P「なぁ、ゆきぽ」

ゆきぽ「ぽ?」

P「お前ってもしかして、自分のこと良い子だと思ってる?」

ゆきぽ「ぱぅ?……ぽえへ///」

P「褒めたんじゃなくてさ、自分のことをどう思っているか聞いてるんだよ。良い子だと思うか?」

ゆきぽ「ぅゅ………ぽーぇ、ぱぅー///」ブンブン

ゆきぽは首を横に振った。
ゆきぽ、そんなに良い子じゃないよ、と。
ちっちゃんやぴよぴよの方が良い子だよ、と。

しかし、これが完全なゆきぽの本心なわけではない。

確かに、ちっちゃんやぴよぴよにはかなわないかもしれないけど、その次くらいには良い子かな、とゆきぽ思っていた。

でも、ここで頷いたるするのはあんまり良い子じゃないと感じたし、それはあふぅやちひゃーあたりがしそうなこと。
気の利く良い子な自分はここで控えめに否定しよう、と思ったのだ。


でも、もしかしたら。

もしかしたら、良い子じゃない、といった自分をPさんが否定してくれるかも。
『そんなことない!ゆきぽら良い子だぞ!』、『ゆきぽは謙虚だなぁ』と言ってくれるかも。


そんな風に考えていたの、だが……


P「はははは。まぁそうだよな。間違いなく良い子ではないよな。というか、ぷちの中で一番の迷惑者で厄介者だよお前は。よくわかってるじゃないか」


ゆきぽ「ぽ、え…?」

しかし、出てきたのは思い描いていたものと全く違うものだった。

恥ずかしそうに頬っぺを桜色に染めて、でもちょっと期待するような目をして微笑んでいた顔は一瞬で無くなった。
衝撃を受けると共に、ゆきぽは少し混乱する。

ゆきぽが、迷惑者……?
そんな、そんなわけない
ゆきぽは悪い子じゃない

そう思った。

ゆきぽ「ぽ、ぽぇ。ぷー……」オズオズ

P「ん?不満か?いやいやお前は間違いなく事務所一の厄介者だよ。穴掘りまくってドア壊して壁を壊してこたつ壊して。連れて行った収録先でも穴掘ったっけな。お前が事務所に与えた損害どんぐらいかわかるか?もうすこしで300万に達するけど、これは2位のあふぅの100倍だ」

ゆきぽ「ぽえ!!?」


おずおずと、ゆきぽ、迷惑者じゃないよ、と言ってみるがPの言葉は覆されない。

P「そういやさっきちっちゃんやぴよぴよの方が良い子、って言ってたか?ふふっ、おいおい。一番悪い子であるお前とあの二匹とじゃ大違いだぞ?比べることすらおこがましい」

ゆきぽ「…!……ぱぅ、ぽぇー……」ウルウル

P「え?床掃除?お茶汲み?肩たたき?何言ってんだ?床掃除は途中で眠って雑巾もそのまま。雑巾とお前を片付けて床掃除してんのはやよいだぞ。お茶汲みだってポチッ ぐいっ ジャ~~ スプーンをすいっ まぜまぜまぜ~って20秒で誰でもできることじゃないか。しかもポットに入れるお湯はぴよぴよに重いやかんを持たせて入れてもらうしな。というかお茶は雪歩が入れてくれる分で十分だよ。まぜまぜまぜ~、まぜまぜまぜ~、まぜまぜまぜ~ってか、ははっ」

ゆきぽ「ぷぅぅ……!」ウルウル

P「肩たたきもさ、集中して仕事してる時は正直いらないんだよ。休んでる時にはやってほしいかもしれないけど、そーゆうときに限ってブラッシングねだってくるしなぁ、お前。まったく、穴掘って迷惑かけてくるやつになんでそんなことしなきゃいけないんだか………あと、お前の出した損害に頭を抱えている俺たちを撫でるなんて何様だよお前?お前が悪いって分かってるか?問題の原因が良い子ヅラして、本当に不快だよ。ははは」

ゆきぽ「!!……ぅぅ……ぇ、ぇぇ……」プルプル

ちなみにゆきぽは最近ブラッシングをされていない。もじもじと顔を赤らめてブラシを差し出しても無視され、意を決して膝の上にペタンと横になってもうっとおしそうに払いのけられて膝からずり落ちるばかりだった。
そうやって拒絶されるたびにゆきぽは悲しくて堪らなそうに口を噛み締めるのだ。

