小学校のゆきぽ・後編

小学校




ゆきぽ「ぽ…ぇ…zzzz」

昨日この小学校に連れて来られたゆきぽは段ボールの中で丸まっていた。時間帯は早朝。一日の大半を寝て過ごすゆきぽはまだ寝ている。
しかしその顔は平時の穏やかなものでは無い。
生徒達の元気いっぱいのストレス発散を受けて身体中に青痣ができ、目元は泣きはらして現在も微かに濡れている。
これは数時間前まで泣いていたものの名残だが、生徒達の暴力だけが理由で涙を流していたのではない。
季節は秋。落ち葉は枯れ始め、木枯らしが吹く。ゆきぽの尻尾も生えるくらいだ。冬程ではないがかなりの寒さである。ゆきぽはこの寒さの中、ずっと二階のテラスにいた。
暖かい教室に入れられるわけもなく、中に入りたいと泣くゆきぽに渡されたのは一枚の新聞紙。これを被って寝ろと言って先生は帰って行った。

ゆきぽ「zz…ぽぅ……ぽぇー……」ガタガタ

新聞紙を被り、段ボールに入って尻尾を抱えて眠ろうとしたゆきぽだが、寒さのせいでなかなか寝れない。
元々寒さにも暑さにも弱いゆきぽは明け方まで小さな身体を震わして泣いていたのだ。

ゆきぽ「…ぱぅー……」カタカタ

そしてせっかく眠れたというのに、寒さで再び目を覚ます。

ゆきぽ「ぽぇ…」ムクリ

ゆきぽ「…ぽー…」ハァー

起きてしまったゆきぽは身体を起こし、ポテッとした手に息を吹きかける。息は当然、白い。


ゆきぽ「…ぽ?」

その時ゆきぽはあるものを見る。教室とテラスを隔てるガラスだ。

ゆきぽ「ぽえぇぇ~;;」シクシク

ゆきぽはガラスに映る自分を見て情けなさで泣いた。
サラサラだった髪とふわふわだった尻尾はボサボサに。顔はあざだらけで血が着いているところもある。
そしてその痛々しい自分の姿を見ると、昨日殴り蹴られたことが、つねられ踏まれたことが思い出されて、怖くて悲しくて泣いた。


タッタッタ


ゆきぽ「ぽ、ぽえ!?」ビクッ

ゆきぽ「ぽぴぃーー!!」カタカタ

ガラガラ

ゆきぽ「ひぅぅ……」ウズクマリ

「ゆきぽ~」

ゆきぽ「ぷいぃ…?」チラ

少年N「おはよう、ゆきぽ」

ゆきぽ「!!ぽえ!ぱうう~!」オブオブ

教室の中から聞こえてきた足音に身体を震わせてうずくまるゆきぽ。

また痛いのかな

馬鹿なゆきぽにも何をされるのかは分かって来ていた。
そして扉が開き、入っていたのは少年N。
すると、どうだろう。怯えていたゆきぽは少年Nに向かって段ボールの中からオブオブとし始めた。

実はこの少年N、生徒達の中で唯一ゆきぽを虐めていなかったのだ。
休み時間はもちろん、放課後に男子達にされた『ゆきぽごっこ』にも加わらずにただ見ていた。

ただ一人虐めてこないNにゆきぽも気がつき、何度も助けを求めてオブオブ寄って行った。
しかしその度、他の男子に引きずり戻されて虐待を受けたのだった。

そのNが今は一人、自分に声をかけてきた。
顔は優しそうな微笑みをたたえている。

ゆきぽ「ぽぇ!ぽえぇー!」オブオブ

少年N「どうしたんだい?ゆきぽ」スッ

ゆきぽ「ぱう~!!;;」ダキッ

少年N「よしよし」ギュ

Nが屈んで両手を広げると、ゆきぽがすぐさま抱きついてきた。
Nも腕の中で震え泣く小さな生物を抱きしめる。
ゆきぽの身体は寒さにさらされたにもかかわらず暖かく、ほぼ全身が柔らかい感触だった。

少年N「ゆきぽ、昨日は痛かったかい?」

ゆきぽ「ぽえ;;」コクリ

少年N「そっか。怖かったかい?」

ゆきぽ「ぽえぇ~っ!!ぽうぅぅ……うぅぅ~!!;;ぽえぇぇぇぇぇぇん!!;;」ポロポロ

ゆきぽはNの胸に顔をうずめて泣き続けた。

ゆきぽ、痛かったよ。
ゆきぽ、怖かったよ。
ゆきぽ、寒かったよ。

ゆきぽはぽえぽえ泣きながらNに訴えかける。昨日から続いていた虐待がよほど苦痛だったのだろう。

ゆきぽ「ぷいぃぃ~;;…ヒック!…ぱうぅー…;;」

少年N「よしよし。泣かない泣かない」

ゆきぽ「ぅ…ヒック…グス………ぽえ」ニコリ

ゆきぽ「ヒック、ぷぃ~ぽぇぇ~///」スリスリ

優しく抱きしめられて安心したのだろうか。その苦痛の中で初めて笑ったゆきぽ。その顔は涙でグチャグチャだったが、目を閉じてNに甘えている。

少年N「フフッ。ねぇゆきぽ。お腹空いてるかい?」

ゆきぽ「ぽ?ぽぇ!ぽぇ!」コクコク

ゆきぽ「ぱぅ…ぅぅ……ぽえぇぇ~ん;;」ポロポロ

Nの問いにゆきぽがうん、うん、と頷く。昨日の辛さと悲しさを思い出したのかまた泣き出した。

事実、ゆきぽは昨日出された腐りかけのドックフードを殆ど食べていなかった。その不味さのせいもあるし、甘ったれたゆきぽにはまだ美味しい食べ物が貰えるはずだという希望が捨てきれずにいたのだ。
図々しくも。

少年N「そっか。お腹ペコペコなんだね」スッ

ゆきぽ「ぽぇー;;ぽぅう~!」コクコク

少年N「ちょっと待っててね」

ゆきぽ「ぷぃ?」グスグス

Nは泣くゆきぽをテラスに降ろすと、微笑んだまま自分のバックに向かった。
ゆきぽは泣き止みつつ何かな?という顔でNを見ている。
そしてNが取り出したのは…


少年N「じゃじゃーん。サンドイッチだよ」スッ

ゆきぽ「ぽっ、ぽえー!?」キラキラ

少年N「朝ごはん用に持ってきたんだ」ペリペリ

ゆきぽ「ぷぃ~!ぱうぅー///」ニコニコ

Nが取り出したサンドイッチを見て顔を輝かせるゆきぽ。
大好物の沢庵ではないが、野良生活ではありつけない食べ物であり、なにより腐りかけのドックフードに比べればとんでもないご馳走だった。

Nがサンドイッチの包装を破る様子をニコニコと待ちきれない様子で待っている。


少年N「よし。あーん」

ゆきぽ「ぽぇ?ぽぁーん」アーン

ゆきぽ「ぽぁーん」アーン

ゆきぽ「ぽぁーん」アーン


ゆきぽ「ぽぁー……ぽぇ?」チラ

サンドイッチを手に持ち、Nはお決まりの言葉を発して口を開ける。
食べさせてくれるの?とゆきぽも当然のように口を開けた。

だが、いくら待ってもサンドイッチが口に入ってくる気配はない。
目を閉じて口を開けていたゆきぽが不思議に思って目を開けると

N「どうしたのゆきぽ?」モグモグ

ゆきぽ「ぽっ、ぽえー!?」

サンドイッチはゆきぽの口ではなく、Nの口に入っていたのだ。

ゆきぽ「ぷぇー!?ぽえ!ぽえー!」ホシイヨー

少年N「あーん」

ゆきぽ「ぽ、ぽえ!ぽぁーん!」アーン


ゆきぽ「ぽぁぁーん」アーン



ゆきぽ「ぽぁーん……ぽぴぃぃー!!?」


少年N「さっきからどうしたのゆきぽ?馬鹿みたいに口開いて。あくび?」モグモグ

ゆきぽ「ぽえぇー!!ぱううぅぅーっ!!!」チョウダイ!

少年N「ああ、これ?さっきも言ったよね?朝ごはんだよ」

ゆきぽ「ぽえーっ!ぽえーっ!!」チョウダイ!チョウダイ!

