幸せなちひゃー
P「ちひゃーを引き取って欲しいだと!?」
千早「…はい」
千早が信じられないことを言い出した。まさか今まであんなに仲良くしていたちひゃーを手放したいとは…
千早「無責任なことを言っているのは分かっています。でも最近は以前よりも仕事が増えて…正直あの子に構ってあげる暇がないんです。」
P「だからって…」
千早「すいません…。実は理由はそれだけじゃなくて、私にちひゃーをしつける自信が無いこともあるんです。あの子プライドが高くて礼儀も知らないから…。」
言葉を濁しているが、はっきり言って千早はちひゃーが嫌いになってしまったのだろう。それで俺に厄介者を押し付けようとしている。
しかし千早を責めることもできない。何せ今までそれほどのストレッサーを抱えながら厳しいアイドル活動をしてきたのだから…
P「分かった。今日からちひゃーは俺が連れて帰るよ。」
千早「本当ですか!?」パァァ
他のアイドルに任せるわけにもいかないので、仕方なく了承した。
千早が驚くほどの笑顔をした気がしたが、見なかったことにしよう。
ー夕方ー
千早「それではよろしくお願いします。」
P「ああ、気を付けて帰れよ。」
ちひゃー「くっ」バイバイ
ちひゃーには千早が帰る前に、今日から俺が飼い主になる旨を伝えられた。
事務所での世話は俺がよくしているせいか、ちひゃーは嫌がることなく了承した。こいつには愛想を尽かされた自覚がないのか?
・・・
P「…帰るか。」
夜になり、事務所にはもう俺とちひゃーだけ。やっと事務仕事が終わり帰る支度をした。
P「行くぞ、ちひゃー。」
ちひゃー「くっくー!」ピヨーイ
頭に飛び乗ってきた。
はぁ、こんなものを頭に乗っけながら帰るのか。
…
ちひゃー「くっくっ!」ペシペシ
俺が車を運転している間、こいつはずっと俺の頭を叩いていた。
ーP宅ー
P「降りろちひゃー、ここが俺の家だ。」
ちひゃー「くっ!」
やっと降りたか。長時間頭の上に乗せていたので、すっかり肩が凝ってしまった。
P「さっさと食べて寝るぞ。俺は疲れてるんだ。」
そう言って、帰る途中に買ってきた牛乳とパンを与えた。
ちひゃー「くー♪」ガツガツゴキュゴキュ
ちひゃーはいただきますもせずにがっついている。
もう遅いので、俺たちは食事、風呂を済ませた後すぐに眠りについた。
疲れたが、明日は土曜日だ。アイドルが売れてきたとはいえ土日に仕事が入ることはまだほとんどないので、今夜はゆっくり休めるはず…だったのだが…
ー深夜ー
ん?目の前が真っ暗だ。
………苦しい!!!!
P「ぶはっ!!」
顔に引っ付いていたものを剥がすと、それはちひゃーだった。千早が毎日こいつに殺されかけてるってのは本当だったのか。
最近冬毛になったばかりで、顔にまとわりついた髪が気持ち悪い。
仕方なく身を起こして段ボールの中にタオルを敷き、寝ているちひゃーを入れてやった。
P「はじめからこうしておけば良かったな。」
そう、もともとちひゃーは段ボールで寝かせる予定だったのだが、こいつは寝る前に俺の布団で寝たいと駄々をこねたのだ。
明日からはちゃんとこっちで寝かせよう。
P「頼むからゆっくり休ませてくれ…。」
しかしそんなささやかな願いも叶わなかった。
ー翌朝ー
ちひゃー「くーーー!!!くっくーーーーーっっ!!!!!」
P「うるせぇーーー!!!」ドゴッ
ちひゃー「ぐぎゃはっ」
やべっ、殴っちまった。
時計を見るとまだ5時だ。何でこいつはいつも好き勝手に生きてるくせに無駄に早起きなんだ?