P「まぁつまるところお前は役立たずってことだ。そんでもって事務所に与える損害を合わせると迷惑度はぶっちぎりの一番。悪い子を通り越して害獣かもな。分かってたんだろ?それとも……まさかとは思うけど自分のこと良い子だと思ってたのか?控えめだけど気が利いて優しいぷちだとでも思ってたのか?全っ然違うからな、お前は。真逆だ真逆。はっきり言って事務所から今すぐ出て行ってもらいたいくらいだよ……」ハァ

ゆきぽ「ひぐっ……ぽぇ……ぽぇぇ……; ;」シクシク

ゆきぽが泣き出した。
Pの言葉は図星だった。
そして、自分がそんな風に思われているなんて知らなかった。
穴を掘ることを悪いことだと思わなかったし、今まで暴力も振るわれなかったため気づかなかったのだろう。

しかし今、告げられた当然の真実にゆきぽの胸は張り裂けそうになる。

悲しかった。ただただ悲しかった。


P「ってああ、話題がそれたな。実はな、ゆきぽ。お前にちょっと頼みたいことがあるんだよ」

ゆきぽ「ぽぇぇぇぇ……ひっく、ぇぐ……ぅぇえぇぇぇん; ;」ポロポロ

P「もうちょいで節分なんだけどさ、うちの事務所でも豆まきをしようと考えているんだが、そこでお前の出番だ。お前には鬼をやってもらおうと思うんだよ。嫌われ者の鬼なんて、お前にはぴったりだろ?棍棒の代わりにスコップ持ってさ。な?」

ゆきぽ「ぱぅぅぅ、ぱぅぅぅ………; ;」イヤイヤ

P「心配するな。痛いことなんてしないって。今までだって暴力なんてふるってなかっただろ?豆だって軽く投げるからさ。『ゆきぽは外、福は内!』ってやってみたいって皆いってるんだよ」