少年N「僕のね」モグモグ

ゆきぽ「ぽっ、ぽえぇぇー!!??」ガーン

少年N「どうしたのそんなビックリして。もしかして欲しかったの?」モグモグ

ゆきぽ「ぷいぃ!」コクン

少年N「あはは、ダメだよ。ゆきぽにはあのドックフードがあるじゃないか」

ゆきぽ「ぽえ!?ぽやぁぁぁー!」ブンブン

少年N「何が嫌なの?あれはゆきぽのでこれは僕の。ゆきぽのじゃないよ」

ゆきぽ「ぽえ…!はうぅー!ぽうぅー!!;;」オブオブ

少年N「あげないって。なんで僕のサンドイッチをゆきぽにやらなくちゃいけないのさ」

ゆきぽ「ぽぅ~;;ぽええ~!!;;」オブオブ

そう、Nは最初からゆきぽなんぞにサンドイッチを食わせる気は無かったのだ。
ゆきぽはその後、手を差し出したり少年のズボンの裾を引っ張ったり、最後にはジャンプしてなんとかサンドイッチを食べ用としたが全く届かなかった。
そしてNがサンドイッチを無事食べ終わると

ゆきぽ「ぽ……ぇ…ぽぇぇ、ぽびゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!;;」ヤダヨー!!

テラスにへたり込み、手で顔を覆って泣き出してしまった。

ゆきぽ「ぷあぁぁぁぁ~ん!!;;ぽえぇぇぇ~ん!;;」ボロボロ!

少年N「ふぅ、ごちそうさま」

ゆきぽ「ぽやぁぁぁ!!;;はうぅぅぅぅ~!!;;」ビービー!

確実に食べれると思っていたためか、悲しみも相当大きかったようだ。大粒の涙を流しながら、ぴぃーぴぃー泣いている。
美味しいサンドイッチを優しく食べさせてもらい、お腹一杯になれるとでも思っていたのだろうか。
本当に浅ましい生物である。

少年N「ゆきぽー。そんなに落ち込まないで、元気出しなよ」スッ

ゆきぽ「ぽえぇーん!!;;うっ、ぅぅ~…ぷびぃぃぃ~!!;;」オナカガスイタヨー!

Nが頭に手を置いて慰めても一向に泣き止む気配は無い。

少年N「泣き止まないと良い物やらないよ?」

ゆきぽ「ぷぴぃぃぃ~……ッ、ヒック、ぅ~…ヒック」グスグス

少年N「お、泣き止んだ。じゃあちょっと待っててね」ゴソゴソ

しかしどうだろう。Nが良い物をやると言った瞬間に泣き止んだではないか。繰り返すが本当に浅ましい生物である。

Nはサンドイッチを入れていたバックを再びガサゴソやり始めた。
そして何かを取り出すとそれを背中に回し、ゆきぽに見えないようにしながら歩み寄る。
ゆきぽはへたり込んだまま黙ってNを見ていた。

ゆきぽ「…ヒック…ぽぇぇ…?」クビカシゲ

少年N「ねぇ、ゆきぽ。君は僕が怖いかい?」

ゆきぽ「ぽぇ…」フルフル

少年N「僕が君を虐めると思うかい?」

ゆきぽ「ぷぷぃ…」フルフル

少年N「じゃあ痛いのは嫌かい?」

ゆきぽ「ぽえぇ~…」コクリ

少年N「フフッ、そっか。じゃあゆきぽ、よく聞くんだ」ポン

ゆきぽ「……ぱぅ?」

ゆきぽはまだNのことを自分に優しくしてくれる人と思っているようだ。
ゆきぽが横に縦に首を振っていると、Nは嬉しそうに笑って、ゆきぽの頭に再び手を置いた。
そしてこう語りかけた。

少年N「君は僕が怖く無いみたいだし、酷いこともしないと思っているみたいだけど、これから君にものすごく痛いことをするよ」

ゆきぽ「……ぽ、ぽぇ???ぽえ??」ポカン

少年N「もちろんいっぱいいっぱい虐めるからね。分かったかい?」

ゆきぽ「……!!……ぽや…ぁ!……ぽやぁぁぁぁ…ぽぴぃぃぃぃぃぃぃ…!」ガタガタブルブル

少年N「じゃあ、いくよ」

ゆきぽ「ぽぇぇぇ~!ぽえ、ぽぇー!」ガシ ヤメテー

Nの静かな宣告にゆきぽは身体を震わせる。そして、そんなことしないで、とNに最初にやったように抱きついた。こうすればまた、優しく抱きしめてくれると思ったからか。

だが


ドカッ

ゆきぽ「ぽびゃっ!!」ベチャッ

少年N「そんなことしても止めないよ」スッ


バチィッ!

ゆきぽ「ぽぎいぃぃっ!!?」ビクッ

ゆきぽを突き飛ばしたNは背中に隠していた物をゆきぽに押し付ける。
途端に電流が走ったかのようにゆきぽが跳ねた。
いや、実際に流れたのだ。
Nが持っていたのはスタンガン、ではなくテニスラケットのような形をした虫取り機だ。
蚊や蝿などのような害虫を感電させて始末するのが本来の用途だが、最近ではゆきぽの虐待にも使われていた。
蚊や蝿と同じく、人間に害なす生物であるゆきぽ。使い道としてはそれ程おかしくはあるまい。


少年N「まだまだ」ニコリ

バチチ、バヂッ

ゆきぽ「ぴぎゃあぁ!!」ビクッ

少年N「顔はやめた方がいいかな。ほい」

ビリッ!バリィッ!

ゆきぽ「ぽぎゃあ!!!ぽぎぃ!!!」ビクッ

Nはゆきぽに電流を流し続ける。ゆきぽはその度に肌の焼ける痛みに飛び跳ねた。

ゆきぽ「はうぅぅー!!;;」ギュッ

少年N「おっと。そうきたか」

Nは意図的に顔を避け、短い手足にラケットを押し付けていた。既にそのコッペパンのような手足には火傷の後が多数できている。

ゆきぽも手足を狙われていることが分かったのだろう。小さな手足をこれまた小さな身体に抱えてうずくまった。これならば虐められないと思ったのだろうか。

少年N「じゃあこっちね」ニヤニヤ

バチバチッ、ジュジュウ…

ゆきぽ「ぷびゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」イタイヨー!

Nが笑いながら狙ったのは敏感な尻尾。手足に感じた以上の激痛にゆきぽは叫び声をあげた。毛が焦げた臭いが微かに漂っている。


そんなとき

ガラガラ

少年A「おっすN!やってるー?」

少年B「おはよ~Nー」

少年N「おはよう、A、B。今ちょうど尻尾にやったとこだよ」

少年A「廊下までゆきぽの悲鳴聞こえてたぜ。ゆきぽが大声で鳴くときっていっつも尻尾だよなー」

少年N「尻尾に神経が集中してるんだよ。そんなことより、二人ともやる?」

少年B「お、やるやるー!」

ゆきぽ「ぽひぃぃぃぃぃ!!ぷやぁぁぁぁ!!ぽえ、ぽえーーーっ!!!;;」ヤメテー!


他の生徒が登校してきたようだ。ゆきぽに電気ラケットを押し付けるNの姿に驚かない様子から、Nがいつもこうやってストレス解消していることが分かる。
昨日Nが他の男子達に混ざらなかったのは、Nがゆきぽを可哀想だと思ったからでも、Nが仲間外れにされたからでもない。

ゆきぽを一度安心させ、そこから再び地獄に突き落とすというNの嗜好を理解していたからだ。

ゆきぽ「ぽええええぇぇぇぇぇーーーーっ!!!!」イヤダヨー!


その後ゆきぽは次々と登校してくる生徒達に手足や尻尾、ついには柔らかな頬やお腹に電気ラケットの痕をつけられたのだった。


その後、ゆきぽは昨日と同じように虐められた。おまけに餌は昨日のが残っているということで変えられもしなかった。
ゆきぽは心も体も崩壊寸前だった。


放課後

少年A「ほらゆきぽ、校庭行くぞ」ムンズ

ゆきぽ「ぽひゃっ!!…ぽゃぁ~……;;」シクシク

学校の授業が終わってもゆきぽの苦しみは続く。
Aの手によってところどころ毛が無くなっている尻尾を掴まれる。火傷のためだ。

痛む尻尾を掴まれて一声叫ぶゆきぽだが、当初のように暴れたりせずに情けなく涙を流すだけ。弱っているということもあるだろうが、抵抗しても殴られるだけとわかっているのだろう。

少女K「んー、なんかむかつく」ガンッ

ゆきぽ「ぎゃっ!!…ぱうぅぅ……;;」シクシク

そんなゆきぽの様子が気に食わなかったのか、少女Kに蹴られてしまった。結局、抵抗してもしなくても痛い目を見ることになるのだ。

そして連れて来られたのは校庭。
今日は男子も女子も勢ぞろいのようだ。仲が良くて大変結構なことである。

ゆきぽ「ぷぃぃ~…」ガタガタ

もちろんその仲間にゆきぽは入っていない。昨日は穴を掘らせてくれるのかな?と甘い幻想を抱いたりもしたが、今となってはただただ怯えるだけだった。

少年A「じゃあゆきぽごっこやるか」

少年G「さんせーい」

ゆきぽ「 …はぅぅ!!」ガタガタ


生徒達は昨日と同じでゆきぽごっこ、つまり死なない程度の集団リンチをするようだ。
しかしその時


ゆきぽ「ぽええっーー!!!」バタバタ!


