牛乳を求めて・・・

ちひゃー「くっくー!くーっ!くくっ!」

プロデューサーが事務所で仕事をしていると、突然ちひゃーが騒ぎだした。

P「どうした?」

ちひゃー「くっ!くっ!」

牛乳を飲みたい!
牛乳を要求するちひゃーの足元には、空になった牛乳パックが3つ転がっている。

P「まだ飲むかよ」

ちひゃー「くっ!」フンス

当然だとちひゃーは偉そうな態度を取った。

P「威張る意味が分からん・・・」

そう言いつつも牛乳を取ってくるために冷蔵庫へ向かうプロデューサー。
しかし

P「さっきのが最後だったか」

ちひゃー「くっ!?」

買い置きの牛乳はちひゃーが全部飲んでしまったようだ。

ちひゃー「くっ!くっ!くっ!!」

飲みたい!飲みたい!飲みたい!!

P「はぁ・・・」

ないものはどうしようもないので、プロデューサーは喚き続けるちひゃーを放置して仕事に戻ろうとしたが

ちひゃー「くっ!くっ!くっ!」

納得しないちひゃーは買いに行けとなおも騒ぐ。

P「今は事務所に俺しかいないから無理だぞ」

ペットのエサの為に事務所を無人にするという選択肢は、当然プロデューサーにはない。

P「もう少しすれば小鳥さんが戻ってくるし千早も来るから我慢しろ」

ちひゃー「く・・・」

しかし今すぐに牛乳を飲みたいちひゃーはとても我慢などできない。

ちひゃー「くっくー♪くー♪」

今度は自分が買いに行くと言い出した。
プロデューサーは、ちひゃーが張り切るとロクなことにならないと分かっていたが

P「まあいいか・・・」

最寄のコンビニは事務所から真っ直ぐ行けばいいし、いくらちひゃーでも大丈夫だろうと判断した。

P「じゃあ行って来い」

ガマ口に5千円札を1枚入れてやり、ちひゃーを見送ったプロデューサーは

P「やれやれ」

と呟きながら事務所に戻っていった。

ちひゃー「くっ♪くっ♪くっ♪くっ♪」トテトテトテトテ

初めて自分だけでお買い物に行くちひゃー。
プロデューサーに教えてもらったとおりの道をウキウキしながら歩いていた。

ちひゃー「くー♪くー♪」

頭の中は牛乳を飲みまくっている自分の姿でいっぱいだったが

ちひゃー「くっ!」

コンビニまでもう少しというところで、前方からのんびりと歩いてくる犬を発見した。
最近は大好きな犬との触れ合いを人間達に阻止されていたちひゃー。
今日は邪魔するものは何もない。

ちひゃー「くっ」ヨロコビ

喜びのポーズを取ってから、一目散に犬に向かって駆けて行く。

ちひゃー「くっ!くっ!くっ!くっ!」トテテテテテ

一方の犬は、何かが自分の方に走ってきていることに気が付いた。
それは今まで見たことがない奇妙な生き物だった。

犬「」

必死の形相で走ってくる謎の生物に怯えた犬は、踵を返すと逃げ出してしまった。

ちひゃー「くっ!?」

自分のせいで犬が逃げたなどと夢にも思わないちひゃーは

ちひゃー「くっ!くっ!くっ!くっ!」トテテテテテ

走る速度をさらに上げて犬を追いかける。コンビニの前を通り過ぎて・・・。

ちひゃー「くっ!くっ!くっ!くっくーーっ!!」トテテテテテテ

しかししばらく追いかけたものの、ちひゃーの足では本気で逃げる犬に追いつくことは不可能だった。

ちひゃー「くぅ・・・」ガックリ

犬を見失ってしまい落ち込むちひゃー。
それでも気を取り直して牛乳を買いに行こうとして

ちひゃー「くっ?くくっ?」

さっきまで見えていたコンビニが見当たらないことに気が付いた。
基本的に移動時は人間の頭に乗るちひゃーは、事務所周辺の地理が分からない。

ちひゃー「くっ」オテアゲ

道に迷ったことを理解しお手上げのポーズを取るが、それでは何も解決しなかった。

ちひゃー「くっくっくっくっ」トテトテトテトテ

とりあえず真っ直ぐ前に進むことに決めたちひゃー。
なんとかなると考えながら。

運がいいことにしばらく進むとコンビニが見えてきた。
もちろん事務所最寄りのお店とは別のお店である。

ちひゃー「くっ!」フンス

しかしちひゃーは偉そうに胸を張って、コンビニに入っていった。

店員「いらっしゃいませ~」

ちひゃー「くっ!」ピシッ!

