あれ、お前だよ、ゆきぽ」

ゆきぽ「ぽ?ぽえ?」ビックリ

P「何驚いてんだ」

響「シロアリが家屋に穴を空けるのは食べる為、生きる為だぞ。堀りたいから掘るゆきぽとは違うさー。同じ穴でも、ゆきぽのは、ただただ悪質なだけだぞ」

伊織「シロアリはほとんどの動物が利用することのできない枯木等を、利用可能な動物性たんぱく質に変換できるのよ。家屋にとっては迷惑だけど実は有益なんだから。あんたと違って」

春香「シロアリはコンクリートも掘る事はあるけど、5cmのコンクリートを掘るのに一週間かかるんだって。ゆきぽは一瞬だよね。シロアリよりよっぽど迷惑」

P「これでお前が『シロアリよりもっと迷惑な生き物』だって事、理解できたろ?」

ゆきぽ「ぽ、ぽええ~?!」ガーン!

『シロアリよりもっと迷惑な生き物』が自分の事だとは微塵も思っていなかったゆきぽ。目を丸くして、信じられないと言った面持ちです。

P「で、お前も『そんな生き物は退治しなきゃ』って言ったのに同意したよな?だから、今から俺たちがお前を退治する。分かるよな?」

ゆきぽ「!!…ぽ…」サーッ

顔が青ざめるゆきぽ。馬鹿なゆきぽでも殴られる直前のやり取りくらいは覚えていました。

P「そういう訳で、今からお前を退治する。簡単に言うと、殺す」

ゆきぽ「ぷぃぃ…」ゾッ

P「でもな、ある人が『もしゆきぽが条件を満たした場合に限り、殺さないで欲しい』って言っててな。少しだけ時間をやるから、俺たちに命乞いをしてみろ。響、通訳頼む」

ゆきぽ「ぽ、ぽえっ。ぽっぽー…」

ゆきぽが命乞いをします。

もう酷い事しないでよ。

ゆきぽ、もう痛いのやだよ。
ゆきぽ、死にたくないよ。

もう穴は掘らないから

助けてよ。助けてよ。


響「もう穴は掘らない…って言ってるぞ」

P「なら、もうスコップはいらないな。よこせ」

ゆきぽ「ぽ?」ギュッ

スコップを抱き締めるゆきぽ。どうやら渡す気はないようです。
『穴は掘らないけどスコップは渡さない』
この期に及んでそんな都合の良い事がまかり通ると思っているようです。
そして、その甘ったれた思考がゆきぽの命運を分けました。

ガキンッ!

ゆきぽ「ぴぃあーっ!」トサッ

鬼の形相をした伊織がゆきぽの額を金属バットで殴打しました。

伊織「これ以上は時間のムダよ。そうでしょ?」

P「そうだな、多分いくら時間があっても『条件』は満たせないだろうな。こいつには」

春香「簡単な『条件』だったのにね」ハァ

響「生き物を殺すなんて抵抗があったけど、こんなクズならなんくるないさー」スッ

バキッ!ミシッ!メリッ!ゴスッ!カァン!グギッ!ボギッ!ドグッ!ガキッ!

ゆきぽ「ぽぎぃっ!ぱうあー!ぴぎぃっ!ぽぎゃあっ!ぷいあっ!ぽんがあっ!ぷいぎぃあっ!あっ!ぴぎゃあー!…」

再び金属バットで滅多打ちにされるゆきぽ。白いワンピースが血で真っ赤に染まります。

パンパン

手を叩いて皆を制したのは伊織。他の二人が手をとめます。

伊織「とどめは私が。ゆきぽ、あんたが助かる『条件』、何だったか知りたい?」

ゆきぽ「…ぽ?ぽえ…」コクリ

伊織「条件は『あんたが事務所の床に穴を掘った事に対して謝る事』よ。残念だけど出来なかったわね。死になさい」ブンッ!

グシャアッ!

ゆきぽ「ぽんぎゃあぁぁぁぁぁあぁ!!!」

伊織が振り下ろした金属バットがゆきぽの脳天に命中。
『事務所に住むシロアリよりもっと迷惑な生き物』の駆除が終わりました。

伊織「せっかくあずさがあんたを助けようと『条件』を出したってのに…胸クソ悪いわね」

最後までゆきぽの駆除に反対していたあずささんでしたが、10日程前にゆきぽが事務所の床に穴を掘った時、条件付きで泣く泣くゆきぽの駆除に賛成していたのでした。これでようやく満場一致でゆきぽの駆除が決まりました。あずささんの最後のお願いとして挙げた条件が、
「もしゆきぽちゃんが床に穴を掘った事に対して『ごめんなさい』できたら許してあげて欲しい」
でした。
結局は豚に真珠、猫に小判、ゆきぽに優しさでしたが。

実働部隊は、ゆきぽの穴堀り関連での一番の被害者(穴や穴を掘った床の破片でよく転んだ)春香、良識派ゆえに人一倍ゆきぽに対して憎悪を募らせていた伊織、動物好きであるが故に、人に仇なす害獣ゆきぽがのうのうと生きている事に嫌悪感を抱いていた響の三人が名乗りを挙げました。

シロアリ関連については、家屋に穴を空けると言うゆきぽとの共通点を持つ害虫と言う事で比較対象としてPがググって資料を作成しました。
もし、ですが、ゆきぽがシロアリ(よりもっと迷惑生き物)の駆除に反対していたら、Pはゆきぽを処分までせず、何処かの山にでも捨てるつもりでした。シロアリも家屋に住まなければ害虫ではないですしね。

ゆきぽを駆除したのには、もう1つ理由があります。

「毎度!◯◯工務店ですが。今日はこの部屋の床の全面張替えと伺って来たのですが」

そう、毎度なのでした。床の修繕の度にこの工務店さんに来てもらうのは。
ゆきぽが穴を掘った箇所の数は尋常ではなく、元の床と修繕箇所の色の違いも目立ちました。
そこで、いっそ今年の内に事務所の床を綺麗に全部張り替えて、心機一転、新年を迎えたい。それには、床に穴を掘る害獣は邪魔者以外の何者でもありませんでした。

デスク等が運び出されていたのは、床の張替えの為であり、金属バットを振り回した際に事務所の備品等を損壊しないようにする為でした。

P「お待ちしておりました。じゃあ早速お願いします」

春香「これで気持ちよく新年を迎えられますね」

響「もっと早くこうすれば良かったな!」

伊織「もうアレの穴堀りにイライラさせられる事もないのね。せいせいするわ」

P「あずささんにこの事を報告するのは気が重いけどな…」

無意味に破壊行動を繰り返す害獣の駆除が終わり、皆晴れやかな表情です。Pはあずささんへの報告が残っている為、少し複雑な表情をしていましたが。ともあれ、駆除は終わったのです。


小鳥「換気扇の掃除終わりましたー」

真美「こっちもピカピカだYO!」

千早「綺麗に掃除すると気持ちが良いものね」

春香「お疲れ様ー。こっちも今終わったところだから、掃除手伝うよ」

実働部隊と仕事が入っているアイドル以外は、今日は皆で事務所の大掃除。今年の汚れは今年のうちに、ですね。

一日ががりで大掃除は無事終了。気持ちよく新年を迎えられそうです。

雪歩「結構ゴミがでちゃったね。収集日いつまでだっけ?えーと、燃えるゴミは…っと」

響「アレの死骸も燃えるゴミに出すぞ。あースッキリしたさー」

ゆきぽの死体は何の供養もされないまま、ゴミとして処分されるようです。
『シロアリよりもっと迷惑な生き物』には妥当な末路でしょう。

※ちなみに、和歌山県高野山奥の院へと続く参道に、しろあり供養塔があります。
しろあり供養塔は、人間生活と相容れないために駆除されたシロアリの供養を目的としています。


  • 最終更新:2014-12-31 15:39:42

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