ちひゃー「しゃーーー!!」ガブリ
P「いってーな。分かったよ、腹減ったんだろ?」
ちひゃー「くっ!」フンス
俺が起きるとちひゃーは偉そうにテーブルへ行き、席についた。
手伝う気もなしか。誰の金で食っていけてると思ってんだか。
ちひゃー「くくぅ♪」モムモム
食べ物を与えると昨日と同じく、もらえるのが当然とばかりに食べ始めた。
全くこいつの身勝手はとどまることを知らない。半日も経たないうちに千早の苦労を理解した気がした。
・・・
朝飯を食べた後俺はソファーでウトウトしていたが、しばらくするとトテトテとちひゃーが走り寄ってきた。
ちひゃー「くっ!くっくっ!」ブラシサシダシ
P「はぁ、ブラッシングか…」
ちひゃー「くー♪」ピヨーイ
俺の返答を待つことなく膝の上に乗ってきた。本当に何様なんだこいつは。
P「そうだちひゃー、今日はブラシじゃなくてヘアアイロンを使ってみるか。」
ちひゃー「くっ?」
P「ブラシよりも髪の毛が綺麗になるぞ。今取ってくるから待ってろよ。」
ちひゃー「く?くっくー♪」
拒否しても噛みつかれるだけなので、いつもとは違う提案をしてみた。
ちひゃーのブラッシングに時間がかかる原因は、主にそのボサボサの癖っ毛のせいなので、それ自体を伸ばしてしまおうという魂胆だ。
アイロンはスタイリストが不在のときにアイドルにかけてやることがあるので、常に持っているし使い慣れている。
P「ほら、じっとしてろ。」
ちひゃー「くにゃぁ~♪」
ブラシで整えながら丁寧にアイロンをかけてやる。ちひゃーは気持ち良さそうだ。
ー30分後ー
さすがに何度もブラシを通す必要がないので、ブラシだけのときと比べるとかなり早く終わった。
P「できたぞ。鏡見てみろ。」
ちひゃー「くっ?くぅぅーー!!くっくーーーーー!!!」ピョイピョイ
ちひゃーはサラサラになった自分の髪に感激しているようだ。ピンと伸びた猫耳がピョコピョコと動く。
P「疲れた…満足したか、ちひゃー?」
しかし、アイロンを置き、力を抜いたそのときだった…
ちひゃー「くっ!」スチャッ
P「なっ!?やめろっ!!!」バシッ
ご機嫌になったちひゃーがマイクを取り出して歌おうとしたのだ。
俺は焦ってマイクを奪い取った。
ちひゃー「くぅ!!しゃーー!しゃーーー!!」
これからというところで宝物を奪われ、アイロンをしてもらった恩も忘れて怒るちひゃー。しかしここであんな歌を披露させるわけにはいかない。
P「いいか、ちひゃー?俺の家で歌うのは禁止だ!近所迷惑で文句言われるのは俺なんだぞ!!」
ちひゃー「しゃー!!しゃぁぁーーーー!!!」ガブッ
しかし我を通さないと気が済まないちひゃーは、ふざけるな!とばかりに俺の腕に噛み付いた。
P「チッ、じゃあ家で歌わない代わりに俺が休みの日にはカラオケに連れて行ってやる。これでどうだ?」
ちひゃー「くっ?くくくぅ~…」クビカシゲ
ちひゃーはカラオケという言葉に反応して噛みつくのを止めた。
カラオケは何回か千早さんに連れて行ってもらったことがあるだけだけど、自分の実力が惜しみなく発揮できる大好きな場所。
そこで一週間に何度か歌うのがいいか、家で毎日歌うのがいいのかをちひゃーは足りない頭で必死に考え始めた。
イヤ、家で歌う選択肢などないのだが…
ちひゃー「くぅ~…。くっくっー♪」
しばらくしてやっと答えを出した。どうやらカラオケの方を選んだようだ。
P「そうか、それなら絶対家で歌うなよ。もし近所から苦情が来たら山に捨てるからな!」
ちひゃー「くっ。」マカセトケ
その後、ちひゃーはリビングで音楽を聴き始めたので、俺は今のうちに寝ておこうと思い寝床に就いた。
ー2時間後ー
ちひゃー「くっくっ!」ユサユサ
P「ん、なんだちひゃー?」
時刻は8時半。ちひゃーに体を揺さぶられて目が覚めた。
ちひゃー「くー!くー!」
どうやらカラオケに行きたいらしい。ずっと大人しく音楽を聴いていたのはイメトレだったようだ。
P「まあ約束だからな、ちょっと早いけど連れて行ってやるか。」
ちひゃー「くっくっくー♪」
とても嬉しそうだ。こうしてる分には可愛いんだけどな。
そんなちひゃーを見ていて、ふとあることを思いついた。
P「なあちひゃー、コレ飲んでみないか?」
ちひゃー「くぅ?」
俺はちひゃーに、ミスティックエナジー(歌う時に声が出やすくなる薬)を取って来て見せてやった。
これは以前アイドルに使わせてみたのだが、彼女達の体には合わなかったらしくあまり効果が見受けられなかったので、物置の肥やしになっていたのだ。
P「歌が上手くなる薬だよ。家で歌わない分思いっきり歌っておくといい。まあ効果が出るかどうかは分からんけどな。」
ちひゃー「くぅー♪」
歌が上手くなると聞いて興味津々のちひゃー。
俺は苦いものが嫌いなちひゃーのために、砕いた薬を薬用カプセルに詰めかえたものを一粒作って水で飲ませてやった。
ちひゃー「んくっ」ゴクン
P「効果はすぐには出ないからな。今からカラオケに歩いて行けば丁度いいくらいだろう。」
そうして俺たちは家を出て、カラオケへ向かった。
・・・
ーカラオケ店ー
受付を済ますとちひゃーは走って部屋に入り、早速曲の選択を始めた。一応操作はできるらしい。
P「ちひゃー、急がなくても時間はたっぷりあるぞ。」
ちひゃー「くっくっ」ピコピコ
聞く気なしか…
ーーーほどなくして曲が流れ、
ちひゃー「くっ!」スチャッ
ちひゃーは歌い始めた
ちひゃー「くくくくぅぅ~♪くくくくぅぅぅ~~♪く~く、く、くぅぅぅぅ~~~んにゃ♪」
こいつの歌は正直聴くにたえないが、家で歌われるよりは被害者が俺だけな分マシだろう。
ちひゃーは1曲歌い終わると、
ちひゃー「くっ」ピヨーイ
ちひゃー「くくくくくくくく♪」ペペペペペペペペペペ
目を輝かせて俺の頭を叩き始めた。ミスティックは前述の通り効果の有無の個人差が大きい薬品だが、ちひゃーは気に入ったらしい。普段と大した違いはなかったと思うが…
P「どうだ、歌いやすくなったか?」
ちひゃー「くっくー♪」ペペペペペペ
こいつは感謝してるつもりなのか?それともよくやったとでも思ってるのだろうか。
まあいずれにしても頭を叩かれるというのは不快極まりない。
ちひゃー「くっ!」ピョイ
ちひゃー「くくくくうぅぅ~♪」
ひとしきり叩くと、ちひゃーはまた歌い始めた…
・・・
それからというもの、平日には俺と一緒に事務所へ行って他のぷちたちと遊び、休日はオシャレをしてミスティックを飲んでカラオケに行くことがちひゃーの習慣となり、そんな生活が数ヶ月続いた。
ちひゃーにとっては今までで一番充実した日々だっただろう。
また、俺も度々イライラさせられながらも、なんとか世話を続けて来た。
しかし…
ー事務所ー
小鳥「プロデューサーさん、大丈夫ですか?顔色悪いですよ?」
P「ええ、大丈夫です。」
全然大丈夫ではない。
最近ちひゃーは平日にもアイロンとミスティックをせがむようになったのだ。どうやらもう常に自分が美しい姿、美しい声でないと気が済まなくなったらしい。
家にあった分のミスティックはとっくに底を突き、何度も買う羽目になっている。
ちひゃー「くくくくぅぅぅ~んにゃ♪」ハリノアルウタゴエ
ゆきぽ「ぽぇ~」パチパチ
未だに人を5時に起こす癖は直らない上毎日アイロンをさせ、決して安くない薬を一日に数回服用する。
しかも忙しい平日の帰りにもカラオケに行きたがり、断ると噛みついて離れなくなる日も多くなった。
俺はこれほど傲慢になったちひゃーの世話をすることにすっかり疲弊してしまったのだ。
P「そろそろ潮時かな…」
しつけをしようと思ってもあいつは耳を貸さず、可愛がったところで傲慢さが増すばかり。
ちひゃー「くくうぅ~」サラサラヘア~
ゆきぽ「ぽっぽ~」パチパチ
あふぅ「…ハッ」ボソッ
俺や千早が甘かったせいもあるが、ここまで欲に溺れ、迷惑ばかりをかける生物の面倒を見れる人間がいるだろうか?
・・・
それから何日か経った後、俺はちひゃーを処分することを決心した。
平日もアイロンとミスティックを使い、今まで以上に調子に乗ったちひゃーはゆきぽを除く事務所の者全員に嫌われている。
いなくなったところで問題はないだろう。
だが処分するとはいっても、長い時間付き合ってきた生き物に直接手を下すようなことはしたくなかった。
しかし、そんな思いと共に負の感情も沸き起こってくる。
こいつは散々人様に迷惑をかけ、自らの欲を満たして生きてきたんだ。安楽死などあまっちょろいもので死ぬべきじゃない。
さまざまな考えが頭の中を交錯する中で、俺は一つの答えを見出した。
P「そうだ、そうしよう。これでもダメだったらもう覚悟を決めるしかない…。」
・・・
ー土曜日ー
仕込みは昨日ちひゃーが寝た後にしておいた。あとはこいつを家に一人にすればいいだけだ。
P「ちひゃー、今日は急遽外回りの仕事が入ったんだ。事務所には寄らないからお前は留守番していてくれ。」
ちひゃー「くっ?くっくっ?」アイロンハ?
P「悪いが今日は勘弁してくれ。急いでるんだよ。」
玄関で靴を履きながら説明をしてやったが、ちひゃーはやはり自分のことしか考えていない。
ちひゃー「くー!しゃーーーっ!!」ピョーイ
P「いい加減にしろ!」バシッ
ちひゃー「くぎゃっ!」
我が儘が拒否され噛みつこうとしたちひゃーを平手で打ち返し、俺は外に出た。
最後に反抗されたことは腹が立ったが、同時にわずかに残った罪悪感を吹き飛ばしてくれた。
…
P視点のお話はここまでです。ここからは天の声がお伝えします
…
ちひゃー「くうぅ…」
さて、Pが出て行きP宅にはちひゃーだけとなりました。ちひゃーは殴られたほっぺをおさえて、しょげているようです。
しばらくそうして寝転がっていましたが…
ちひゃー「くっ、くっくっ!」プンスカ
ようやく立ち上がりました。今度は殴られたことに対して腹を立てているようで、短い足で地団駄を踏んでいます。
ーーーその時、ふとちひゃーの目に鏡が映りました。昨日までこんな低い所に鏡なんかなかったはず。
ちひゃーは怒りを忘れて鏡に近づき、自分の姿を確認します。
しかし…
ちひゃー「くぅ?くくぅーー!?」
ちひゃーの髪は、Pの忠告も聞かず毎日高温のアイロンを当てていたせいでチリチリに傷み、以前よりもずっとボサボサになっていたのです。
いつもはPにアイロンをかけてもらい、傷みが目立たなくなった後に鏡を見ていたので気付きませんでした。
ちひゃー「くー!くーーっ!」トテトテ
プライドの高いちひゃーは自分のそんな姿を許すことができません。
これは一大事と、自分でアイロンをかけようと思い立ち駆け出しました。
ちひゃー「くっ!」ブスッ
アイロンを見つけ、コンセントに繋いでスイッチを入れました。
頭の悪いちひゃーが熱いものを使うことは本人だけでなくPの家にとっても危険ですが、火種となるようなものはちひゃーの行動を予測していたPが全て片付けたので大丈夫です。
ちひゃー「くにゃあぁぁぁ…」アクビ
しかしアイロンが熱くなるには少し時間がかかります。
暇になったちひゃーは考えごとをはじめました。
今日は一人ぼっちで何をして遊ぼう?本は読んでもらわないとわからないし、オモチャはあまり買ってもらってないしなあ…
おバカで我が儘なちひゃーでもさすがに捨てられるのは嫌なので、家で歌うという選択肢は出てきません。
ちひゃー「く…、くっ!」ピコンッ
少しして、ちひゃーはあることを思いつきました。
そうだ、カラオケに行こう。がまぐちにはいざという時のためと渡されたお金が入ってるし、カラオケはすっかり常連だから一人で行っても大丈夫なはず
ちひゃー「くっくー♪」フンス
名案が浮かび、誰もいないのにがまぐちを掲げてドヤ顔をするちひゃー。
自分で戸締りができないことなど考えていません。
ちひゃー「くっくっ」トテトテ
そうと決まれば、と今度はキッチンへと向かいます。
ーーー目的のものは、テーブルの上に置いてありました。
瓶に入ったミスティックエナジーです。
ちひゃーが毎日これを飲むようになってから、Pはちひゃー用のカプセルを作り置きするようになったので、瓶の中の薬は全てカプセルで包んであります。
ちひゃー「くっ!」フンス
すぐにお目当てのものを見つけて喜びのポーズ。早速瓶を手に取ります。
ちなみに普段ちひゃーがPに飲ませてもらう薬は一回一錠です。
しかし…
あの人はケチだからいつも一錠しか飲めないけど、きっとたくさん飲めば歌がもっと上手くなるに違いない。
今日は留守番してるし、ご褒美にいっぱい飲んでもいいよね!
そんなことを考えたちひゃーは、
ちひゃー「く…、んあー」ジャラジャラ
瓶の中身を全て口に注ぎ、
ちひゃー「ごきゅごきゅ…、んくっ」ゴクン
冷蔵庫から取り出した牛乳で全て流し込んでしまいました。
ちひゃーの口は人の手のひらを丸呑みするほどの大きさなので、飲み込むのにはさほど苦労はしなかったようです。
…
ちひゃー「くー♪」トテトテ
さて、今度はアイロンです。ちひゃーが戻ってくる頃には十分熱くなっていました。
ちひゃー「くっく♪」ヒョイ
ちひゃーは自分の身長ほどもあるアイロンを持ち上げ、髪を挟もうとしました。が…
ジュッ
ちひゃー「ぐにゃぁっ!!」ガチャンッ
思うようにいかず、鉄板を顔に当ててしまいました。
普通に考えれば当然です。極端に小さいお手手で人間並の大きさの頭に生えた髪をどうこうできるわけがありません。
しかもこのアイロンは芸能関係の人間も使うような業務用のもので、少し触っただけでも火傷する程の高温になります。
ちひゃー「くぅう…」ググッ
それでも諦めきれないちひゃー。今度はアイロンを床に置いて再挑戦です。
しかし、
ジュッ
ちひゃー「ぐっ!」
今度は手を火傷してしまいました。でもちひゃーはまだ諦めません。
基本的に根性無しのちひゃーですが、自分のプライドが関わってくると別なようです。
…
ジュウッ
ちひゃー「ぐぎっ!」
ジュジュッ
ちひゃー「ぎゅにゃあぁっ!」
その後もちひゃーの挑戦は続きました。
しかしいくら頑張ったところで上手くいくはずもなく、結局体中を火傷だらけにするだけ。
また、偶然上手くアイロンが当たった部分の髪も、加減を知らないせいでジリジリと焦がしてしまう始末です。
ー30分後ー
ちひゃー「くぅー…」
とうとうちひゃーはアイロンを投げ出してしまいました。
全身に負った火傷の痛みに耐えられなくなってしまったのです。
いつも我が儘を突き通して生きてきましたが、結局人間がいなければ物事を思い通りに行うことはできません。
ちひゃー「くぅ、くぅ」シクシク
ちひゃーは希望を失ってしまい、諦めてシクシクと泣き出しました。
ーーーと、そのときです!
ちひゃー「ぐっ?ぐぎゃあぁぁぁーーーーー!!!」
急にちひゃーのお腹がシュワシュワと音を立て、口から湯気を吐き出しはじめました。
薬を飲んでから約30分。カプセルが丁度溶けきる位の時間。
実は、さっきちひゃーが飲んだカプセルの中身はミスティックエナジーではなく、毒性の強い生石灰だったのです。
ちひゃーが薬を欲張って飲もうとすることを見越して全てのカプセルの中身を劇物にすり替える、それがPの考えた、直接手を下さず、かつ欲望の塊に相応の苦しみを与える作戦でした。
ちひゃー「ぐにゃあぁーーー!!ぐぎぁぁぁーーーー!!!」ジタバタ
生石灰は水分と反応し、膨大な熱を放出します。今、ちひゃーのお腹はさながら灼熱地獄。
ちひゃー「ぎゅああぁーーーー!!!ぐがあぁぁーーーーーー!!!!」
ちひゃーはあまりの熱さに苦しみ、のたうちまわりますが、カプセルのおかげで胃まで到達した劇物はなかなか吐き出せません。
ちひゃー「ぐぎぃぃぃーーー!!ぐぎやあぁぁーー!!ぐあぁ…、ぐ…」
しばらく絶叫した後、ちひゃーはその場に倒れてしまいました。
ちひゃー「…」
すでに瀕死のちひゃー。
しかし地獄はまだ続きます。
ちひゃー「ぐっ!?ぐぎっ!!!」
水と反応した生石灰は、強塩基性の消石灰へと変化します。
消石灰は少量ならば大した毒にはなりませんが、量が多すぎると大変危険です。
ちひゃー「ぐっ!ぐうぅああぁぁーーーーー!!」
ちひゃーは体内の粘膜を強アルカリに侵され、生石灰の熱さとは違う、想像を絶する痛みに苦しみ続けます。
ちひゃー「ぐぎがぁぁーーーーー!!!くぅう!ぐうぅうーーーーー!」
ああ、もう死ぬんだ。
ちひゃーはそう感じました。
すでに体の中は焼け爛れて助かりようがない。
ちひゃーは延々と続く痛みからそれを知ってしまったのです。
ちひゃー「ぐ…、びぇぇーーーーー!!びぇーーーーーー!!!」
そのときちひゃーの心が壊れました。激しい痛みよりも迫り来る死の恐怖の方が勝り、悲鳴を上げるのをやめて激しく泣き出したのです。
ちひゃー「びえーーーーーーー!!びえぇーーーーー!!」
死に怯えて泣きじゃくる中、ちひゃーは走馬灯を見ました…
ちひゃー「びぇーーーーー!!びえぇぇーーーーーー!!!」
765プロに来てからの生活は楽しかったなぁ。みんなにちやほやされて嬉しかったなぁ。
ちひゃー「びぇぇえぇーーーー!びええぇぇえーーーーー!!」
ゆきぽと遊んだのも楽しかったなぁ。私が髪も声もキレイになったとき、みんな私に嫉妬してたけどゆきぽだけは素直に褒めてくれたなぁ。
ちひゃーは走馬灯まで自分の都合のいいように染まっており、人間への感謝や反省はありません。
ーーーしかし、最後の最後にはこんなことを思いました。
ちひゃー「びぇーー、びえぇぇ…」
千早さんとプロデューサーに、もう一度会いたかったなぁ…
ちひゃー「…」
・・・
ー数時間後ー
P「ただいまー」
Pはしばらく時間を空けて家に帰ってきました。しかしその声に応えるものはいません。
ちひゃー「」
P「はぁ、やっぱりこうなったか。」
これはちひゃーの気質を利用した罠だったとはいえ、本当にまんまと引っかかったちひゃーにPは少々呆れているようです。
いつも通りカプセルを一つ飲んだだけだったなら、軽い胃潰瘍程度で済んだでしょう。
高いプライド、強欲、無に等しい自制心を持ち合わせて初めて死に至る罠。そんなもので命を落とした生き物の遺骸に、Pは軽蔑の視線しか送ることができませんでした。
ー完ー
- 最終更新:2014-02-21 06:27:55