声をかけてきた店員に、片手を挙げて挨拶をしてからちひゃーは牛乳のコーナーに向かう。

店員「・・・なんだあれ」

反射的に挨拶をしたものの、店内に入ってきたのは変な生き物である。
店員は追い出そうか迷ったが、今のところは害はなさそうなのでもうしばらく様子を見ることにした。

ちひゃー「くっく~♪」

牛乳が並んでいる棚を見て喜びの声をあげ、買い物カゴに次々と牛乳を放り込んでいくちひゃー。
あっと言う間にカゴは牛乳でいっぱいになった。

ちひゃー「くっ」

それを見て満足そうにうなずくと、お金を払うためにカゴをレジに持って行こうとした。
しかし

ちひゃー「く・・・」オモイ…

それはちひゃーが持てるような重さではなかった。

ちひゃー「くー・・・くくぅ・・・」キョロキョロ

どうしようかと周囲を見渡すと、ちひゃーの様子を窺っていた店員と目が合った。

ちひゃー「くっくっ」コッチコイ

ちょうどいいと手招きをして店員を呼ぶちひゃー。
牛乳をやたらとカゴに入れるちひゃーを見ていた店員は、呆れ顔でカゴを持ちレジへと向かう。

店員「3650円になります」

レジカウンターに登ったちひゃーは

ちひゃー「くっ!」フンス

店員に偉そうに5千円札を渡すと

ちひゃー「くっくっくっくっ」ペシペシペシ

さっさと牛乳を寄越せとレジ袋をペシペシと叩いた。
店員はガマ口にお釣りを入れてから

店員「ありがとうございました」

下で待ち受けるちひゃーに牛乳で膨れ上がったレジ袋を渡す。

ちひゃー「ぐぅぅぅぅぅぅ!!?」ベチャッ

当然のようにレジ袋の下敷きになって悲鳴をあげるちひゃー。

ちひゃー「ぐっぐぅ・・・ぐー」

唸り声をあげて這い出ようとするちひゃーに苦笑しながら

店員「外まで運んでやるよ」

店員はレジ袋を持ち上げると、駐車場の隅まで運んでやった。
店外に持って行っても、この変な生き物が持ち帰れないことは分かっていたが
仕事中なのでいつまでも関わっているわけにはいかない。

ちひゃー「くっ」バイバイ

ちひゃーは店内に戻る店員を見送ってから

ちひゃー「くっ!」

さあ帰ろうとレジ袋を持ち上げようとした。
しかし下敷きになるほどの重さの物を持ち上げられるはずがなく

ちひゃー「くっ!くっ!くっ!」

掛け声だけは威勢がいいが、レジ袋はピクリともしない。
周囲を見渡しても今度は助けてくれる人はいないようだ。

ちひゃー「くぅ~~」ウーーーン

そして考えに考えた末に思いついたことは「1本ずつ持って帰ればいい」であった。

ちひゃー「くっ!」フンス

いい考えだと思ったちひゃーは、早速牛乳を袋から取り出すと

ちひゃー「くっくっくっくっ」トテトテトテトテ

それを抱えて事務所へ戻ろうとした。
もちろんちひゃーは、自分が道に迷ってこのコンビニに来たことなど覚えてもいない。

コンビニの駐車場を出たところで、ちひゃーは後ろが騒がしいことに気が付いた。
振り返って見ると

少年1「牛乳がいっぱい落ちてるぜ」

少年2「なんか怪しくね?」

少年3「公園にいる野良犬で試してみるか?」

ちひゃーが放置したレジ袋を取り囲んで、学生服を着た少年達が騒いでいる。

ちひゃー「くっ!!?」

大事な大事な牛乳が奪われると思ったちひゃーは、駐車場に引き返し

ちひゃー「シャーッ!シャーーッ!!」

牛乳を抱えたままレジ袋と少年達の間に割って入ると威嚇した。

少年1「なんだこいつ?むかつく顔してやがる」バキッ!

少年2「確かに蹴りたくなるな」ドカッ!

少年3「」ゲシッ!

ちひゃー「ぐぅ!?ぐげっ!?ぐべっ!!」

威嚇は逆効果だったようで、少年達の攻撃を食らってしまうちひゃー。
それでも牛乳を守ろうと、「くーくー」と鳴きながらレジ袋に覆いかぶさる。
その必死な姿を見た少年達は、何かを企んでるようなことを言い出した。

少年1「なあ、この牛乳ってお前のか?」

ちひゃー「くっ」コクン

少年1「そうかそうか。じゃあ俺達が自転車で運んでやるよ」

ちひゃー「くっく~♪」

牛乳を運んでもらえると聞いたちひゃーは大喜びだ。
少年達は顔を見合わせてニヤリと笑うと、自分達の自転車のカゴに牛乳を分けて入れる。
そして

少年2「それじゃ行くか」

と自転車に乗って走り出した。三方向に分かれて。

ちひゃー「くっ!!?くくっ!?くーーっ!?」

慌てて後を追おうとするも、どれを追えばいいのか分からずオロオロするちひゃー。
やがて自転車はちひゃーの視界から完全に姿を消した。

ちひゃー「くぅぅぅぅぅうううう・・・」シクシクシク

牛乳を持ち去られたちひゃーにできることは、1本の牛乳を抱きしめながら涙を流すだけだった。
しばらく泣いていたちひゃーだったが

ちひゃー「くっ・・・くっ・・・くっ・・・」トボトボ

いつまでもここにいても仕方ないと思ったようでノロノロと歩き出した。
元々道に迷っているうえに、牛乳を奪われたショックも加わり
ただ足を動かしているだけで歩く方向は適当だ。

