小銭大好きやよ

「うっうー」

皆さんこんにちは。
私は765プロダクションでプロデューサーとして働いているPと申します。
今、私の目の前で部屋の中を元気良く走り回っているのは『やよ』と言う名前の生き物です。
量の多いフワフワの髪と、地面に落ちた小銭に飛び付くのが特徴ですね。

チャリーン

「!! うっうー!」バッ

御覧の通り、やよは小銭に飛び付いて舌でベロベロと舐めています。
やよは本当に小銭が大好きなんです。
それを証明するちょっとした実験をしましょう。
やよが、家具も置かれていない真っさらな小さな部屋の中で小銭に夢中になっている隙に、『ある物』を部屋の床に設置します。
設置し終えると、直ぐさま部屋の外へ出てドアを閉めます。

「うぅぅウゥ!!」

数分も経たないうちに、ドアの向こうからやよの悲鳴が聞こえて来ました。
私が設置した『ある物』。それは、『バルサン』です。
ゴキブリ等を駆除するのに使われる、殺虫成分が含まれた白い煙を噴出するアレですね。
駆除の対象、使用する部屋の規模等でバルサンの種類も違って来るのですが、今回私が使用するのは、ホームセンターなんかで売ってる一般的なタイプです。
一時間程した後、マスクを着用してやよのいる部屋へ入ります。

「……うぅ」

部屋の隅で身体を横たえたやよが、弱々しい声を漏らしていました。
両目、鼻、口から体液が流れています。
密閉された部屋に充満したバルサンの煙にやられたのでしょう。

さて、ここからやよが如何に小銭が大好きなのかを証明して見せましょう。

「……う~…うぅぅ」

身体を痙攣させながら呻き声を上げるやよの直ぐ近くに、予め用意していた小銭を落とします。

チャリーン

小銭が床に跳ねる音が響きます。
すると、

「うっうー!!」

さっきまで、あれ程苦しんでいたのが嘘であるかの様にやよが小銭に飛び付きました。

「うっうー♪」ベロベロ

これでお分かり戴けましたか?
やよがどれくらい小銭が好きなのかが。
バルサンの煙責めを受けても、小銭の音を耳に捕らえれば直ぐに元気を取り戻し、音のした方へ向かって走り出すのです。

「うっう~♪」チャリン

やよが小銭をべろちょろに納めました。
そんな微笑ましい光景を見つつ、二個目のバルサンを設置して部屋の外へと出ます。

「!?」

それに気付いたやよが、脱出し様とドアへ駆け出します。
勿論、私はやよを部屋から出すつもりはありません。

「うー!うー!」ドンドン

やよがドアを叩いて「ここから出してー」と訴えますが、無視します。
数秒後、

「うぅぅぅあぁぁ!!」

バルサンから煙が噴出したのでしょう。やよが悲鳴を上げます。
一時間後。
再び部屋に入ると、両目から涙を、鼻からは鼻水を、口からは涎を垂らして、痙攣して倒れているやよがいました。
とても苦しそうですね。
でも、小銭を床に落とせば……

「うっうー!!」ガバッ

やよは直ぐに元気を取り戻すのです。
しかし、良く観察して見ると、小銭を嬉しそうに舐めるやよの身体の所々が震えているのが分かります。
バルサンは着実にやよの体力を奪っているのでしょう。
三個目のバルサンを設置して、外へと出ます。

「うぅぅうぅ!!」

バルサンの煙に苦しむやよの悲鳴がドアの向こう側から聞こえて来ました。

「うっ…うっ…」ビクッビクッ

部屋に入ると、やよが痙攣しながら倒れているのが見えます。

チャリーン

小銭を落とします。

「うっ…う」

音に反応するも、重たそうに起き上がり小銭に向かって歩き出しすその姿には、いつもの元気さはありませんでした。

「さすがに限界か…」

思わず、そう言葉を漏らしてしまう程、目の前にいるやよは疲弊し切っていました。
四個目のバルサンを設置します。

「……うぅ」

部屋から出て行く時にチラッとやよに目線を向けますと、小銭を抱えながら身体を丸めて震えている姿が確認出来ました。

「うぅあぁぁ……」

ドアの向こうから、か細いやよの悲鳴が聞こえて来ました。

一時間程経った後、改めてマスクをし直して部屋に入ると、

「……ぅ」

仰向けに倒れているやよの姿がありました。

チャリーン

「……ぅぅ」

音に反応して小さな声を出すも、身体はピクリとも動きませんでした。

「良く頑張ったな、やよ」ナデナデ

私は、やよを優しく抱き寄せて柔らかいフワフワの頭を撫でてあげました。

「うっう…」

私の腕の中で安心しきったやよは、小さな両腕を伸ばして甘えて来ます。
バルサンの煙の成分にやられてか、小さな両腕は震えていました。

「やよ、ここにお眠り」

事前に用意しておいたダンボールの底にタオルケットを敷いた、ぷちどる専用のベッドにやよを寝かしつけます。

「……ぅぅ」

「お休み、やよ」

「ぅ……zz…zz…」スヤスヤ

ダンボールに納まったやよは、気持ち良さそうに眠りにつきます。
とても可愛らしい寝顔でした。
そして、やよが寝静まったダンボールの横に、私は五個目のバルサンを設置しました。
部屋から出て行く際に、やよに向かって、もう一度「お休み」と、言葉を掛けました。

バタン

部屋を出て、ドアを閉めます。
ドアの向こう側から、やよの悲鳴が聞こえ来る事はありませんでした。


『小銭大好きやよ』おわり

  • 最終更新:2014-02-20 22:07:39

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード