捨てゆきぽ

ゆきぽ「ぽえ、ぽえ」ザックザック

ゆきぽが事務所に来て1日目。
ゆきぽは始めてこの事務所の床に穴を掘った。怒られるなんて思わなかった。悪いことだとも思わなかった。ただ掘りたかったから掘った。

ゆきぽ「ぽえっ」ジャンプ

ゆきぽ「ぷ~~…」クルクル

ゆきぽ「ぱう」スポッ

ゆきぽ「ぽ……zzz」スヤスヤ

掘り終わると宙返りしながら穴に入り、すぐに寝息を立て始めた。いつもこうして来た。その度に拾われた先々で殴られ蹴られ、邪魔もの扱いされて捨てられて来た。ゆきぽはそれがとてもとても悲しかったが、今は大丈夫。ここの人達が自分を飼ってくれると思ったから。一緒に幸せに生活できると思ったから。

P「…」コクリ

律子「…」コクリ

小鳥「…」コクリ

P「…」スポッ

ゆきぽ「zzz……ぷぃ?」パチクリ

ゆきぽが寝始めて間も無く、Pと律子と小鳥さんが無言で頷き合った。そのままPはゆきぽを穴から出した。ゆきぽが寝始めて一分程しか経っていない。どうしたのかな?と不思議に思ってゆきぽは目を瞬かせる。

P「じゃあ行って来ますねー」

律子「お気を付けて」

小鳥「帰りにアイス飼って来てもらっていいですか?」

P「了解です」

ゆきぽ「ぽえ~」ニコ

Pと律子&小鳥さんが挨拶を交わしている。Pはゆきぽを脇に抱えるように持っている。もう片方の腕には段ボールとスコップが抱えられている。どこかに出かけるようだ。でもそれよりゆきぽが気になったのはアイスのこと。甘くて冷たくて美味しそうなアイスのこと。ゆきぽはまだ一度も食べたことがなかったが、前の前の前ぐらいの飼い主が食べながらそう言っているのを聞いたのだ。ゆきぽはその時、自分にもちょうだい、と言ったが殴られるだけだった。そしてそのまま捨てられた。でも今度はアイスを食べれる。そう思ってゆきぽは微笑んだ。

ガチャ、バタン

ガチャ、バタン

ゆきぽ「ぷぃ~」ニコニコ

車に乗る。ゆきぽと段ボール&スコップを後部座席に置き、Pが運転席に乗る。お出かけお出かけ楽しいな、と思いながらゆきぽは移り変わる景色を見る。Pも鼻歌を歌っている。無言だったが期限が悪いわけではないようだ。

ゆきぽ「??ぽぇー?」キョトン

小一時間ほど走り、景色にだいぶ自然が多くなってきたとき。そういえばどこに行くのかな?とゆきぽは思った。だから欠伸をしながら運転しているPにどこに行くの?と聞いた。

Pは当たり前のように答えた。

P「お前を捨てに行くんだよ」

ゆきぽ「ぽえ!!?」

P「だいぶ田舎に来ただろ?これから山の中に入っていくからそこでお前を捨てるんだ。そこが今日からお前の新しい家さ。もうちょっとでつくからな」

ゆきぽ「ぱぅーーーっ!ぽぇぇーーーっ!」イヤイヤ

ゆきぽは必死に首を振って嫌だ嫌だと訴えた。捨てられるのは嫌だ。お腹が空くのはいやだ。怖い人や怖い動物に虐められるのは嫌だ。何より、一人ぼっちは嫌だと思ったから。どうして捨てるの?ゆきぽ、何も悪いことしてないよ?と小さな身体を震わせながら鳴く。

P「うーん、あのな。はっきり言って事務所の床に穴を掘るような奴はいらないというかいて欲しくないんだよ。お前に悪意があるにせよないにせよな。お前が悪いことじゃないと思っても俺達はもの凄く迷惑なんだ。だから捨てるんだよ」

ゆきぽ「はぅぅ~~~!ぴぃぃぃぃ; ;」イヤイヤ

やはり当たり前のように、そして穏やかにPが言う。ゆきぽが泣き出す。お願いだから捨てないで、嫌だ嫌だと。ゆきぽは家族でしょ、と。

P「イヤイヤ家族じゃないぞ、まだ出会って1日だし、皆がお前を飼うことを了承してもいないしな。1日目あったかい部屋で過ごせた、ラッキー!って考えればいいじゃないか。昨日までの野良生活に戻るだけだよ。まぁ食べ物は食べれなかっただろうけどこれから行く山の中にあるだろ。多分」苦笑)

ゆきぽ「ぱうぅ、ぱぅぅぅ…; ;」ポロポロ

家族だと思っていたのに。やっと寂しくて苦しい野良生活が終わると思ったのに。そう考えてたのが自分だけだと分かったゆきぽは悲しそうにポロポロ涙を零す。それに食べ物。せっかく美味しい食べ物が食べれると思ったのに。野良生活じゃ録に食事にありつけなかったし、どうやって食べ物を採ればいいのかもわからない。信じていた人に裏切られたこととこれからの生活に対する恐怖にゆきぽは泣いた。


キキィ…

P「さ、ついたぞ」ガチャ、バタン

ゆきぽ「ぽぇ~ん、ぽぇ~ん; ;」イヤイヤ

P「わがまま言わない言わない。ほら、暴れないで降りな」ヒョイ

ゆきぽ「ぽやぁぁーー!きゅうぅぅーー!」ジタバタ

泣き続けて気づけば鬱蒼とした森の中。既にあたりは薄暗く、人家も明かりも見当たらない。ゆきぽは怖くて怖くて仕方ない。嫌で嫌で堪らない。だから自分を降ろそうとするPの手を払ったり、身をよじったりして必死に降ろされまいとした。しかしそんなことをしても無駄。ゆきぽの小さくて柔らかくて温かい身体をがっちりと掴むと、Pはゆきぽを持ち上げた。

P「おー、結構力あるんだな。と、なるとなおさら事務所にはおけなよなー。アイドルに何かあったら大変だし。でも身体はプニプニモチモチして柔らかいんだな」

ゆきぽ「ぴぃぃぃ、ぽぴぃぃぃぃ!」ジタバタ

P「よいしょ…」ストン

ゆきぽ「ぱぅーーーーっ!」ヒシッ

Pがゆきぽを地面に降ろした。行かないで、一人ぼっちにしないで、とPの足元にすがりついた。上目遣いでPを見上げるその目は泣き腫らして赤く、同様に柔らかい頬も赤くなっている。小さな身体をそれほど寒くもないのにカタカタと震わせてゆきぽは懇願した。
捨てないで、と。
Pは困ったように笑った。

P「悪いな。でも捨てるってより一時的にお前を預かってここに送り届けたみたいなもんなんだよ。俺達としてはさ。まぁ床に穴は開けられたけどな。別にお前が憎いわけじゃない。けど俺達はお前の飼い主じゃないんだよ」

ゆきぽ「ぽやぁ、ぽゃぁぁぁ……!」イヤイヤ

P「ほら、離れな」グイッ

ゆきぽ「ぽえぇぇぇーー!ぽえぇぇぇぇぇーーーっ!; ;」イヤイヤ、イヤイヤ!


Pにとても悲しくて辛いことを言われた。飼い主だと思ったのに。新しいお家だと思ったのに。でもそう理解してもゆきぽは離れない。離れたくない。Pに身体をグイグイ押され、離すように言われても小さなてはズボンをキュッと掴んで離そうとしない。頭を振る、振る、振る。これで離したらもう終わりだと思ったから。


P「俺も早く帰らなくちゃいけないし、な?」グイッ!

ゆきぽ「きゅうぅぅ!」ドサッ

Pがさっきよりも強くゆきぽの身体を押した。掴んでいたズボンの裾が手から離れ、バランスを崩したゆきぽは転がった。でも痛くはない。本当は少し痛いかもしれないけど、今はそれどころじゃなかった。

P「じゃあ、元気でな」ガチャ バタン

ゆきぽ「ぽぃやぁぁぁぁぁぁ!ぷぃぃぃぃぃーー!!」オブオブ

Pは既に車に乗り込み、エンジンをかけている。いつの間にか段ボールとスコップも外に出されていた。別れの言葉をかけてくるPに、ゆきぽは泣きながら言った。
お願い、待って、捨てないで、と。

P「…」

ジャリジャリジャリ、ブロロロ…


ゆきぽ「ぽや、ぽあぁぁーーーーーーっっ!!!ぽぉえぇぇーーーーーっっ!!; ;」ボロボロ

ゆきぽ「ぽきゃ!!」ドサッ

でもPは待たなかった。一瞬も。タイヤが砂利道を力強く進み、車がどんどん小さくなる。絶望の声をあげながらゆきぽもそれを追いかけるが追いつけるはずがない。車が見えなくなっても涙を流しながら追いかけていたが、転んでしまった。もうエンジンの音も聞こえない。聞こえるのは木の葉が風に揺れる音と、虫の声だけ。

ゆきぽ「ぴぃぃぃ!ぽえぇぇぇ~ん!ぷあぁぁぁ~ん!; ;」ボロボロ

砂利道に座り込んでゆきぽは泣きじゃくる。転んだときに膝を怪我してしまい、血が出ている。しかし何より、捨てられたという事実が心を傷つけていた。ゆきぽはもう何回捨てられたのかもわからない。今度は大丈夫と思ったのに。なんでみんなゆきぽと暮らしてくれないの、と泣く。暗い森の中に、ソプラノの悲しみに満ちた鳴き声が響き渡る。

なにも痛いことはされていない。虐められてもいない。ただただ、一人ぼっちが悲しかった。
そして数日後、この森から小さな命が消えたのだった。


終わり

  • 最終更新:2014-09-03 06:17:57

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