音無小鳥の発明

「やったわ……ついに、ついに完成した……!」

765プロの事務所で、音無小鳥が一人歓喜している。

「何が完成したんですか?音無さん」カタカタ

パソコンを打ちながらPが質問した。
Pの質問に対して、「これですよ!」と言って、彼女は右手に握られた機械を突き付けた。

「……なんですか?それ」

作業を止めたPが改めて質問する。
黒いトランシーバーの様な形状で、そこに赤いスイッチが取り付けられた、そんな謎の機械を誇らしげに掲げ彼女は答えた。

「これは、スイッチを押す度にゆきぽちゃんの歯が強制的に引き抜かれる機械です!」

「本当ですか~?」

Pの疑問に「試して見て下さい」と、彼女は機械を渡す。
Pは半信半疑ながらもスイッチを押した。すると、

「ぽぎゃあああぁぁぁ!!」

事務所の隅で、『しめじ』と書かれた段ボール箱に寝ていたゆきぽが、大声を上げて床をのたうち回り始めた。
その近くに一個の歯が転がっていた。

「ぷうぅぅ…ぷうぅぅ…」

涙を流しながら口を押さえるゆきぽ。
その口からは、血が流れていた。

「健康な歯が、無理矢理引き抜かれるんです。かなりの激痛のはずですよ」

「ゆきぽちゃんの躾に役立てて下さい」と、彼女は機械をPにたくし、トイレに向かった。

「ありがとうございます。音無さん」

そんな彼女の後ろ姿に向かって、Pは深々と頭を下げた。

翌日から、この機械を使った、ゆきぽへの躾が始まった。
ゆきぽが事務所に穴を掘る等の悪さをしようとする度に、Pはスイッチを押して強制的に歯を引き抜いた。

「ぷびいいぃぃぃ!!」

歯を引き抜かれる度に、ゆきぽは悲鳴を上げて床を転がった。
口内に走る強烈な激痛がそうさせたのだった。

数ヶ月後。

「ぽひぃ、ぽひぃ」ズズズ

湯飲みに入ったお茶を、美味しそうに啜るゆきぽの姿があった。

「ぽひぃ、ぷふぅ」

だが、鳴き声が些かおかしい。
結論から言うと、ゆきぽの歯は全て抜け落ちていた。
『悪い事をすると罰が当たる』。その事を『歯が引き抜かれる』という形で徹底的に実行したのだが、ゆきぽには効果が無かった。
二三回同じ事を繰り返せば、『〇〇をすると歯が引き抜かれる』と流石に理解する。
だが、数日も経つと、「もう大丈夫だよね!」と勝手に結論して行動を再開するのだった。
それを何度も繰り返した結果が、今のゆきぽの姿であった。
鳴き声がおかしいのも歯を全て失った為である。

「ぽ、ぽひゅ~」ジー

ゆきぽが目の前の皿に盛られた沢庵をジーっと眺めている。
全ての歯を失ったゆきぽは、大好きな沢庵をコリコリと食べる事が出来ない。

「ぽひゅー、ふひゅー」ダラダラ

ゆきぽの口から大量の涎が滴り落ちていた。

「躾をしないとな…」

ゆきぽを観察していたPが呟いた。
涎で床を汚した為である。
スイッチを押そうとしたPは、ある疑問に思い当たる。

「音無さん、歯が無い状態でスイッチを押すとどうなるんですか?」

Pの質問に、音無小鳥が答えた。

「ゆきぽちゃんの右腕の肉が、少しずつ、えぐり取られていきます」

Pはスイッチを押した。すると、

「ぷぎゃああぁぁぁ!!」ブシュ

ゆきぽの右腕から血が噴き出し、右腕の肉片が床に落ちた。

次の日の朝。

「……と言う訳で、この機械をたのんだぞ。ちっちゃん」

「めっ!」マカセテー

今日は一日中事務所を留守にする。
そんな時、機械の管理はいつも音無小鳥に任せている。
ただ今回は、ちっちゃんに任せる事にした。
Pが出掛けた後、ちっちゃんは機械を見詰めながらニヘラと笑う。
大好きなPに頼られた事が嬉しくて堪らないのだ。

「めっ!めっ!///」バンバン

余りの嬉しさに、ちっちゃんは機械を何度も何度も叩いてしまった。その直後、

「ぽぎゃあああぁぁぁ!!」ブシュブチィ

ゆきぽが絶叫し、右腕から大量の血が噴き出し始めた。

ボト、ベチャ、ベチィ、ブチョ

右腕からえぐり取れた大量の肉片が、床に落ちて積み重なっていく。

「ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽ」

仰向けに倒れたゆきぽは、短い鳴き声を上げ続けていた。
その両目は光を失った虚ろな目であった。

数日後。

「ぽひゅ、ふふうぅ」ズズズ

そこには、右腕と歯を失ったゆきぽがお茶を啜る姿があった。
あのあと、事情を聞いたPは、ちっちゃんの額にデコピンを一発かましてお仕置きをした。
ちっちゃんはシュンとうなだれて落ち込んでいる様子だった。

「ぽえ!?」ガタン

ゆきぽが左手で掴んでいた湯飲みを落として床を汚す。

「またか……」ハァ

Pは溜め息混じりにスイッチを押そうとする。
その時、ひとつの疑問に思い当たった。

「音無さん、右腕が無い状態でスイッチを押すとどうなるんですか?」

音無小鳥がパソコンを打ちながら答えた。

「ゆきぽちゃんの左目の粘膜が、少しずつ、剥がれ落ちていきます」カタカタ

数週間後。歯と右腕を失い、左目が完全に壊死したゆきぽの姿がそこにあった。


『音無小鳥の発明』おわり


  • 最終更新:2014-02-20 17:14:53

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