ちひゃー「くっ・・・くっ・・・くっ・・・」トボトボシクシク

少し歩いているうちに、、ちひゃーは人通りが多い場所に到着。
と、一瞬だが千早の姿を見た気がしたちひゃー。

ちひゃー「くっ?くくっ?」キョロキョロ

立ち止まってキョロキョロと探すが千早はどこにもない。

ちひゃー「くぅ?」

見間違いだったかなと思いながら再び歩き出そうとしたその時

ちひゃー「くっ!!!」

レジ袋を持って暢気に歩いている学生服姿の少年がちひゃーの目に入った。

ちひゃー「くーーっ!!くくっ!」プンプン

牛乳を盗んだ悪いヤツを発見したちひゃーは、抱きかかえていた牛乳を放り捨て

ちひゃー「くっ!くっ!くっ!くーーーっ!」トテテテテテピョーイ

怒りに任せて少年の手に噛み付いた。

少年4「うおっ!!?」ドサッ!

いきなり謎の生き物に噛み付かれた少年は、驚いて持っていたレジ袋を落としてしまう。
それを見たちひゃーは、牛乳を取り戻すべく早速レジ袋を漁り始めた。

ちひゃー「くっくー」ガサガサ

しかしいくら探しても牛乳は見つからない。牛乳を盗んだ三人とは無関係なので当然である。

ちひゃー「くっ?くくっ??」

首を傾げるちひゃーに少年は

少年4「おい・・・なんだよお前」

声をかけるが

ちひゃー「くっ!!」

新たな標的を発見したちひゃーはそれを無視して走り去っていった。

少年4「・・・なんだったんだ」


三人目に襲い掛かってレジ袋を漁っていたちひゃーは、周囲が騒がしいことに気が付いた。

ちひゃー「くっ?」

いつの間にかちひゃーは何人もの男に取り囲まれていた。
何かあったのかと思った瞬間

ちひゃー「くぎゃぁぁああああっ!!?」

男にバットで殴られて悲鳴をあげるちひゃー。

男1「とりあえず痛めつけて動きを止めるぞ」

男2「おうっ!」

ちひゃー「ぐぎぃぃぃいいいっ!」

いきなり人間に襲い掛かった変な生き物を取り押さえるために男達は次々に殴りかかる。

男3「誰か保健所に連絡したか?」

どこかで聞いた声「わたしが電話しておきました」

男4「よし!ロープ持って来いロープ」

ちひゃー「ぐぅ・・・」

男達はちひゃーが弱ったとみるとロープで縛り上げていった。

そして・・・。

少ししてから到着した保健所の職員に、縛られたまま引き渡されるちひゃー。

ちひゃー「ぐー・・・ぐぅぅ」

男達に受けたダメージは大きく弱々しい呻き声を出すだけである。
やがてちひゃーは車に乗せられ連れ去られていった。
それを見送った人々もその場を立ち去っていく。
後に残されたのは一人の女性だった。

保健所に連絡したその女性、ちひゃーの飼い主の千早は口元に笑みを湛えている。

千早「今ならどんな歌も明るい気分で歌えそうだわ」

そう呟いた千早は、携帯電話を取り出した。

765プロ事務所。

P「おっ、千早か。・・・えっ、なにそれ・・・まじで?・・・ああ、詳しくは事務所で聞くよ」

千早からの電話を終えたプロデューサーは、大きくため息をついた。

小鳥「千早ちゃん、どうかしたんですか?」

不思議に思った小鳥が訊ねる。

P「いや、よく分からないんですけどね。ちひゃーが暴れ回って保健所に連れて行かれたそうです」

小鳥「え・・・」

P「すぐそこのコンビニに行くだけなのになんでそうなるかな~」

小鳥「まあ・・・それがちひゃーちゃんですよ」

P「そうかもしれませんね」

小鳥「それよりプロデューサーさん、この請求書ですが・・・」

P「あ~・・・それね・・・」

「ちひゃーだから」の一言で今回の騒動を済ませてしまった二人には
保健所に連絡をしてちひゃーを引き取るという発想はもちろんない。
考えたことは「これからは落ち着いて仕事できそうだな」だけであった。

おわり


  • 最終更新:2014-06-06 06:48:31

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