少年A「わっ」パッ

ゆきぽ「ぷぴっ!」ボタッ

ゆきぽ「ぽえっ!」クルッ

震えるだけだったゆきぽが突然暴れ出した。
咄嗟のことに手を離すA。

逃げる気だろうか?
生徒達もゆきぽが逃げ出すと考えたようで、すぐ追いかける態勢に入ったが、違うようだ。
落下するもすぐに立ち上がったゆきぽは生徒達に振り返ると…




ゆきぽ「ぽえぇぇっーー!!ぽえ、ぽええ!ぷぃぃーーー!?ぷぅうう
ーっ!!!」ブンブン

生徒「「「………え?」」」

ゆきぽは生徒達を見つめながら何事か叫び始めた。それは痛みによる悲鳴や泣き声ではない。手を振り、何かを必死に生徒達に訴えかけている。

ゆきぽは確かに図々しく餌やブラッシングなどをねだって来ることはある。だかそれも大抵は人間の手足や服の裾を軽くつかんだり、決して大きくはない鳴き声を発してのものなのだ。基本的には臆病で恥ずかしがり屋で大人しい生物。それがゆきぽなのだ。
そのため、ゆきぽがこのように何かを強く主張することはかなり稀だった。

ゆきぽは叫び続ける。

ゆきぽ「ぷいぃぃいー!!?ぱうーっ!ぱうぅーーっ!!ぽぉえぇぇぇ!!ぽゅぃえぇぇぇー!!ぽぇー!」ウルウル


どうしてこんなひどいことするの?
ゆきぽもみんなのお友達なんだよ。
ゆきぽ、とっても痛いんだよ。
ゆきぽ、とっても苦しいんだよ。
もう痛いのは嫌だよ。
もういじめないでよ。

ゆきぽ「ぽえぇぇー!ぷゅうぅぅ!うぅぅ…!ぽえ!ヒック!ぷぅあぁ~!!ぅぅ……ぽええぇぇぇ~ん!!;;ぱうぅぅぅぅ~!」ポロポロ

生徒「「「……………………」」」

ゆきぽ「ぱうぅぅぅ…;;ぷええぇぇぇぇ~;;」シクシク

顔には火傷の痕や痣があり、右目の上は腫れている。しかし大きな左目はまだクリクリとしていて、プニプニ柔らかいほっぺやポテポテした手足も健在だ。
多数の怪我を負ってなお、可愛らしい外見をしているその小さな生物は可愛い顔を悲しみに歪めて叫び続けた。
最後の方には泣き声が混じり、叫び終わると顔を覆って泣き始めてしまったが。


これだけ叫ぶ程、ゆきぽにとって小学校での生活は苦しかったのだろう。耐え難いものだったのだろう。
どんな幸せが待っているのかな、と考えていたのに蓋を開けてみればどこにも幸せなどなかったのだから当然のことかもしれない。


生徒「「「…………………」」」

ゆきぽ「はぅ~;;はぅ~;;」シクシク

生徒達はそんなゆきぽを黙って見つめていた。おそらく悲鳴と泣き声意外でゆきぽが叫び声をあげる姿を始めて見たものも多いだろう。
生徒達ゆきぽの嘆願をうけて何を思うのか…



生徒「「「………………ぷっ」」」

ゆきぽ「…ぽえ?」

生徒「「「あはははははははははははっ!!」」」オナカカカエ

ゆきぽ「ぽ、ぽえー?ぽー?」パチクリ

少年A「ゲホゲホッ!ひーひー」

少女C「あははっ!あはははは!」

少年N「ふふふっ」

ゆきぽ「ぽえ…。ぽえー///」ホッ

生徒達は全員、腹を抱えて笑い始めた。その姿に戸惑っていたゆきぽだったが、笑っているということは自分の願いが聞き入れられたのではないか、もういじめられないのではないか、そう考えて安堵の表情を浮かべた。

少年A「あはは…!おい、ゆきぽー」

ゆきぽ「ぽゅい~///」トテトテ



バキッ

ゆきぽ「ぽぶぷっ!!?」

ゆきぽ「ぷぴぃぃー!ぽえぇぇー!?」ドウシテ?