ゆきぽ「ぷぇぇぇぇん、ぷぃー; ;」イヤイヤ、イヤイヤ

律子「適役じゃない、ゆきぽ。お願いよ」

小鳥「そうそう。今まで全く役にたってないんだからそのぐらいはしてくれないかしら?」

春香「まぁそれでゆきぽの出した損害が帳消しになるわけじゃないけどねー」

千早「強くは投げないから大丈夫よ、ゆきぽ。やりなさい」

やよい「うっうー!鬼さんのお面も作ってあげます!」

伊織「まったく。損害もだして勘違いっ子の上に甘ったれなんて……やっぱり一番の迷惑者ね。あんたは」

ゆきぽ「うぇぇぇーん!ぽぇぇぇーん!; ;」ヤダヨー、ヤダヨー

口々に皆がゆきぽを鬼にしよう、と言い出す。罵倒や嘲笑も織り交ぜながら。

ゆきぽは嫌だった。悲しかった。

こんなことになるなんて思っていなかった。そんな目で見られているなんて思っていなかった。

豆まきをするなら、自分も皆にまじって鬼役の誰かに豆を当てる方だとばかり思っていた。まさか、自分が鬼役だなんて思ってもみなかった。

ゆきぽ「ぽぇぇぇーん、ぽぇぇぇーん; ;」

P「ま、頼んだぞゆきぽ」


節分当日


P「さ、今日は豆まきをするぞー!」

アイドル「「「はーい!」」」

P「鬼役はもちろんゆきぽだ。さ、ゆきぽ、来なさい」

ゆきぽ「ぽやぁぁ……; ;」フルフル

P「ほんとわがままだなー…ほら、早く」グイ

隅で震え泣くゆきぽをPが引きずってくる。ゆきぽは首を振って泣きながら、嫌だ嫌だ。鬼さんの役なんて、ゆきぽやりたくないよ。誰か代わってよ。と言っている。

しかし皆の意見は一つ。
鬼役はゆきぽで決まっているのだ。

P「さぁ、これつけて。やよいの手作りだ」スポッ

ゆきぽ「ぽええ…!ぷぃやぁぁぁぁー!ぽやぁぁぁぁ!」ジタバタ、パシッ

P「…はぁ…まったく」ハァ

Pがゆきぽの頭に無理矢理やよいお手製の鬼のお面をかぶせようとする。

ゆきぽはやめて、嫌だよ、と泣きながら被せられたお面を外して床に叩きつけた。

そのお面が自分が嫌われている証みたいに思えたのだ。

触っているのも嫌だった。

真「はぁ…もう始めちゃいましょうよプロデューサー」

雪歩「お面は顔を守る役割もあったけど……軽く投げるから大丈夫ですよ」

あずさ「鬼のお面は記念に事務所に飾るといいんじゃないかしら?」

亜美「お、ナイスアイディア!」

真美「やよいっちの力作だもんね!それがいいよ」

響「じゃあ早く豆まきしようよ。片付けの時間もあるしさ」

貴音「そうですね。いくら嫌がってもゆきぽが鬼役なのは揺るがぬ事ですから。それに早くぴぃなっつも食べたいですしね」ポリポリ


P「ふむ、そうだな。じゃあ始めるか」

ゆきぽ「ぽえぇぇぇぇ!ぽやぁぁぁ!」イヤイヤ、イヤイヤ! タタタッ

P「大丈夫だ。痛くないから……皆豆は持ったか?」

アイドル「「「はーい!」」」ザッ

ゆきぽ「ぱうー、ぱうー!」ヤダヤダ! ウズクマリ

ゆきぽは隅に行くが、それを追ってアイドルも来た。両手いっぱいに豆を持って。


P「よし。それじゃあ、鬼は外、福は内!」ブン

春香「鬼は外、福はー内!」ブン

千早「鬼は外、福は内!」ブン


パチチ、パチパチ


ゆきぽ「ぱぅぅぅぅ!; ;」ヤダヨー!

律子「鬼は外、福は内!」ブン

やよい「おにはーそと、ふくはーうち!」バッ

伊織「ゆきぽは外!福は内!」ブンッ

パチッ、パチチチッ

ゆきぽ「ぷやぁーーーっ!」ヤメテヨー!

小鳥「ゆきぽは外、福はー内」ブン

真「ゆきぽは外!福は内ぃ!」ブンッ

雪歩「ゆきぽは外ぉ、福は内ぃ」パッ

ペチ、ペチチッ!

ゆきぽ「ぅえぇぇーん!ぇぇぇーん!; ;」モウヤダヨー!


一斉に豆が投げられる。
鬼に向かって、ゆきぽに向かって。

投げる力は非常に軽く、豆の威力は無いに等しい。
Pの言っていた通りゆきぽの身体は痛くも痒くもない。

しかしゆきぽは悲鳴をあげる。

確かに身体は痛くない。全然痛くない。

でもその代わり、心が痛かった。
ズキズキ、ズキズキと、柔らかい身体にパチパチペチペチと豆が当たるたびに激しく痛む。

豆は身体には無害だったが、ゆきぽの心はそれによってズタボロにされていった。まるで弾丸で撃ち抜かれたかのように。

豆の一粒一粒がゆきぽには自分に対する拒絶や嫌悪に感じられた。

弾丸はまだまだ放たれる。

あずさ「ゆきぽは~外~、福は~内~」ブン

亜美「ゆきぽはぁー外ー!福はぁー内ー!」ブンッ

真美「ゆきぽはー外ぉー!福はー内ぃー!」ブンッ

響「ゆきぽはー外ー!福はー内ー!」ブン

貴音「ゆきぽは外、福は内!」バッ

パチチ、ペチチチチ

ゆきぽ「ぽぃやぁぁぁぁ!ぽえぇぇぇぇぇ!; ;」ダダッ


突然、ゆきぽが走り出した。泣きじゃくりながら、ドアに向かって。


ゆきぽ「ぱぅぅぅぅぅ!; ;」ブンッ!

ドガァーンッ!

P「ゲッ!」

ドアがゆきぽのスコップによって破壊される。
Pの顔が青ざめた。

ゆきぽ「ぽえぇぇぇぇーん!ぽえぇぇぇぇぇぇぇーんっ!; ;」ダダダダッ……


ゆきぽはドアに空いた穴から階段を降りて外に出て行った。
悲しそうに、苦しそうに泣きながら。
その悲しみに歪んだ顔は、見ようによっては鬼のそれかもしれなかった。


P「ああ…またかよ…」ガックリ

律子「福は内じゃ…無かったですね…」

小鳥「あははは…はは……はぁ」

ゆきぽが開けた穴を見ながらP達が嘆息する。


だがこの時、すでに福は事務所に訪れていた。

何故なら、今しがた出て行った鬼、つまりゆきぽはもう戻ってこないのだから。

一時間経っても一日経っても、一週間経っても一ヶ月経っても、戻ってこないのだから。

もう穴を掘られることも、何かを壊されることもない。

邪悪な鬼が豆によって滅されるのと同じく、ゆきぽにも豆は効果抜群だったのだ。

しっかりと鬼は外に出され、福は内に舞い込んだ。
事務所には安泰が訪れたのである。



その後、ゆきぽの姿を見た人はいない。



おしまい

  • 最終更新:2014-11-11 06:10:57

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