もう大丈夫だ。そう考えたゆきぽはAに呼ばれると嬉しそうに笑いながら駆け寄る。そしてあたりまえのように蹴られた。
転がったゆきぽは涙目になりながらもAに問いかける。

少年A「あのさ、まずな。おまえ話すぽえぽえ馬鹿みてーな言葉は俺達に通じないんだよ」

ゆきぽ「ぽっ、ぽえぇー!?」ガーン

少年A「でも言いたい言葉はわかるよ。もう虐めないで、やめてって言ってたんだろ?」

ゆきぽ「ぽぅー!ぷぃー!」コクコク

少女E「やっぱなんもわかってないんだねー、あはは」

ゆきぽ「ぷぃぃ?ぽえ?」

少年N「ねえ、ゆきぽ。君はこの学校になんで連れて来られたかわかる?」

ゆきぽ「ぽぇ?」キョトン

少年N「もしかして可愛がられて飼ってもらえると思って来た?綺麗に髪や尻尾をブラッシングしてもらって、美味しい沢庵やお茶をたくさん食べさせてもらえると思って来た?」

ゆきぽ「ぱ、ぱぅー」コクリ

少年G「ははっ、んなわけねーだろ馬鹿が」

ゆきぽ「ぽ???ぽえ???」チガウノ?

少年N「よく聞くんだゆきぽ。君はがこの学校に連れて来られた理由は大切に飼われるためじゃない。みんなに虐められるために来たんだよ」


ゆきぽ「…………ぽ…え?」

ゆきぽ「ぽえ……ぽえ…」フルフル

ゆきぽ「………ぽえ、ぽえ~………ぽえーーっ!!ぽえぇぇぇぇぇーーっ!!!」ブンブン!

ゆきぽは何を言っているのか理解できないとでもいうように首を振り始めた。

ちがうよ。
そんなはずないよ。

この小学校で散々酷い扱いをされてきたゆきぽ。確かに虐められるということは理解していた。
ただそれは一時的なものであってそれが目的で連れて来られたなんて思いもしなかったのだ。
いつかはみんな優しくしてくれる。そしたらご飯もいっぱい食べれるし、たくさんなでなでしてもらえる。そういった希望がまだあった。


だがこの世界におけるゆきぽの希望や喜び、そして命とは無残に打ち砕かれるものである。
再び叫びながら首を振るも、先程の叫びとは全く違う声色だった。


少年N「どうしたの首振って。わからないのかい?きみは毎日虐められて、死ぬまでそれは変わらない。君はあと少ししたら僕たちに虐め殺されるんだ。わかるかい?」

ゆきぽ「…ぽっ…ぽぴゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!ぷひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」トテトテ!

少女H「あ、逃げた」

少年B「ホントだ。でも遅いね」ガッ

ゆきぽ「ぽあっ!?」ドサッ

少年A「よっと」ギュム

ゆきぽ「ぽきゃぁー!ぷゃあぁーー!!」バタバタ

少年A「おー暴れる暴れる」

そして出された死刑宣告。
もちろん自分が殺されるなんて思っていなかったゆきぽは、悲鳴をあげながら短い足で逃げようとする。
しかしすぐに足をかけられて転んでしまった。

もともと足があまり速くないことに加えて、今は身体中傷だらけで体力も低下している。
逃げられるはずがなかった。

少女K「てかさっきのなんかムカつかない?」

少年F「たしかにー。なんかお仕置きしね?」

少女C「あっ!じゃあさ、尻尾切らない?前のはやる前に死んじゃったしさ」

少年A「お、いいなそれ。じゃあゆきぽの大事な大事な尻尾を取っちゃいますかー」ニヤリ

ゆきぽ「ぽえっ!!!??ぽ、ぽやぁぁぁぁっ!!!ぽやあああああーっ!!!!」バタバタ!バタバタ!

大切な尻尾を切られる。

スコップを奪われることと並び、ゆきぽにとって最も嫌なことである。
生徒達の話を聞いて、ゆきぽはより一層激しく身をよじらせる。

少年A「じゃあ俺尻尾引っ張るからB頭持っててくんない?」

少年B「オッケー」ガシ

ゆきぽ「ぽえひぃぃーーっ!!ぱうぅぅぅ!!ぱうぅぅぅぅっ!!」グネグネ

少年A「じゃあいっせーのーで……ほいっ!!」グイッ!

ゆきぽ「ぽぎいぃぃぃぃぃぃ!!!ぷいいいいいいいいいいいっ!!!」

少年A「ぬ~!」グイグイ…!

ゆきぽ「ぷやぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

少年A「ぐぐぐ…!駄目だ切れねー…!」

ゆきぽ「ぽえぇぇぇぇぇーん!!!;;ぷええぇぇぇぇーーん!!;;」ボロボロ

尻尾を引っ張り始めたAだがなかなか切れない。ゆきぽは身体だけは頑丈にできているため、大人ならまだしも子供の腕力で引きちぎるのは難しいだろう。

少女E「尻尾の付け根に切れ込み入れたらいいんじゃない?」

少年A「あ~なるほど~。誰かカッターかなんか持ってる?」

少年G「僕持ってるよ。はい」

少年A「サンキュー!じゃ切れ込みを…」ザシュザシュ

ゆきぽ「ぽえぇぇぇ~ん;;………ぷぎっ!?ぽぅぎぃっ!!ぽがぁっ!!」


少年A「よし!じゃあもう一回!」グイッ!!

ゆきぽ「ぽ、ぽぽ、ぽんぎいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」ミチミチッ

少年A「もうちょっと!」グイグイッ!!

ゆきぽ「ぽやあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!ぷやぁっ!!ぱうううううううううっ!!」ミチミチミチミチッ…



ブチィッ!!!

ゆきぽ「ぽぎゃああああああああああああああああああああっ!!!!!」

カッターで切れ込みを入れられたゆきぽの尻尾がついに切れた。
激しい痛みに絶叫するゆきぽ。

ゆきぽ「ぽぎゃっ!ぎゃっ!ぱうっ!ぱうっっ!!ぽえっ!!」ビクッビクッ!

少年B「はは、痙攣してら」

少年N「尻尾は神経が集まってるからね。痛みもすごいと思うよ。そして……」

ゆきぽ「ぽぇぇ…;;ぽぅぅ…;;」ガクガク

少年N「尻尾を切られるとゆきぽはショックと痛みで動けなくなる」

ゆきぽの特徴といえば何か?と問われると大半の人が尻尾かスコップと答える。まぁ、中には殺したくなる顔とか、甘ったれた性格を特徴と答える人もいるが。

冬場に生えるこの尻尾はゆきぽにとってとても大切な部分で、見ず知らずの人間にブラッシングをねだったり、尻尾を振って可愛さをアピールしたりする。

そしてその尻尾が強引に切られた場合、多くのゆきぽはショックで動けなくなるのだ。大切な部分を奪われた悲しみや圧倒的な暴力にさらされた恐怖がその原因だ。
小さな子ゆきぽやベビゆきぽは死ぬこともある。

ゆきぽ「ぱぅ~…ヒック…ぅ…ぅ…ぱぅ~…;;」ポロポロ

少年A「よーし切断完了!だれか尻尾欲しい?」

生徒「「「いらなーい」」」

少年A「だよな(笑)じゃあ次なにやる?ゆきぽごっこ?」

少女I「うーん…この状態で殴ってもなー」ウーン

少年B「確かに…」ウーン

少年D「じゃあさ、サッカーやらね?」

少年A「サッカー?」

少年D「そう、サッカー!もちろんボールはゆきぽ。これならみんなでやれるし、こいつも尻尾無くなったから転がりやすいんじゃね?」

少年A「おー、いいなそれ!みんなはどう思う?」

生徒「「「さんせーい!」」」

ゆきぽ「ぽえぇ~…ぷいぃ~…」カタカタ



こうしてゆきぽをボールとしてサッカーをすることになった。
当のボールは生徒達が何をしようとしているのかなど分からずに、うずくまって震えている。

手で頭を押さえ、短い足をおり曲げたその姿は確かに転がりやすそうである。


少年A「よーし。じゃあキックオフ!」

ゆきぽ「ぽええ~ん;;ぷえぇ~やん;;」シクシク

サッカーが始まった。
ボールは切られて地面に捨てられた尻尾を悲しそうに抱き抱えている。この姿も転がりやすそうだ。

少年A「J!パスっ!」ガンッ

ゆきぽ「ぽぎゃっ!!」

少年J「ナイスパス!」ダダッ

ゆきぽ「ぽびぃ!ぽ!ぷびぃ!!」ゴロゴロ

少年J「ドリブルしにくいな…。C!」ドスッ

ゆきぽ「ぽぶふっ!!」

少女C「オッケー!」パシッ

少女C「Mー!」メコッ

ゆきぽ「ぷげぇっ!!」

少女M「よしきた!」

少年D「カァーット!」グシャッ

ゆきぽ「ぽぎゅうぁぁ!!」ゲボッ

少女M「あー!」

少年D「B!いくぞー!」ドゴンッ!

ゆきぽ「ぽえぎゃあっ!!」

少年B「よし!じゃあここから…!」ググッ

ゆきぽ「ぽ…ぇ…ぽぇ~…;;」

少年B「シュートォー!!」ゴガンっ!!

ゆきぽ「ぷぎゃああぁぁぁっ!!」

少年L「させるか!」ガシッ

ゆきぽ「ぅぅ…ぱぅー…ぱぅぅー…;;」ジッ

少年L「なんだよ。俺がお前をキャッチしたのは助けるためじゃなくてキーパーだからだっつーの」

ゆきぽ「ぽゃぁ~……ぽぇ~…;;」タスケテー

少年L「よしゴールキック行くぞ~!そりゃ!」ボガンッ!!!

ゆきぽ「ぽええぇぇぇぇぇぇっ!!!」イタイヨー!




パスで飛び、ドリブルで転がり、カットで潰され、シュートで吹き飛ぶ。
こうしてゆきぽは生徒達に何度も何度も蹴られまくった。

身体中の骨が折れ、口からは血が溢れる。しかし生徒達はやめないし、点も入らない。テレビでワールド○ップのせいか気合が入っているようだ。

そして試合が20分程たったとき…

少女K「N君!お願い!」ボガッ

ゆきぽ「ぽぎぃっ……」

少年N「了解!」パシッ

ゆきぽ「…………ぽ…え」

少年N「……ゆきぽ………」


ゴール前にいたNにゆきぽが蹴り飛ばされた。
もう叫ぶ力もほとんど残っていない。目の光も明滅して身体は血だらけだ。

シュートを打つ直前、ゆきぽはNの顔をじっと見た。

今日の朝、自分に餌をくれるふりをした人。
手足や尻尾を痛くした人。

あのとき抱きしめてくれたのに。
慰めて優しい言葉をかけてくれたのに。
どうして。

ゆきぽ「…ぽ…ぇ~;;…ぽぇ~;;」ズリズリ

シュートを蹴るために足の前に転がされたゆきぽは、這ってNの足をつかもうとする。

そしてそのとき、Nもゆきぽを見た。その顔にあるのは、まるで気持ち悪くて邪魔なゴミを処分できたときのようなスッキリとした表情だ。

少年N「…………」ザッ

ゆきぽ「…ぱぅぅ…」スカッ

ゆきぽが足を掴もうとした瞬間、Nは足を振りあげた。
何もない場所をゆきぽの小さな手が掴んだとき、Nは言った。



少年N「死ね害獣」


ドガンッッ!!!!


ゆきぽ「ぽぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」


ゆきぽが断末魔をあげてゴールネットを揺らした。


ゆきぽ「」ズル…ボタリ


ゴールに落ちたゆきぽはもう動かない。何も反応しない。泣き声もあげない。


ゆきぽは死んだ。これでこの生物の役割は終わったのだ。

ゴールを入れたNはもちろん、入れられたキーパー、その他の生徒もスッキリとした顔をしていた。
ゆきぽを小学校に来てたった二日で殺してしまったため、先生から叱られるかもしれないが、みんなは満足のようだ。



このようにゆきぽは無残に殺される。なにもこの小学校に来たゆきぽはが特別なわけではないのだ。

餌をねだろうと人間に近づいて行くゆきぽも。
店で買われ、どんな幸せが待っているのかな、とニコニコ笑って考えているゆきぽも。
虐めるために、段ボールに入れられた人間の手に嬉しそうに抱きつくゆきぽも。

場所や時間は違えども、どのゆきぽも最後は苦痛に満ちた顔で絶命するのだ。

それがこの世界でのゆきぽの運命なのである。



終わり


  • 最終更新:2014-06-20 06:46:43

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